いつも静かに笑っている。
いつも静かに怒っている。
いつも静かに哀しんでいる。
この人の歌うことばが、しみじみ心に沁みるのだ。
大きな声を張り上げなくても、想いは伝わることを教えてくれる。
この人は、伝え忘れてはいけないことを歌い続けている。
小室等さん。72歳。
10年先の道しるべ。こういう風に年を重ねられたらいいなという目標だ。
昨夜の恵比寿アートカフェフレンズのトークライブには、
小室等さんをお迎えした。
いつものような大爆笑はなかったが、
みんなで「日々の暮らしを大切に平和であること」に想いを馳せた。
オープニングは『だれかが風の中で』。
上條恒彦さんの歌とは、まるで別世界。
本当に、どこかで誰かが待っていてくれると思えてくる。
『遥かな愛』『あの素晴らしい愛をもう一度』
小室さんにしては、珍しいラブソングを歌っていただいた。
せつないが、ぬくもりがある。救いがある。
後半は、少し硬派な話。
今年は、チェルノブイリ事故から30年。
事故から6年後8年後、2回にわたってベラルーシに行った経験談を
写真を見ながら語っていただく。
見たこと聞いたことを説教くさいと言われても言い続けねばならないと、
フクシマのあと、痛切に思うと小室さん。
谷川俊太郎さんの詩『死んだ男の残したものは』は、
ボクの朗読に続いて歌。ことばが粒立つ。
ラストは、黒田三郎の詩に小室さんが曲をつけた『道』。
右に行くのも左に行くのも自由という歌を聞きながら、
自由が束縛される窮屈な世の中になってきた今、
自由を守る自己責任が問われていると感じていた。
小室さんは、今の時代を「輝く今日」とは言い難いと思っている。
だが、「また来る明日」のために、
なんとしても今日を輝くものにしなければと思っている。
決して自分自身の現状に満足しないことが、
佳き年の重ね方に繋がっているのかもしれない。
会場の声から…。
「小室さんの心地よい声が、ふやけた心に沁み渡った」
「セクシーで、魂を感じた」
「飄々とした会話、ウイットに富んだ会話の中に、深みのある言葉、
怖いくらいの迫力も感じた」
「静かなことばの中に強い信念を感じた」
「同じマンションに住んでいるが、ナマ歌を初めて聞き、胸に迫った」
「深く温かい歌に酔いしれた」
「訴求力のある歌、自然体の口調。いい枯れ具合」
この夜の聴衆は「輝く今日」が過ごせたようだ。