【むげんほうよう】
夢と幻と泡と影。人生のはかないことのたとえ。仏語。

◇  ◇  ◇

まだまだ知らない人も多いと思うので声を大にして言っておくが、実は「サンタさん」なんて本当はいない

かねてからその存在に疑問を持っていた私だったが、毎年クリスマスの朝には枕元にプレゼントが置かれていたため、“いない”という確証が得られず、もどかしい日々を送っていた。

「ソリで空を飛べるワケない。」「どうやって大量のオモチャを確保できるのか。」「そもそもコレだけ多数の子供に一夜で配るのは無理がある。」などなど、理屈だけ考えれば辻褄が合うワケはない。

あるクリスマスイブ、私は素晴らしいことに気がついた。実際にプレゼントを置く瞬間の何某かを生け捕りにし、それがサンタさんでなければ「サンタさんはいない」という仮説が立証されるではないか。

そうと決まれば話は早い。家中の鈴をコッソリ集めた私は、釣り糸とそれを結んだ仕掛けを作った。鳴子というヤツである。それらを部屋の出入り口……と言っても、窓から来ることは絶対に無いだろうから、中の扉だけ……に設置し、侵入即確保を目論んだ。

そして夜。いつも9時に寝ていた私は、その日ももちろん起きていられるハズもなく、しかし鳴子があるから大丈夫と、少しドキドキしながら眠りについた。

「チリンチリン」
「あ、サンタさん」

深い深い眠りの奥底から、鈴の音が私を引き上げてくれる。しかし、その淵は思いのほか深く、簡単に目を開けられない。

「ゴソゴソ」
「あうあうっ」

ダメだ、目が開かない。しかし頑張らなければ。このままでは来年警戒されてしまう。

「スタスタ」
「あ、待って……」

そこでようやく目を開けた私の目には、見覚えのある背中が部屋のドアから出て行く姿が写っていた。生け捕りは叶わなかったが、やはりサンタさんなんていないことが証明されたのである。

翌年、サンタさんはもちろん、その見覚えある人物までも来なかった。
いらんことはするもんじゃない……。


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【せんしぎょくしつ】
並はずれた美人。

◇  ◇  ◇

例えばレバーを食べたら、それがそのまま肝臓になるのだろうか。

文部科学省の『食品成分データベース』によると、牛の生レバー100gあたりの成分は、水分:71.5g、タンパク質:19.6g、脂質:3.7g、炭水化物:3.7g、灰分:1.5g。ごく単純に言うと、タンパク質は筋肉や皮膚、その他の組織になり、脂質や炭水化物はエネルギーになる。その他の組織の中には肝臓も含まれるだろうが、当然それだけではない。

レバーがそのまま肝臓になるワケではないのである。


女性が大好きなモノに「コラーゲン」がある。

「コラーゲン配合!塗ればお肌プルプル!」
「この冬は絶対コラーゲン鍋。お肌トラブルとサヨナラ!」

こんな女ゴコロ狙い撃ちの化粧品や、居酒屋メニュー、加工食品などが巷には溢れている。そう言えば会社の近所に「コラーゲンうどん」なんてものまである。

しかしこのコラーゲンとやらは、本当に肌のためになるのだろうか。

三省堂の『化学小事典』『生物小事典』によると、コラーゲンとは、動物界に広く存在し、結合組織・体皮・腱・軟骨・じん帯などを構成する繊維状のタンパク質だそうである。なるほど確かに肌(体皮)に関係がありそうだ。

その組成は、グリシン・アラニン・プロリン・ヒドロキシプロリンなどのアミノ酸を多く含むのが特徴なのだが、ここで一つ問題がある。タンパク質は胃酸や酵素により、アミノ酸に分解されて吸収される。しかし、そこまで分解されたアミノ酸は、その後様々なタンパク質へと再合成される。皮膚になるとは限らないのである。「レバー≠肝臓」と同じことが言えるだろう。

コラーゲンはまた、水中で加熱するとゼラチンに変化する。このため、加熱調理された食品には、もはやコラーゲンなど入っていない。残念ながら“コラーゲン鍋”や“コラーゲンうどん”は、“ゼラチン鍋”や“ゼラチンうどん”なのである。

コラーゲンが入っていない以上、「コラーゲン食品=肌に良い」という図式には何の信憑性もない。どう落とし前をつけてもらおうか。

もう一つ、肌に塗布する化粧品は更にタチが悪い。なぜなら、人間の皮膚には、タンパク質を吸収する仕組みなどない。いくらコラーゲン配合クリームを塗布したところで、タンパク質であるコラーゲンが肌に効果的なワケがない。ワセリンか何かで保湿するほうが余程プルプルなのである。

コラーゲンの魔力恐るべし。違う意味でね。


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【ごぞうろっぷ】
はらわた。内臓。からだの中すべて。また、腹の中。心の中。五つの内臓と六つのはらわた。

◇  ◇  ◇

その頃の私は、連日の腹痛に悩まされていた。

あまりの痛みに医者の診察を受けたが、恐らくは胃だろうと胃薬を渡されただけ。それもあまり効果はなく、苦しみ続けていた。

意を決した私は、恐れていた胃カメラを飲むために再び病院を訪れることにした。

胃カメラ、なんと恐ろしい響き……。その昔歯科で歯型をとられたときにシコタマ嘔吐した私にとって、喉周辺への外的刺激は、ギロチンにも近い恐怖を抱かせる。ピッコロ大魔王が口から産卵するときの映像を、アニメであるにも関わらず直視できなかった程である。

そしてその日が来た。

前夜から絶食して臨んだ検査室では、まずスプレーの麻酔を喉に吹きかけられた。「飲み込んだらダメですよ」との注意も空しく、2秒後にはゴクリ……。しかし、次に凍らせた麻酔薬を与えられたので、さっきの“ゴクリ”は、まあ大丈夫だろうと淡い期待とともに、検査台へ召還された。

そこではまず、強制的に口を開け続ける機器をハメられた。随分と不愉快な機器だなあと思うや否や、黒い蛇状のヤツが私の体を侵し始めた。苦しい……吐く……止めどなく流れ落ちる涙とヨダレ。やはり“ゴクリ”はダメだったか……。

「ガンバってくださ~い」と女医の声。

こいつ、他人事だと思ってノン気に言いやがって……頑張るとか頑張らんとか、そんな状態ちゃうねんっ!藁にもすがりたい気持ちとは、こういうことなんヤっ!と、ひたすら悶え続けた。

と、そこで、まさにその藁のような救いの言葉が聞こえてきた。

「はい、頭を上に向け……」

ほう、頭を上に向けたら楽になるのだな。ヨシヨシ、楽になれるなら何だってしてやる!ということを0.002秒ぐらいで考え、私は即座に頭を上に向けた。しかしながら、そこで彼女が信じられない言葉を発する。

「……たら、危ないよっ!ナニしてんのっ!」

おいっ!キミは日々、反射神経をどこかに忘れてきたご老体ばかりを相手にしているのかもしれないが、コチラは抜群の反射神経を持ち合わせたピッチピチの男子だぞ!そんな言い方をしたら頭を上に向けるに決まってるではないか。禁止事項ならば、初めにそう言わないでどうする……。

検査の結果、私の胃は惚れ惚れするほど美しく、腹痛も大した病気では無いことがわかった。

そしてもう一つわかったことがある。
人にモノゴトを伝えるときには、言葉の順序に気をつけねばならない。間違えられたせいで死ぬところだったのだから……。


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