信州上田に来ている。
きょうは、3月に亡くなった母の誕生日だ。
生きていれば84歳になる日だった。
そして、この上田は、6年前に亡くなった父の青春の地であった。
学徒出陣から戻った戦後まもなくのこと、父は上田の製紙会社で働いていた。
若き日の父は、この地で、京都に住む母のことを想っていた。
実は、母が亡くなった日、
遺品の中から、上田の消印のある手紙が何通も出てきたのだ。
父から届いた「恋文」を大切に保存していたのだ。
息子のボクが読んでも
顔から火が出るくらい照れくさい文章で、率直な母への想いが綴られている。
文学青年だった父は、
母への想いを伝えるため、必死になって文章を綴ったことが窺える。
「この手紙を読んではならない」という書き出しで始まる手紙は、
ずっとその繰り返しだ。「読んではならないといっているのに、
あなたは、ここまで読んでしまいましたね」・・・
「もうここで読むのはやめましょう」「まだ読んでいますね」・・・
便箋2ページにわたる繰り返しの末、
「とうとう、最後まで読んでしまいましたね。僕はあなたが大好きです」
そう結んである。
父は、晩年、身体の自由がきかなくなった母の介護を懸命にしていた。
縦のものを横にも出来なかった父がである。
この手紙を読みながら、その理由がわかった気がする。
愛ゆえなのだ。父は母をこよなく愛していたゆえなのだ。
雨に打たれた緑が鮮やかで綺麗だ。
車窓から上田の景色を眺めながら、若き日の父に想いを馳せた。
母の誕生日に、父ゆかりの上田に来たのは、偶然でないような気がする。
(戦没画学生慰霊美術館「無言館」への道)
きょうは、上田市で、組曲「無言館」を披露するコンサートがある。
合唱の合間に、朗読をさせていただく。
無言館館主の窪島誠一郎さんと対談もする。
上田市丸子文化会館セレスホールで午後2時開演。