私の専門はバレエなので、やはり眼が神楽の踊り手の動きを追うことになる。
この古来から伝わる大神楽は、33年に一度催されてきたという。
複雑なステップでなくても、きちんと数人でそろえて踊られる「踊り」は
どうやって継承してこられたのだろう。 踊り手の技術といい、振付といい、
あまり間をあけずに練習しなくては身につかないし、覚えてもいられないような気が・・・。
佐々木先生からの答えは、印象的だった。
数年に一度の小神楽や発表会があって、間をつないでいること以外に、この動きは
日本人にとって、「遺伝子が覚えている」ような動きで、決してやりにくいものではない。自然にできてしまうような動きであり、覚えておくのも難しくないと。

バレエは、日本に古来からあった動きではない。
本格的に日本に根づいたのは戦後のこと。それまでのはるかな歴史と比べるとまだ
ほんのわずかな期間といっていいと思う。
私たちは意識的に繰り返し、練習して体内の「動きのつながり」を作り変える作業を
しているのかもしれない。
覚えにくく、忘れやすくてもなんの不思議もない。

でも子どもたちの体型は短期間で劇的に変化してきている。
たたみのある生活から離れて、ひざは小さく、重心は高く。
その身体の中でも先祖の遺伝子が「西洋の踊り」に違和感を覚えているのだろうか?



古い木のフロアの片側に備え付けのバーカウンター、反対側には本棚。
スクリーンの見える位置に椅子が置かれて、ぼちぼちと人で埋まっていく。そこへ
宗教人類学者の植島啓司先生と、東京芸大の伊藤俊治先生も入って来られた。
飲み物や食べ物も自由に取りに行って、といわれるけれど、こういう場面では
なぜか皆、借りてきた猫のようになってしまう。(この古風な表現にあまりなじみがない方へ:慣れない環境で危険回避のためにじっとおとなしくしているようすです。)
本当の神楽のように、畳の上で毛布にくるまったりするとよいのかな。

明かりがすっと落ちて、また室内の雰囲気が変わる。
照明は、落ちる瞬間が最もエキサイティングだと私は思う。劇場や映画館で、
一番うれしくなる瞬間。
神楽は一昼夜続くらしいが、(昔は4昼夜!)佐々木先生の美しくコンパクトな映像と
おだやかなナレーションで、飽きることなく見入ってしまう。 続く。
3月の肌寒い日の夕暮れ、友人と待ち合わせて「比婆神楽」のドキュメンタリー映像の上映会に出かけた。
作者は多摩美術大学准教授の佐々木成明さん。 地下鉄緑橋の駅から歩いて、古い印刷工場の前に出た。
地図では、会場はここのはず。ここだよね・・・なんだか刑事もののドラマで、犯人が隠れていそうな建物に見える。
入り口らしき引き戸をそっとあけると、いきなりはしごのような階段。もし会場が間違いで、上でこわい集会をやっていたらどうしよう。「先に入って。」友人が後ろからきっぱりと言う。友人は私より足が遅い(たぶん)。
どうやって助けるか考えながら、きしむ階段を上がると、いきなりほのかな明かりに照らされた、暖かな空間が広がった。何人かの知人が、笑顔で迎えてくれる。 
ここは、ハナムラチカヒロさんというクリエーターが主宰されている実験スペースで、映画や演劇などさまざまな表現を発信するサロンだそうだ。なんだかニューヨークを思い出した。ニューヨークも、観光地以外は、中を想像しにくい
グレーのビル群がたちならんでいる。でもひとつドアを開けると、一流のバレエ団が稽古していたり、ヨガの先生がお香をたいていたり、とてもビビッドな空間が広がっている。 
大阪にもこんなスペースがあるなんて。 ハナムラさん、こわがってごめんなさい。 以下次号。