結膜炎 | 西早稲田眼科のブログ

西早稲田眼科のブログ

西早稲田眼科のブログです。
眼のことやクリニックのことについて発信していきます。

はじめに、みなさまに伝えたいこと


結膜炎という言葉はそのままで、結膜の炎症を意味します。

誤解をされている方が少なくないようなのでまずお伝えしたいのですが、「結膜炎」は非常に広い範囲の疾患を含む総称のような言葉ですので、診断名としてはほとんど意味がありません。

オーバーに表現すれば「あなたは病気」と言っているのと大差ありません。

結膜炎は多種多様の原因で起こり、原因によって治療法も異なります。

充血と目ヤニという症状があればそれはほぼ結膜炎であり、あまり疑問の余地はありません。眼科医に求められているのはこの結膜の炎症が何によって引き起こされているのかを診察により見当をつけて、過不足のない治療を行うことです。

診察の初めに症状をうかがうのですが、「今日はどうされましたか?」というこちらからの質問に対し、「結膜炎です。」「結膜炎だと思います。」といったお返事が返ってくることがあります。

このような答えは結膜炎の原因を追究するためには意味がないものとなっております。
このような場合、具体的な症状について再度お尋ねすることになりますが、ごくまれにご立腹される方がいらっしゃいます。

問診は候補として考えられる疾患を絞って無駄な検査を省くことにつながりますし、特に結膜炎の場合には非常にうつり易いものが含まれていますので、これを否定しないとその後の検査が著しく制限されます。

快くご協力いただけると患者さまの無駄な労力を省くことができます。

一番問題なのは眼科医の中にかなり単純な診療を行っている人が少なからず存在することです。

典型的なパターンは、

「前医で結膜炎の診断のもと抗生剤とステロイドの点眼を処方されて使っているけど治らない。」

というもので、「結膜炎の原因は何といわれましたか?」と尋ねると「何も言われていない」というお返事を頂きます。

この場合、本当は前医で適切な説明がされているにもかかわらず聞いていなかったとか忘れてしまったという可能性もありますのでこれだけで一方的に判断はできませんが、もし眼科を受診して「結膜炎」と診断されてそれ以上の説明はされず抗生剤とステロイドの点眼を処方された、というようなことがあった場合には、診療内容に疑いを持ってもよいのではないかと思います。


結膜炎はどんな病気?


「結膜」とは眼球の白目(強膜)から瞼の裏側にかけての表面を覆う薄い膜を指します。
※眼の表面、粘膜のうちの黒目(角膜)以外の部分です

その結膜が組織破壊を受けた時、その破壊に対して組織を修復するための生体の反応が「炎症」です。


結膜炎の症状と治療について


結膜炎は様々な原因で起こり、結果として多種多様な状況を引き起こします。

結膜炎に対する治療の本来の目的は症状を緩和させることではなく、炎症の原因を解消することです。
※根治的な治療が困難で、苦痛を和らげることを目的とした治療を選択せざるを得ないということもあります


原因治療が必要な理由


原因治療とは炎症の原因を解明し、可能な限りその原因を解消することです。

例えば、結膜炎の典型的な症状である充血(血管が拡張した状態)についてですが、市販薬にも効能として「充血」をうたっている目薬が存在します。
塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリンといった成分を含有するものです。

これらの成分は血管収縮剤であり、充血の原因が何であれ効果を発揮します。
しかし原因を解消したわけではないので効果が無くなると再度充血し、リバウンドのためむしろ悪化することもあります。

これを改善させるためにまた同じ点眼を使い続けると、血管が拡張したまま戻らなくなることがあります。
短期的には見かけ上の充血を改善させますが、本来の病気の症状をマスクしているだけなので、実は「治っていない・悪化している」という可能性もあります。

つまり、血管収縮剤の点眼の効果は完全に対症的であることを念頭において使用する必要があるということです。

もう一つの結膜炎の典型的な症状である目ヤニに対して、盲目的に抗生剤の点眼を使用していることがよくあります。
しかし目ヤニの原因は感染症だけではないため、全く意味のない投薬になっている可能性があります。

抗生剤の無意味な長期投与や乱用は、耐性菌の発生の原因となり得るので極力控えるのが望ましいとされています。
目ヤニは様々な原因で生じ、原因によって性状が変化します。

やみくもに目ヤニの量を減らすことを目指すのではなく、目ヤニの性状を参考にした上でその原因を解明することが重要です。

対症療法は、短期的な成果のみを追求した場合、原因治療よりも優れた効果を発揮することは多々あります。結膜炎では、対症療法のみで実際に解決してしまうことがほとんどかも知れません。しかし原因が解決していなければまた同様の症状を繰り返す可能性があり、中には初期に適切な治療をしなかった結果として重篤な状態を引き起こしてしまうかもしれません。結膜炎に限らずあらゆる疾患の治療は、可能な限り原因治療を目指すことが理想です。


結膜炎の種類

 

結膜炎はその原因から、「感染によるもの」「アレルギーによるもの」「その他」に分けられます。


●感染による結膜炎


感染性結膜炎は病原体による感染が原因の結膜炎です。
病原体の種類は「ウイルス」「細菌」「その他」に分けられます。


1)ウイルス性結膜炎


結膜炎と思しき症状の訴えがあった場合、まず最初に「はやりめかそうではないか」を考えます。

「はやりめ」は非常に感染し易い結膜炎の総称で、その代表的なものがアデノウイルスが原因の流行性角結膜炎です。

流行性角結膜炎は医療従事者の手指や検査器具などを介して感染し得るので、感染者の検査を通常通りにしてしまうと、その後に検査を受ける方に感染してしまう可能性があります。

そのため、流行性角結膜炎の診断がついた場合はその時点でよほど重症な他の疾患の合併を疑わない限り、検査を終了しなくてはなりません。

高度な結膜の炎症所見、もしくは周囲に同様症状の人がいる場合に流行性角結膜炎を疑い、特徴的な所見のうちのいくつかを認め、明確に否定できる理由がない場合に診断されます。

臨床で用いられているアデノウイルス抗原検査は特異度が高く、結果が陽性の場合は流行性角結膜炎と診断できますが、感度がそこまで高くないので結果が陰性の場合は流行性角結膜炎を否定できません。

感染の拡大防止を第一義とするならば、否定できない限り流行性角結膜炎として扱わざるを得ません。
結果として流行性角結膜炎ではない方が含まれることになります。

法律上は学生に関しては「学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」登校が禁じられています(学校保健安全法)。
感染のおそれがないと判断できるのは必ずしも症状の改善と一致せず、発症してある程度の期間が経った後になります。

学生でなければ流行の原因にならないという理由はなく、全ての感染者に対して学校保健安全法に準じた日常生活上の制限が望ましいと考えられます。

感染症の原因治療は病原体の除去ですが、現在のところアデノウイルスに直接効果のある薬はなく、患者自身の免疫の力によってウイルスは除去されます。

流行性角結膜炎の治療の目的は感染の拡大の防止と後遺症発症の予防です。

後遺症とは感染症が落ち着いてからも瞼の裏側に膜のようなものができて残ることと、黒目に濁りが残ることを指します。この黒目の濁りは数年以上に及ぶものがあり、濁りが黒目の中央付近に残ると視力に影響することがあります。

単純ヘルペスウイルスによる結膜炎は皮膚症状を伴う場合は流行性角結膜炎との鑑別は容易ですが、眼の状態だけだと鑑別は困難です。
治療法が異なるので、注意が必要です。


2)細菌性結膜炎


細菌が原因の結膜炎は細菌の種類によって症状や重症度が変わってきますが、その多くはカタル性結膜炎の形をとり、通常は抗生剤点眼による治療によく反応し重症化することはありません。

例外的に淋菌による結膜炎は激しい炎症を引き起こし、角膜穿孔をきたす可能性があるので注意が必要です。薬剤耐性菌の割合が増えているため薬剤の選択も慎重に行う必要があります。

クラミジア結膜炎はクラミジアという病原体による結膜炎で、非定型細菌といって普通の細菌とウイルスの間のような性質の病原体です。
クラミジア結膜炎は抗生剤の治療に反応しますが、従来はその生物学的特性から長期投与が必要でした。

しかし最近になって長期間効果が持続する抗生剤が登場したため、1回の投与だけでの治療が可能になり、治療に必要とされる労力が劇的に軽減されました。


3)その他の感染性結膜炎


リケッチア・真菌・寄生虫といった病原体も結膜炎の原因となり得ますが頻度は高くありません。


●アレルギーによる結膜炎


日本眼科学会のガイドラインでは、アレルギー性結膜疾患は「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で、何らかの自他覚的症状を伴うもの」と定義されており、アレルギー性結膜炎、アトピー性結膜炎、春季カタル、巨大乳頭結膜炎に分類されています。

アレルギーの仕組みは複雑でそのすべてに言及するのは困難ですが、ごく簡単に説明を試みると、I型アレルギーとはIgEというタイプの抗体が関与するアレルギー反応です。

ある抗原に特異的に結合するIgEが肥満細胞と呼ばれる細胞の表面に結合した状態が感作という状態です。

抗原が結膜に侵入し、結膜の表面のすぐ下に存在する感作された肥満細胞の表面のIgEに結合することにより、肥満細胞からヒスタミン等の放出やその他の反応が起こります。

ヒスタミンは結膜表面の細胞にあるヒスタミン受容体に結合することによりかゆみや他のアレルギー症状を引き起こします。
ここまでを即時型反応といいます。

即時型反応の後に炎症が遷延化し、T細胞、好酸球、好塩基球、好中球といった様々な炎症細胞が結膜下に集まり、これらの細胞間の相互作用の悪循環が起こった結果引き起こされる組織障害性の反応が慢性化した状態を増殖性変化といいます。


1)アレルギー性結膜炎


結膜に増殖性変化を伴わないアレルギー性結膜疾患のことです。
日常的に頻繁に遭遇するアレルギー性結膜疾患の多くはアレルギー性結膜炎です。

アレルギー性結膜炎は原則として深刻な組織障害を伴わないため、治療の主な目的は不快な自覚症状(主にかゆみ)を抑えることです。
季節性の抗原が原因の場合、症状は一過性でありその時期を凌ぐことができればいいと考えられますが、通年性の抗原が原因の場合には長期にわたる治療の継続が必要になる可能性があり、なるべく侵襲が少ない(長期間使用しても深刻な副作用が起こりにくい)治療を選択する必要があります。


2)春季カタル


増殖性の変化として「まぶたの裏側の大型の隆起性の病変(乳頭)」あるいは「角膜と結膜の境の隆起性の病変(トランタス斑)」を伴うアレルギー性結膜疾患のことです。

しばしば角膜への影響を伴います。角膜への影響が重症になると視力障害の原因になる可能性があります。
 参考:https://fdoc.jp/byouki-scope/disease/spring-catarrh/


3)アトピー性結膜炎


顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜疾患です。
まぶたの裏側に小型の隆起性病変と結膜の下の層の肥厚、時として春季カタルのような大型の隆起性病変を伴うことがあります。


4)巨大乳頭結膜炎


コンタクトレンズ、義眼、手術用縫合糸などの機械的刺激によるまぶたの裏側の大型の隆起性の病変を伴うアレルギー性結膜疾患です。


アレルギー性結膜疾患の治療

 

・アレルゲンの検索、除去


原因治療としてまず考えることは、アレルゲン(アレルギーを引き起こしている抗原)の検索と除去です。アレルゲンのスクリーニングのために、血清中特異的IgE抗体定量(RAST、MAST)、抗体特異的ヒスタミン遊離試験、皮膚テスト(スクラッチテスト、 プリックテスト、皮内テスト)などを行います。しかし抗原となり得る物質は無数にあり、現在起こっているアレルギーの原因が何かを正確に同定することが困難な場合もあります。

アレルゲンが判明した場合、その原因物質の除去が原因治療です。

スギ花粉などの季節性アレルゲンは外出時に曝露されることが多く、外出時のマスク・フード付き眼鏡や、室内に入るときの着衣・手・顔についたアレルゲンの持ち込み防止、室内の空気清浄機の使用などが有効です。

ダニ、ハウスダスト、カビなどの通年性アレルゲンは室内で曝露されることが多く、室内環境の整備(絨毯の除去、徹底的な清掃、ダニ防止カバーの使用、十分な換気、空気清浄機の使用など)が有効です。また、アレルゲンの種類にかかわらず、人工涙液の点眼はまぶたの裏側のアレルゲンを減らすのに有効と考えられます。

しかし実際には、目に見えない空気中のアレルゲンの侵入を減らすことはできても、完全に除去するのは困難です。

巨大乳頭結膜炎では多くの場合、原因となっている異物(コンタクトレンズなど)がはっきりしているので、その除去により治療が可能ですが、コンタクトレンズや義眼などは一時的に中止することが可能でも、中止を継続することが困難な状況があり得ます。

この場合、使用を再開しても巨大乳頭結膜炎を再燃させない方法を模索することになります。


・薬物点眼療法


薬物療法はアレルゲンの種類を問わず効果が期待できますが、原因治療ではなくあくまでも症状に対する治療です。根治を目指すのではなく症状を和らげるのが目的の治療なので、必要最低限の治療で目的を達成することが要求されます。

特に通年性のアレルゲンが原因のアレルギーに対しては、治療は長期間に渡ると予想されますので、副作用のリスクのある治療を漫然と続けることを避けることが望ましいと考えられます。

第一選択は抗アレルギー薬の点眼で、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬に分類されます。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬は放出されたヒスタミンの受容体への結合をブロックします。

症状を起こさせる反応のすぐ前の経路をブロックするので即効性が期待できますが、ヒスタミンを減らすわけではなく持続性がありません。

メディエーター遊離抑制薬は肥満細胞からのヒスタミン等の放出を抑制します。
効果が出るまで時間がかかりますが(1~2週間)、効果は持続的です。

抗アレルギー薬点眼のメリットは重大な副作用がないことで、両者の特性をうまく利用して症状のコントロールができれば、リスクの少ない望ましい治療法といえます。

ガイドライン上は、春季カタルを除くいずれのアレルギー性結膜疾患も、抗アレルギー薬点眼のみで効果が不十分な場合はステロイド点眼の併用となっています。
増殖性変化を抗アレルギー薬点眼のみでコントロールするのは困難です。

ステロイド点眼は抗アレルギー薬点眼よりも上流のアレルギー反応を多岐にわたって抑制します。
従って効果は強力で増殖性変化に対しても効果が期待できますが、重篤な副作用の可能性があり、使用のメリット・デメリットを考慮して慎重に使用する必要があります。

春季カタルは抗アレルギー薬点眼のみで効果が不十分な場合は免疫抑制薬点眼の併用となっています。
免疫抑制薬点眼は価格が高いのが欠点ですが、効果も高くステロイド点眼よりもリスクは低いので可能であればステロイド併用前に併用を考慮することが望ましいと考えられます。


・点眼以外の治療


特に春季カタルでは点眼のみでコントロール不良のことがあります。その場合、ステロイドをまぶたの裏に注射したり、まぶたの裏の乳頭を切除することを考慮します。


・舌下免疫療法


アレルギー性結膜疾患に対する従来の治療では症状を抑えることはできても根治することはできませんでした。根治というのは、アレルゲンが侵入してもアレルギー反応が起こらない体になるという事です。

近年アレルギー疾患を根治する可能性のある唯一の治療法として、舌下免疫療法が開発されました。
治療がうまくいった場合のメリットは大きいのですが、デメリットもあります。

①現時点では、スギ花粉とダニによるアレルギーのみが対象です。
②長期的な効果を維持するためには最低でも3年間の継続が必要で、治療期間中は原則として1ヶ月ごとの受診が必要で、治療したら必ず根治に至るわけではありません。
③可能性は極めて低いもののアナフィラキシーという重篤な反応を引き起こす可能性があります。

軽度な症状に対して安易にお勧めできる治療ではないですが、重症なアレルギー症状でお困りの方で興味のある方はご相談ください。


●その他の結膜炎


ドライアイに伴うもの、外傷に伴うもの、自己免疫疾患に伴うもの、遺伝子異常に伴うものなどがありますが、それぞれ原因を解明したのちに原因に対する治療を選択する必要があります。