なんという運命のいたずらだろうか…。
女優・小山明子さん、20年ぶりの舞台公演前日に、長年に渡って介護してきたパートナーの大島渚監督が逝った。悔いはないと言って、看取ったあとも舞台稽古に行ったそうだ。
確かに、じっくり介護してきたという思いはあるだろうが、その喪失感を思うと、言葉がない。
今回は、明治の毒婦と言われた高橋お伝の役。若い女優2人と一緒に演じる。
らい病に侵された夫、高橋波之助を献身的に看病するところは、否応なしに現実と重なる。「亭主のため、女房が苦労するのはあたりまえ」という台詞が胸を打つ。
ほとんど舞台に出ずっぱり。淡々とした落ち着いた台詞が、かえって迫力を感じさせる。
事前に「お客様が腰を抜かすような魂を奪われるような舞台にしたい」と抱負を語っていた小山さん。
その女優魂に、まさに魂を奪われた。並大抵の精神力ではない。すごい。
台詞覚えは、夫の病室でしたという。それを聞いていた渚さんは、自由の身となり、劇場のどこかでニヤニヤしながら見ていたに違いない。
『女のほむら』は、20日まで、池袋の東京芸術劇場シアターウエストで上演中。