誰に望まれていなくても





年老いたブラウンの椅子は
あの人を待ってる


あたしは
黒髪を銀のハサミでまっすぐに切る


あの子は
ウサギのように白い肌にピンクのチークをひく


エメラルドの瞳をしたノラ猫は
あの時ちぎってしまったチェックのリボンが似合ってた


パステルでいたずらした小さな手は
夢見る色をしてた


楽譜のキライなピアノは
終わらない歌を歌った


食べかけのキャンディは
砂の粒で光をコラージュしてた


負けず嫌いの彼は
大人になってもコーヒーよりホットミルクが好きだった


寂しがりやの小鳥は
水鏡に双子がいるのを知っていた


魔法の使えない指先は
曇ったガラス窓に時間を止めてくれるおとぎ話を話した





昨日の雨粒より小さな種でも
また赤い実を作るから
“大丈夫だよ”って言ってくれた



誰に望まれていなくても


大丈夫だよ

あなたはステキ

世界は小さな粒で煌めいてる
あなたに出会って
今も傷むキズができました


それは

「出会わなければよかった」

なんて言ってしまいたいのに
なぜか
愛しいもの



あなたを思うだけで
毎日が楽しくなった

隣りにいるだけで
幸せを感じていた

何もいらないなんて
強くなれた気がした

優しくなりたいとか
前向きになって自分を
愛してあげようって思える気がした



キラキラするような人生をもらった気がしたの



だけど
その続きに 焦がれてた「ずっと」はなくて


今までの眩い毎日が全部
滴になって
こぼれ落ちて

そして
全部

つまらなくなって
不幸になって
弱くなって
後ろ向きになって
自分を愛せない?



そんな風になったら
誰だって
愛してあげられないね



あたしもっと
あなたが支えてくれなくても

ちゃんと立てる



だって
ちゃんと立たなきゃ
今すぐ
もう二度と立ち上がれなくなっちゃいそうだし

あたしには
あなた以外にも
付き合ってくれる世界があるし



実は
あなたにもらった幸せが
消えずにあたしを支えてるの


こぼれ落ちたのは
幸せすぎた毎日に甘やかされた心


でも
あなたが思ってる以上にあたし
とても人を愛せる能力がある



このキズが何よりの証明になるでしょう



一生懸命愛した
日々に
心に
罪も悔いもない



貶して
キズ付けたくなってしまうけど

誰も何も
悪くはない
分かってる



まだ あたし
あなたの思うツボなのかなんて考えると
悔しくなるのに

また 笑顔
思い出しては適わないなんて諦める
悔しくなるのに



愛する重さは
すこし
傷みに変わる



愛される重さは
すこし
傷み変わる
雨音に耳を澄ませ
遠い日に還る

誰にも聞こえない場所から始まる



飛ぶことを夢見るほど
すべては残っていなくても

時間が過ぎた分だけ
このファインダーが傷だらけなだけ


生きることにしがみつき
踏みとどまろうとする足のがめつさを
今は
生命力と呼べるだけ



迫るものは
避け



追跡するときは
背しか見えず



そんな気がしていた





後ろを振り返れば
たくさん足跡が
誰かに出会い
何かを失って
たくさんを得ていた



そして
力強く踏み込まれて
跡になっていた



いつのまにか
幼い足は
いなくなっていた