おはようございます。

 

今日もご覧いただきまして、ありがとうございます。

 

 

 

先週土曜日(12/16)のブログでお話しした通り、

私は、本業としては向いていない銀行で働くことで、

 

仕事をさせていただける場所があることの幸せを知り、

役割や目的にどっぷり浸かることで「おおやけ」スイッチのレベルを上げられることを覚え、必要とされること、されないこと、を学びました。

No.6「やりたいこと」と「必要とされること」(12/16(土))


 

 

 

その後、入社したのが、

日本ロレックス株式会社 名古屋営業所です。

受付業務を担当しました。

 

この会社で働いた3年間は、私にとって

「言葉」の面白さを知る大きなきっかけとなりました。

 

そして、その言葉を使って、

様々な状況においての「伝え方」を、

仕事上で繰り返し実験をさせてもらえた時間となりました。

 

今日は、その一例をお話します。

 

 

 

 

 

 

「会社の受付で女性のお客様が泣き出しました」

 

 

 

ある日、二十代半ばとお見受けする女性が受付にいらっしゃいました。

 

「時計の調子が悪いんです」

 

と、差し出された時計は、当時の国内正規品定価で三十万円ほどのモデルです。

保証書もお持ちでした。

 

 

拝見すると、つくりに雑さはなく、

とてもよくできているものの、

正規品ではない可能性が高い、と感じました。

 

毎日数十点の時計を見て触っていると、

なんとなく、正規品でないものの気配を

感じ取れるようになってくるのです。

 

 

 

 

日本ロレックス社の各営業所には、

時計の修理をする職人がいます。

すべての部品を分解して、不具合を直し、

複雑かつ芸術的なこの機械を組み立てることのできる職人です。

 

状態の確認、修理が必要かどうか、

見積もり、預かり期間など、その全てを職人が判断し、

その専門的な判断を、一般のお客様にも

お分かりいただける言葉で説明するのが受付の役目です。

 

 

職人が確認しても、やはり彼女の時計は

正規品ではなく、保証書もそっくりに偽造されたものでした。

担当した職人が「これはよくできてるねぇ」と

感心するほどのコピー商品でした。

 

 

正規品ではない時計をお預かりすることは、出来ない決まりです。

 

 

さて、どのようにお伝えしましょうか。

 

 

 

 

「コピー商品でした、正規品以外は

お預かりできないんです、残念ですが・・・」

と、黙ることも出来ます。

 

でも。

 

この頃には、強力な「おおやけスイッチ」が

入れられるようになっていた私の頭の中はこうです。

 

 

 

彼女はロレックスの時計を欲しいと思い、

安くない金額を支払い、大事な時計の調子が

良くないので見てもらいたいと営業所を調べ、

足を運んでくださった。

買った物は正規品でなくても、

彼女はロレックスを持つことを求めてくださった、大切なお客様。

 

もうロレックスなんて二度と買わないわ、ではなく、

やっぱり正規のものをちゃんと手に入れたい、

と、ロレックスに対しての信頼や憧れが

崩れないようにお伝えしたい。

そして、どうしようもないなりに、

少しでも気持ちが楽になってお帰りいただきたい。

 

 

「おおやけ」スイッチのパワーはすごいです。

私は、受付を担当している1人の社員でありながら

心は、日本ロレックス社を代表して接客の役割に

どっぷりピントを合わせていました。

 

このお客様がロレックスを愛してくださるように

なっていただきたいと、心から思っているのです。

当時の記憶をこうして文字に起こしてみると、

役割って改めてすごい力なんですね。

 

 

 

 

 

まず、

 

・この時計と保証書が正規品ではないこと

・正規品以外はお預かり出来ない決まりであること

 

についてお伝えしました。

 

その時受付には、他のお客様は

いらっしゃいませんでしたが、少し小さめの声で。

 

 

 

いつ誰が入ってくるかわからない受付で、

「あなたの時計は正規品ではありません」と、

ハキハキと大きな声で伝えられたら、

私だったら嫌だろうな

 

と、思ったからです。

 

 

 

 

一瞬凍りついた表情が徐々に崩れ、

彼女はその場でボロボロと涙をこぼし、

声をあげて泣き出しました。

 

 

わかります・・・わかりますよ。

そんなこと言われたって、

わけわかんないですよね・・・。

 

 

他のお客様が入ってきませんように、

と祈りながら、少しの間、

彼女の気持ちを想像しながらお待ちしました。

 

 

 

 

そしてまず、落ち着いてもらうために、

どのような状況でこの時計を手に入れたのか

詳しくお聞きしてみることにしました。

 

状況を思い出そうとすることで、

少し冷静になりますし、

こうだったから信じたんです、って、

吐き出していただくことで、そこに

フォローできる材料があるかもしれません。

 

もちろん、どのような国のどんな店で、

ここまで精巧なコピー商品を販売しているのか

ブランド側の人間として情報収集しておきたい

という仕事の面もありました。

 

 

 

 

アジア方面の海外旅行に行った先の時計店で購入し、

国内定価の3分の2ほどの値段を支払った、とのこと。

あまりにも安ければ、偽物かもと警戒したが

1ドル80〜90円台の時代で国内定価の

3分の2ほどならありえる値段だし、

保証書も付いていた。

 

表通りに建つ綺麗な造りのお店で、

他のブランド時計も綺麗にディスプレイされており、

いわゆる普通の時計店だと思った。

疑う要素が何もなかったので、

本物だと信用して買って帰った、とのこと。

 

 

 

 

彼女がお話ししてくださっている間は、

「うなづき」と「表情」で相槌を打ちながら

彼女の「感情に気持ちを寄せて」いきます。

 

 

 

説明を終えた彼女に対して、

まず、お伝えしたのは、

 

 

「それは、とても悪質ですね」

 

という ”共感” です。

 

 

 

 

聞けば聞くほど、たちの悪いケースです。

当時は時々あった、

本物だと思って買ったら偽物だった、

という事例と比べてもかなり悪質なケースである

ということを、まず「認め」「共感」しました。

そして、

 

 

 

「特に海外で、正規品と思って買ったら

コピー商品だったというケースは時々あるんです」

 ※残念ながら珍しいことではなく、

あなただけが引っかかってしまったのではありません

 

 

 

「でも今回は、私がこれまでに見てきた中でも

 特別に悪質です」

騙されてしまう人がいてもおかしくないほどとても巧妙な手口だと思います。

 

 

 

さらには

「これまで膨大な数の時計を見極めてきた

 私どもの職人も、これはよく出来ている、

 普通の人が見ても区別がつかないんじゃないか、

 と申しているほどです」

 

 

 

つまり・・・

あなたが注意を払わなかったから、

騙されたわけではない。

もちろん、あなただから騙されてしまった、

ということでもないのですよ

 

ものすごく悪質な詐欺に、

運悪く引っかかってしまった、と私は感じます。

あなたは悪くない。

 

 

 

黙って聞いている彼女の表情は、

騙した相手への怒りとともに、

騙された自分自身を、情けないと責めているようにも見えました。 

私が彼女の立場だったらと、考えてもそう思うでしょう。

 

 

 

そこで、「共感」とともに、

彼女自身もどうしようもないことが頭ではわかっているので、

更にこのようにお聞ききました。

 

 

「この時計はご自分用に買われたのですか?」

 

 

はい、と答えられたので、

 

 

「もしもこの時計を贈り物として買われて、

どなたかに差し上げた後で調子が悪くなり、

その方が修理に出そうとして正規品でないと

知ったとしたら・・・そ

ういうケースもこれまでにありまして・・・」

 

という内容のお話しをしました。

 

 

 

すると、彼女はわずかにハッとした表情になって、

確かに、誰かに頼まれた買い物や贈り物だったとしたら・・・

被害が自分の範囲で済んだのは、まだマシだったのかもしれない。

 

 

現状よりも酷いケースを一瞬想像させられた彼女は、

そこで初めて、落ち着きを取り戻しました。

 

 

 

 

営業所は、最寄駅から歩いて10分ほどの

距離にあるオフィスビルの一角にあります。

夕方の時間帯、ビルの中、エレベーターの中、

駅までの地下通路、この受付を出た途端、

多くの人々とすれ違うことになるでしょう。

 

 

どうか、その人々の目を気にしなくても

いいくらいには、涙が乾いてからお帰りいただきたい。

 

 

これまでの悪質なケースの例や、コピー品の中でも

かなり精巧に作られていた過去の具体例など、

「私だけじゃないんですね」と思えるような

お話しを続けて、時間をつないでゆきます。

 

すると、会社の休みに楽しみにしていた海外旅行で、

記念になるもの買いたいと思い、

自分には少し贅沢だけれど、ロレックスの時計にしよう、

と思ってのお買い物だったことも話してくださいました。

ただただ、そのお気持ちが嬉しくて、

「ありがとうございます」とお伝えしました。

 

 

 

 

そんなお話を続けていると、

小さく微笑むことができるくらいまでに

落ち着いてきた彼女は、

 

「最悪だけどしょうがない、

運が悪かったと切り替えていくしかないですよね」

 

とおっしゃって、お顔をあげられました。

 

 「もし、あらためて時計を手にされました時には

  また、いつでもいらしてくださいませ」

と、お伝えすると、小さくニコッとされ

「ありがとうございます」とおっしゃって、

しっかりとお顔を上げて帰って行かれました。

 

 

 

 

 

 

私が、この接客中にずっと考えていたこと。それは、

 

 

 

「もし自分だったら。」

 

 

 

 

お客様のご様子から、何を考えているかを

察することもしていますけれど、

どんなに目を凝らして見ても、

相手の心の中を正確に知ることはできません。

 

 

ですから、

「相手が何を考えているか」だけ に

ピントを合わせようとすると、

答えがわからない問題に、

想像で答えを作り出してしまうことになりかねないのです。

 

 

こうだと思う、こうなんじゃないかな、きっとこうだ。

 

その見立てが、ご本人の気持ちとズレていたら・・・。

 

 

 

 

喋るためには、喋るための判断材料が必要、

とお話ししました。

その材料に、想像を入れると、

判断がズレる可能性が出てきてしまいます

 

 

だから相手を観察したら、

そこからだけで答えを見つけようとするのではなく、

全体の印象を元に「もし、自分だったら」に

ピントを合わせてみるのです。

 

 

そのようにして感情に寄り添ってみると、

自分だったら、の答えはある程度絞れますから

「伝え方」や「接し方」が絞れていくのではないかと、私は思っています。

 

 

 

ややこしいですね。

 

 

 

 

 

つまり、

 

「なぜそんなことを言うのですか?」と、聞かれたときに、

 

 

「お客様はこのように思われたのではないかな、と思いまして」

 

「お客様と同じ事が、もし私に起きたらどのように感じるかな、と考えまして」

 

 

この違いです。

何となくでも伝わるといいのですが。

 

 

 

 

1つ目の答えですと、

 

「その通りだよ、よくわかったね」

もあり得ますが、

「そんな事思ってないよ、

勝手に決め付けた事で判断しないでくれ」

の可能性も出てきます。

 

 

2つ目の答えですと、

 

「私の立場に立って考えようとしてくれてありがとう」

自分だったら、と考えたことと、

お客様の考えがズレていたとしても、

それが合っている、合っていない、

が問題になりにくいのです。

 

私の考えとは違うが、自分のことに置き換えて

考えてくれようとしたんだね。

そのこと自体に、

真剣に対応しようしていくれているんだな、と

感じていただけることにつながるのではないかと、私は思うのです。

 

 

 

もちろん、自分だったら、が、

あまりにもかけ離れた考えでは、無意味ですよ。

だから、「自分だったら」の前に、

ちゃんとお客様を観察して引っかかるべきところには引っかかる、が必要なのです。

 

 

 

 

 

これは一例ですし、お手本でもありません。

もし途中で、別のお客様が入ってこられていたら、

このように時間をかけて差し上げることは出来なかったでしょう。

 

 

でも、ロレックスはちゃんとしているな、と、

思っていただけるかどうかは、

お客様と直接お話しする受付の印象次第ですし、

受付だからこそ、そのチャンスをいただけるのだとも、当時思っていました。

 

そして、私が、どのような言葉を選び伝えるか、

によって、大声で泣いていたお客様が、

何とかお顔をあげて帰って行かれるのか、

よりがっかりしてお帰りになるのか変わってくる

と考えると、「言葉」の力はとっても大きいと実感しているのです。

 

 

 

なかなか面倒な思考だとお感じでしょうか。

私の場合は、このようにぐるぐると、

相手のお気持ちを想像し、

更に自分だったら、を足すことで、

どのような言葉がいいのか、伝え方がいいのか、

少しお待ちした方がいいのかの、

判断ができていく、と思っています。

 

 

何も情報がなければ、

どうしていいのかわからないのです。

相手のお気持ちを、あやふやに想像する危うさを、

自分だったら、に置き換えて補う、と言う感じでしょうか。

 

 

目の前にいらっしゃるお客様をよく「観察」し、

「想像」「共感」し、自分だったら、と考える。

 

 

 

どうしてもらったら嬉しいだろう、も大事ですが、

どういうところが嫌だな、困ったな、と感じるだろうかという

「引っかかり」がとても大事だと、私は思います。

小さなストレスに目を止め、それを共感し、極力取り除いて差し上げる。

 

特別な技術は必要ありません。

もし自分がそうだったら、と、考える癖をつけるだけです。

 

 

 

 

例えば、歩道を歩いていて、前から

松葉杖をついている方がやって来たら、

狭いと歩きにくいだろうな、と想像して、

すれ違うときに少し道を広く開けて差し上げるでしょう。

 

みなさん普段の生活でなさっていることと同じです。

 

 

 

 

 

さて明日も引き続き、ロレックス受付体験記。

 

 

「会社の受付に、上下鮮やかなブルーが眩しいスーツ姿で強面のお兄さんが、

明らかにお怒りのご様子でやってきた」

 

https://ameblo.jp/nishimura-ayako/entry-12338085353.html

 

です。

 

お読みいただきまして、ありがとうございます。