ボクも高校野球の実況中継をしていたときがあった。
名古屋放送局時代、熱田球場で、
愛工大名電高校の試合を中継したことがある。
そのとき、4番でエースで七割を打つすごい選手がいた。
鈴木一朗と言った。
イチローとして活躍するようになって、
それが同一人物とわかるまで、しばらく時間がかかった。
あのイチローの実況が出来たことは、ボクの誇りだ。
そのイチローが日米通算4000本安打を達成した。
その談話がすごい。
「こういうときに思うのは、
別にいい結果を生んできたことを誇れる自分ではない。
誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、
8000回以上は悔しい思いをしてきているんです。
それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、
誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね」
4000という金字塔にだけ目を向けず、8000という有意義な無駄を語れる。
だから、イチローは並大抵な選手ではないということだ。
栄光の陰には、普段(不断と書いたほうがいいかも)の努力がある。
ストイックに積み重ねる「日々の決まりごと」。
これがいざというとき瞬発力を生む。
イチローは、打席に立つ前に、相撲の四股を踏むように脚を広げ、
肩を交互に内側にひねる動作をする。
守備についているときも、肩の筋肉をほぐしたり、腰をひねったりと、
わずかな時間をみつけて、ストレッチをしている。
この繰り返しが、ケガをしにくい身体を作っている。
打席に入るとき、スキップするように、前に2、3歩跳んで
バットを振る動作をする。
このしぐさにも、重心を整える効果があるらしい。
イチロー独特の身体感覚が、4000本の蓄積を生んだ。
なにごとも「いきなり」得ることは出来ない。
「ありきたりに見えること」「同じことの繰り返し」「小さなことの積み重ね」が
ありきたりでないこと、二度とないこと、大きなことを生む。