共通善 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。



佐藤優さんの新刊『ズルさのすすめ』、得るところの多い本だ。

眼光鋭い顔に、知らない人はビビリそうだが、

実は、とても心根の優しい人だ。

この本でも、随所で、その人柄が感じられる。


「共通善」ということばが紹介されていた。

初めて知ったことば。

ハーバード白熱教室で知られるマイケル・サンデル教授のことばだ。

共同体には、みんなが暗黙で共有する価値「共通善」があるというのだ。

共通善とは、「みんなが幸せに生きるために、みんなにとって善いもの」。

共通善に従って思考し行動することで多くの問題は解決出来るというのが、

サンデル教授の考え方だ。

その根本には、「人はわかり合える」という大前提がある。

嬉しいことばの種まきおじさんとしては、大いに我が意を得たりという感じだ。

「何をやってもムダだ」「自分たちの力では何も変えられない」という

ニヒリズムを打破することが出来る。

いきなり国を二分するような大問題に立ち向かい、反対運動を組織化して、

大規模なデモをするやり方もあるだろう。

純粋な動機で始まっても、尖鋭化したり組織内の対立が起きたりしては、

何にもならない。

だが、小規模な共同体の仲間と「共通善」を前提に向き合えば、

解決の道標が見つかるはずだ。


自分だけで自分探しをしても、本質は見えてこないと佐藤さんは言う。

自分探しに七転八倒するくらいなら、他者と向き合ってみたほうがいい。

他人の評価が自分に跳ね返り、自分の存在意義を感じることが出来る。

ことば磨き塾で「嬉しい他己紹介」のワークショップをしているムラカミとしては、

またまた我が意を得たり。


「倍返し」ということばが、小学生にまで流行ったことを

佐藤さんは憂える。

憎しみの連鎖が収まらない現状を憂える。

世界の紛争が収まらないのは、

やられたらそれ以上にやり返さないと気が済まないという

負のスパイラルに陥っているからと断じる。

「やり返さない」という選択が出来るかどうかにかかっている。

ハンムラビ法典に

「目には目を 歯には歯を」という有名な一節があるが、

これは、やられた分しかやりかえさない、倍返しはしないということを

説いている。

新約聖書「ローマ信徒への手紙」12章19節に、

「復讐するは我にあり」ということばが出てくる。

我とは神のことである。

つまり復讐は人間がするのではなく神が行うものだから、

神の怒りに委ねよということだ。

人間同士が復讐し合ってはならない。

人間が人間に復讐する権利はない。

悪をもって悪に、侮辱をもって侮辱に報いてはならない。

善をもって悪に打ち勝つ。

ここでも「共通善」が出てくる。

佐藤さんは、善の人だ。

でなければ、512日も拘置所にいられないだろう。


逮捕される云われはないという己の善を信じていたから、

512日間も精神的に耐えることが出来たのだろう。