緑内障とはどんな病気?
人間の眼球の後ろ側の内張り部分を「網膜」といいます。
網膜はものを見るときに非常に大事な役割を果たす部分です。
網膜の奥の層には「視細胞」という光を感じ取る細胞が全面に存在しており、視細胞で感じ取った光の情報は、神経の線維を通って脳に伝わっていきます。
この神経の線維は網膜の表面に近い層を通って、「視神経乳頭」というところに集まって束になり、眼球の外に出ていきます。
眼球の外に出た神経線維の束が「視神経」です。
視神経は脳につながっていて、視細胞由来の光の情報は視神経を介して脳に伝わります。
緑内障とは、この光の情報を伝えている神経の線維が、部分的に抜けていくことを指します。
緑内障による症状、形の変化と機能の変化
緑内障が進行することによって起こる「眼の形の変化」として、神経の線維が抜けた部分の網膜が薄くなり、視神経乳頭のへこみが大きくなることが挙げられます。
「眼の機能の変化」としては、神経の線維が抜けた部分に相当する視野が欠けます。
網膜は痛みを感じない場所なので、神経の線維が抜けることに伴って痛みを感じたりすることはありません。
緑内障の気付きにくい“初期症状”
通常の緑内障の初期の視野変化は、真ん中ではなく端の方から現れます。
その為、初期の症状に自分で気付くことは非常に困難です。
気付かぬうちに症状が悪化してしまっていた、ということが多くあります。
緑内障になる原因は?
緑内障になる原因は、そのすべてのメカニズムがはっきりわかっている訳ではありません。
「眼圧が高いほど緑内障が起こりやすく進行が速くなり、低いほど進行が遅くなる」という事ははっきりわかっています。
眼圧とは、眼球を中から外に押す力のことです。
日本人の眼圧の平均は14mmHgくらいですが、これより低いから緑内障にならない、ということではありません。
眼球を中から外に押されることによって、神経線維の眼球外への出口である「視神経乳頭」が傷んでいくと考えられます。
しかしこの視神経乳頭の丈夫さには個人差があり、眼圧が平均よりかなり高くても緑内障にならない人もいれば、平均よりかなり低くても緑内障が進んでしまう人もいます。
つまり、一概には言えません。
あくまで上記のような傾向があるということになります。
眼圧が高くないにも関わらず、緑内障になってしまう人の割合には人種差があります。
日本人はこの割合が高い、要するに人種的に視神経乳頭があまり丈夫ではない傾向があると考えられます。
緑内障の治療法
緑内障の治療では、主に眼圧を下げることをしていきます。
ただし、現在のところ抜けてしまった神経線維を元に戻す方法はありません。
すでに失われた神経線維をもとに戻すことではなく、これ以上症状が進まないようにすることが目標です。
治療法では、「眼圧を下げること」以外に科学的に効果が証明されている方法は今のところありません。
さらに、前述の通り視神経乳頭の丈夫さには個人差があるため、進行が止まる眼圧も個人ごとに違っています。
視神経乳頭の丈夫さを直接測定する方法はないので、どこまで眼圧を下げればいいかは、治療をしていかなければわかりません。
さらに、眼圧は変動するので、受診時に測定した眼圧がずっと保たれているわけではなく、実際の平均眼圧はそれより高いことも低いこともあり得ます。
そしてさらに複雑なことに、この緑内障の進行に直接関与する「眼球を中から外に押す力(眼内圧)」を直接測定することは困難です。
実際の日常診療では「眼球に外から力を加えたときの変形しやすさ」を測定して眼圧としています。
眼球の変形しやすさは、眼内圧や眼球壁の硬さに影響されます。
つまり、同じ人の測定値の高い低いはその人の眼内圧の上昇下降を表していると考えられますが、眼球壁の硬さが異なる他人との眼圧測定値の比較は眼内圧を比較していることにはなっていません。
眼圧の値だけで比較することが出来ない、ということです。
したがって緑内障の実際の治療は、数値として眼圧をここまで下げるということよりも、実際に視野欠損の進行が進まなくなるまで下げるということが本質的であるといえます。
日本眼科学会のガイドラインでは目標眼圧の設定がありますが、あくまでも目安ととらえた方が理屈にかなっていると思われます。
眼圧を下げる方法
眼圧を下げる方法としてまず最初に試みることは点眼(目薬)です。
症例によって様々なバリエーションがありますので例外はありますが、通常は緑内障の視野変化が確認され進行していると判断したら、まず1種類の点眼を使っていきます。
その点眼により、本当に眼圧が下がっているかを確かめます。
そしてある程度期間をとって視野検査をして、以前の視野検査の結果と比較します。
進行していなければこの眼圧で進行しないと判断して点眼を継続します。
進行していたらまだ眼圧が下げたりないことになりますので、さらに点眼を追加します。
上記を症状が進行しなくなるまで繰り返します。
眼圧を下げる点眼の種類には限りがありますので、全ての点眼を使用しても進行を止められない場合に、さらに眼圧を下げるために手術やそれに準ずる処置を考慮します。
緑内障の手術とは?
緑内障の手術は治す手術ではなく眼圧を下げる手術です。
手術は侵襲を伴うものであるため、従来はできれば避けたい、投薬だけではどうしてもだめな場合の「やむを得ないもの」という位置づけでした。
近年、より低侵襲な緑内障手術がいくつも開発され、現在フルメディケーションに至る前に導入することのメリット、デメリットが検討されているところです。
緑内障治療は効果実感がしにくい
緑内障の治療の難しい点は、実感にほぼ反映されないところにあると思います。
初期の緑内障は自覚症状を供わないため、まずそもそも自分が緑内障であることを実感できません。
初期の間の視野進行も実感できません。
従って、進行が停止したことも、点眼して眼圧が下がったことも実感できません。
しかし点眼による副作用は実感できます。
メリットが実感できないことに対して定期的に点眼を続けたり通院を続けることは苦痛を伴います。
しかし実感できるまで症状が進行したら、その症状を治すことができないのが緑内障の恐ろしいところです。
定期的な検査が最も大切
緑内障を初期に発見するためには、自覚症状が全くなくても定期的に検査する以外に方法はありません。
日本人の場合、40歳以上の方の5%が緑内障であることが分かっています。
それより若い方の発症はないわけではないですが、とても珍しいです。
一つの目安として、40歳以上の方で1年以上眼科健診を受けていない方は自覚症状の有無は関係なく健診もしくは眼科受診をした方がいいと思います。