(美女に囲まれた是枝裕和監督)
『海街diary』が、
先月開催された「第39回日本アカデミー賞」で、最優秀作品賞、最優秀監督賞、
最優秀撮影賞、最優秀照明賞の4部門を制した。
観そびれていたので、Amazonでダウンロードして鑑賞した。
いまは、こういうことが可能になったのだと感心。
さて、物語は・・・
海に面した古都、鎌倉が舞台。
日本家屋に三姉妹が暮らしている。
父は15年前に愛人のもとに去り、母も再婚して家を出た。
そんな折、父の訃報(ふほう)が届き、腹違いの妹が一緒に暮らすことになる。
几帳面で母親的存在の長女(綾瀬はるか)は、
身勝手な両親を許すことができないでいる。
奔放な性格の次女(長澤まさみ)は、恋愛が多いがうまくいかない。
屈託のない三女(夏帆)は、風変わりな恋人とうまく付き合っている。
一方、腹違いの妹(広瀬すず)は、
亡くなった実母が姉たちの父を奪ったことに罪悪感を抱いている。
やがて、姉たちは妹の存在を通して父母のことを受け入れ、
妹は姉たちとそれぞれの関係を深め、
その気持ちをくみとって自分の生を肯定していく…。
父親も母親も家を出て、女4人だけが残されている境遇は、
ドロドロしたドラマにもなるところだ。
だが、古い日本家屋で、季節と食が結びついた生活をする。
今を生きる4人が、
ちゃぶ台を囲み祖母や父親の思い出の料理をおいしそうに食べる。
同じ時間を重ねて、4人は家族になっていく。
登場はしないが、
既にこの世を去った父親や姉妹の祖母の存在が強く意識される。
「祖母や父親というように、誰かが必ず誰かの影と重なっている」。
死者は過去の中に消えていくだけでなく、
生きている者のそばで影響を与え続ける。
淡々と綴られる日常の中に、登場人物の人生ドラマが重なり合って
魅力的な世界が展開する。
吉田秋生(よしだ・あきみ)の漫画を是枝裕和監督が脚色、映画化した。
監督の過去の作品『誰も知らない』のように
親に見捨てられた子どもたちの物語であり、
『そして父になる』のように新しい家族を作り上げる再生の物語でもある。
是枝作品は、往々にしてテーマが先行する。
明確なコンセプトのもとに構成やせりふを作り込む。
しかし、今回はいつものスタイルとはちょっと違う。
アピール感を抑え、ゆるさを許し、ふんわりした自然な空気を作り出そうとする。豊かな鎌倉の四季の移ろいに溶け込んださりげない日常の描写には、
温かな情感が感じられる。