【ごぞうろっぷ】
はらわた。内臓。からだの中すべて。また、腹の中。心の中。五つの内臓と六つのはらわた。

◇  ◇  ◇

その頃の私は、連日の腹痛に悩まされていた。

あまりの痛みに医者の診察を受けたが、恐らくは胃だろうと胃薬を渡されただけ。それもあまり効果はなく、苦しみ続けていた。

意を決した私は、恐れていた胃カメラを飲むために再び病院を訪れることにした。

胃カメラ、なんと恐ろしい響き……。その昔歯科で歯型をとられたときにシコタマ嘔吐した私にとって、喉周辺への外的刺激は、ギロチンにも近い恐怖を抱かせる。ピッコロ大魔王が口から産卵するときの映像を、アニメであるにも関わらず直視できなかった程である。

そしてその日が来た。

前夜から絶食して臨んだ検査室では、まずスプレーの麻酔を喉に吹きかけられた。「飲み込んだらダメですよ」との注意も空しく、2秒後にはゴクリ……。しかし、次に凍らせた麻酔薬を与えられたので、さっきの“ゴクリ”は、まあ大丈夫だろうと淡い期待とともに、検査台へ召還された。

そこではまず、強制的に口を開け続ける機器をハメられた。随分と不愉快な機器だなあと思うや否や、黒い蛇状のヤツが私の体を侵し始めた。苦しい……吐く……止めどなく流れ落ちる涙とヨダレ。やはり“ゴクリ”はダメだったか……。

「ガンバってくださ~い」と女医の声。

こいつ、他人事だと思ってノン気に言いやがって……頑張るとか頑張らんとか、そんな状態ちゃうねんっ!藁にもすがりたい気持ちとは、こういうことなんヤっ!と、ひたすら悶え続けた。

と、そこで、まさにその藁のような救いの言葉が聞こえてきた。

「はい、頭を上に向け……」

ほう、頭を上に向けたら楽になるのだな。ヨシヨシ、楽になれるなら何だってしてやる!ということを0.002秒ぐらいで考え、私は即座に頭を上に向けた。しかしながら、そこで彼女が信じられない言葉を発する。

「……たら、危ないよっ!ナニしてんのっ!」

おいっ!キミは日々、反射神経をどこかに忘れてきたご老体ばかりを相手にしているのかもしれないが、コチラは抜群の反射神経を持ち合わせたピッチピチの男子だぞ!そんな言い方をしたら頭を上に向けるに決まってるではないか。禁止事項ならば、初めにそう言わないでどうする……。

検査の結果、私の胃は惚れ惚れするほど美しく、腹痛も大した病気では無いことがわかった。

そしてもう一つわかったことがある。
人にモノゴトを伝えるときには、言葉の順序に気をつけねばならない。間違えられたせいで死ぬところだったのだから……。


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