なでしこサッカーの強さは、対戦相手による、その都度の順応性の高さ、修正能力にあると思います。
自分たちのサッカーを、相手の特徴によってフレキシブルに、試合の中でも変えていくことができる。
攻撃力が優る相手なら守備的にバランスを整え対応しチャンスをうかがい、あるいは、決勝戦のアメリカのように、1点リードして守りがみえる相手に対しては、サイドを高く一気呵成に攻撃を仕掛けることもできる。
お互いの距離間や、パスの角度、強弱など、試合序盤は悪くても、相手に順応しながら徐々に修正が効いて来る。
誰彼となく、バランスを補い助け合うことが、ごく自然に個々の選手にインプットされている。ひとりよがりのドリブルや、感情にまかせてのラフプレーとは無縁の、実に洗練され精緻尽くされたチームこそ、いまのなでしこジャパンであるにちがいない、あらためてそう思えるのです。
こんなチーム、そうそう作れるものではありません。
アメリカにリードされてからの、敢然と立ち向かう姿こそ、今回のなでしこの真骨頂であり、頂点をめざす貪欲さにあふれていました。
ゴール前に林立するアメリカDFのギャップを突いて、大儀見選手、澤選手がDFの裏へ抜け出る。小さな川澄選手、大野選手がサイドを駆け上がり、宮間選手が割って入りゴール前に迫る。
抜群のコンビネーションでゴール前を崩し、アメリカの必死のDFブロックを、怒涛のシュート攻勢でついに打ち破る!
スピード感ある連携からフィニッシュへ、ウェンブリーの大きなどよめきは、おお!そんなとこに入って来てシュートまで行くのか!という、意外性のある攻撃への感嘆にも感じ取れました。
結果的には追い付けませんでしたが、その流麗なる過程を披露しただけでも、大きな衝撃を与えたはず。日本でTVで観戦している方々にも、ワクワクさせる期待感を抱かせたのではないでしょうか。
ブラジルやフランスは、これを見てどう思ったでしょう。
どうだ、すごいだろ!アメリカ相手にここまでできるか!?これがなでしこだ!と、誇らしく胸が詰まる思いがしました。
アメリカだって守りたいアドバンテージができれば引いて構える、日本だって準々決勝・準決勝で形振り構わず死守したおかげで、これからの未来へ繋がる結果を残してくれたのだから。
なでしこの中心選手たちがメニーナ→ベレーザ時代から10数年培ってきた絆は、たやすく真似できるものではない。
どんなに個人技に優れていようと、パワーのごり押しがあろうと、アメリカ以外の他国は打ち破れなかったのです。
そういえば、なでしこのサッカーがバルセロナに例えられますが、バルサだってカンテラ時代から培われてきた面々が主体となって今があるはず。
忘れてはならないのが、澤選手をはじめ、大儀見、大野、宮間、近賀、岩清水、宇津木、岩淵といった選手たちが築かれて来たのは、日本にも女子ではバルサに匹敵する育成システムが存在してきたということ。
母体となった新旧ベレーザ在籍選手たちに、順応できる阪口、安藤、鮫島、熊谷といった選手たちが肉付けをし、さらに縦に早く強くアグレッシブに旧ベレーザのサッカーを進化させたINAC神戸で育成された川澄、田中、高瀬選手らが新たに活性化させ、いまのなでしこが構築されてきたのではないでしょうか。
ユーティリティに複数のポジションをこなし、両足で器用に捌ける選手が揃う精鋭の集結がベースとなり、今のなでしこジャパンが確立されていることを。
歴代の代表選手たちが、あともう少しのところで涙を飲んで積み上げてきたぶん、精錬され磨き上げられてきたのです。
世界に誇るクオリティの高さは、しかしまだまだ物足りない部分を残しているのも事実でしょう。
佐々木監督は、帰国後やりきれなかったこととして、
「個の力を上げるという意味では、もっとクラブ、本人たちともっと吟味して、個の質を上げる必要があると感じます。代表クラスの選手になってからも、やれれば良かった。」
また宮間選手は、
「フィジカルがサッカーで勝てる要因だとは思わない。けれど負ける要因にはなる。」という印象深いコメントを、以前に残しています。
やはり列強との差を感じ、補っていかなくてはならない、なでしこの課題がうかがえるでしょうか。
今後男子と同じように、組織的でスピード化するであろう時代に向けて、フィジカルの強さは前提としたアスリートとしての総合的な能力を求められるのが、世界トップレベルに君臨し続けるための条件ともいえそうです。
欧米列強は、チーム強化に本腰を入れ始めると、めざましい進歩がうかがえます。
五輪初出場のフランスは新興勢力として台頭し、昨年W杯で惨敗したカナダは2015年のW杯開催国として強化を図り銅メダルと、今後へ繋がる活躍を残しました。
恵まれた体格の選手たちが組織的にまとまり、さらに男子が強豪国ならノウハウも豊富。悔しいかな、日本には適わない利点が備わっているから、結果が出るのもあまり時間がかからない印象があります。
これからも、新たに挑んでくる勢力のたびに、選手たちにスタッフも一丸となり、叡智を尽くし対抗し続けるのがトップランナーの宿命でしょう。
今までの経験値を元に、トライ&エラーを繰り返しながら、大丈夫か?と言われながらも、本番ではきっちりと結果を残してくれることを期待したい。
今後、日本を取り巻く女子サッカーの環境は変わって行こうとも、常に世界の先端を行く、他国の手本となるなでしこであり続けてもらいたいものです。
また新たに代表入りをめざす次世代の選手たちが加わり、ハイレベルなポジション争いの中で選りすぐられた精鋭たちが、次回のW杯→五輪でも大会の主役として躍動してくれることでしょう。
ブラジルの選手や監督は、日本の戦いぶりに不満をこぼしていましたが、ブラジルのメディアは日本女子代表に対して、こう評してくれていました。
「11人が球を蹴っているのではなく、11人からなるチームが球を蹴っていた」
なでしこにふさわしい賛辞だと思えましたー