おはようございます。

本日もご覧いただきまして、ありがとうございます。

 

 

(入社2年目から使える社販で、給料天引で買いました。

30年近く経ちますが、素晴らしく丈夫で働きものの頼もしい時計です)

 

 

 

 

 

 

昨日に続いて、ロレックス受付編第2弾です。

 

 

 

少しだけ時計の話を。

 

ロレックスの時計はその多くが「自動巻時計」です。

時計の内部に取り付けられた円盤状の部品が、

腕からの振動でくるくる回ることでぜんまいを

巻き上げるため、電池不要、ネジを巻かなくても

動き続ける仕組みです。

 

 

ですから、時計を腕から外して振動が

全くない状態が2,3日続くと時計は止まりますし

次に使う時にはネジを巻かなければなりません。

 

 

バブルの時代、

"ブランド物" の一つとしてロレックスを

購入する方が増えた時期がありました。

 

また、為替の影響で、国内よりも海外で

購入した方が安かったため、

自動巻であることなどの商品の特徴を

説明されないまま買った方も少なくないのが実情でした。

 

 

 

 

 

「会社の受付に、上下鮮やかなブルーが眩しいスーツ姿で強面のお兄さんが、明らかにお怒りのご様子でやってきた」

 

 

 

 

ある日、四十代くらいの強面リーゼントの男性が、

かなり主張の強いカラースーツを身にまとい、

金無垢のロレックスを手に、受付に入ってこられました。

 

 

 

「これさぁ、買ったばっかりなのに止まるんだけどっ」

 

 

 

と、時計をトレイに放り投げました。

 

明らかにお怒りで、怒鳴りたいのをこらえて

いらっしゃるのだけれども、それが全身から

出ちゃっているくらいワナワナされていました。

 

 

言葉になさらなかった部分を察すると、

 

「こんなに高い金額を出した時計が、

止まるとはどういうことだよ。

不良品つかまされたんじゃないのか。

あ〜気分が悪い」

 

といったところでしょうか。

 

 

 

このお客様が持ってこられたのは、

当時の国内定価で350万円ほどの時計です。

それが買ったばかりで止まったら、

そう思われるのも無理はありません。

 

お見受けするに、この時計が自動巻であることを

ご存じないまま購入された可能性が高そうです。

 

 

 

「この時計は自動巻なんです。

腕につけるなどの振動がなければ

二、三日で止まるのは正常です」

 

とお伝えすることもできます。

でも…

 

 

この時点で、受付として私がすべきことは、

 

・時計が正規品であるかどうかの確認

(コピー商品など正規品以外は受付することが

できないため)

・時計の状態を具体的に聞き取ること

 

 

ギンギンに怒りを携えているお客様に対して、

ロレックス社の社員である受付として、

何をどのようにすべきか「おおやけ」

スイッチパワー全開フル回転です。

 

私の頭の中はこうです。

 

 

 

極力プライドを傷つけず、

お怒りをおさめていただき、

そういう時計なんだね、と、

これからも愛着をもってロレックスをお使いいただきたい。

そのようにご理解いただく伝え方は・・・。

 

 

 

 

ブランドの営業所にここまでのお怒りを

わざわざぶつけに来てくださる。

 

つまり、

そのくらいこの時計を愛してくれている

ということでもあります。

 

思い入れのない物の調子が悪くなったところで、

こんなに感情が動くでしょうか。

(高額だから、もあるでしょうけれど)

 

お客様のお怒りや涙は、

その商品への思いが大きいことの裏返しです。

 

 

そうやって感情をぶつけてくださったから、

直接言葉のやり取りをさせていただける。

これは、さらにロレックスへの愛情と知識を

深めていただけるチャンスなのです。

 

 

 

拝見すると、わずかな傷ひとつない状態で、

海外のお店が発行した正規の保証書もお持ちです。

様々な年代や型式のロレックスを毎日、

数十点手に取り拝見していると、

正規のものかどうか、だいたい見分けがつくようになっていました。

時計自体は正規品で問題なさそうです。

 

 

あとは、自動巻の時計であるかどうかを、

このお客様がご存知かどうか。

 

 

経験上、ご存知のお客様は、

「腕につけていても止まる」とか、

「腕から外して翌日には止まってしまうんです」

などという伝え方をされます。

 

 

 

このお客様が、自動巻の時計であることを

ご存知ないまま、購入した可能性を考えながら言葉を選んでいきます。

 

 

 

まずは、簡単な質問を重ねることで、

時計自体の異常はないかどうか確認します。

 

「時計は腕から外して何日後くらいに止まりましたでしょうか」

 

「外した翌日は動いていた、ということですね」

 

「腕につけた状態で止まることはありましたか」

                      

 

 

このような質問を重ねることには意味があります。

 

お怒りになるお気持ちもわかりますけれども、

まずは時計のことを聞かせてくださいませんか?

と、時計の状態を詳しく教えてくださらないと判断ができないことに

気づいていただく。

そして、質問の答えを考えることで

少し冷静になっていただく意味もあります。

 

 

すると大抵は

「俺の時計が異常かどうか見極めるために

必要な質問なんだな。ちゃんと答えないとな」

という気持ちになって、

お怒りから少し離れていただけます。

 

 

つまり、あなたが怒鳴ってしまいたくなるほどに

困っている原因は何なのか、一つずつ可能性を

考えていきたいのです。だから教えてください、

です。

 

もしかしたら、故障が発生している可能性も

ゼロではないかもしれない、という気持ちで。

 

 

 

 

このやり取りをこちら側が、

風体や怒りの声にビビらずに、怖がらずに、

一緒に心配する気持ちで、

あなたの大事な時計のこと、教えてくださいね」

という共同作業のような気持ちで接していきます。

 

 

 

そして、

「外して1日程度で止まるとか、

腕につけた状態で止まる、となると

何かしらの不具合の可能性がありますが、

そこは大丈夫なようですね」

 

と、お客様にお聞きしたこと1つ1つを、

これについては正常です

これも異常ではありませんね、と

お伝えしていきます。

 

 

 

すると大体この辺りで、

「ん? 俺が何か知らないことがあるのか」と

察する方もいらっしゃいます。

 

 

知らない可能性が高いと思っても、

ご存じだとは思いますが、

というトーンで、こんな風にお話ししてみました。

 

 

「自動巻の場合、時計の内部に取り付けてある、

振り子のような半円の円盤がくるくる回ることで、

時計の螺子を巻くのと同じことをしているのですが、

 

時計に振動がないと円盤が回れないので、

ネジが巻けないのと同じ状態になります。

 

(ここまではご存じだと思いますが、

次に続く「その状態」を説明するための説明ですよ

・・・の雰囲気で)

 

 

通常、時計を外してその状態になってから

止まるまでが、2日から3日程度とされています。

 

 

個体差は多少ございますが、

お客様が「もう止まったのか」とお感じになるくらいに、

止まるまでが早いとなるとご心配ですよね。 と「共感」

 

 

今拝見したところでは、

何かしらの不具合があるようには感じませんが、

外してどのくらいで止まるのか、

一度止まるまでの時間を計って見ることをお勧めします。

 

そしてもし、翌日に止まったり、

着けていても止まる場合には、何かしらの

不具合が起きている可能性もありますので、

お早めにお持ちください。

こちらの営業所で点検修理をお受けできます。 

(異常の見極め方)

 

 

たくさん時計をお持ちですと、

毎日同じ時計を着けられない場合もございますよね。

「共感」

 

次につけるときに止まっているのがご面倒でしたら、

つけない日はネジを巻いていただくか、

自動巻用のくるくる動く時計ケースも販売されていますので、

ご検討されてもいいかもしれません」 

(止まるのを防ぐ方法)

 

 

 

お客様もご存じだとは思いますが、という前提で、

でも「ご存知ですか?」「ご存知ですよね」という言い方をしない。

 

そこをはっきりさせないまま

「こういう特徴なのです、この場合ですと・・・」のように、伝える。

 

 

知らなかったことを恥に感じさせないで、

より知識を持っていただく、ファンになっていただくチャンスと捉えること。

 

知らないで、勘違いで怒っていた、というのは

それがわかると恥ずかしいですよね。

それを紛らわすために、怒りに変換されるケースは、

大人ほどあると思います。

 

 

 

 

 

 

強面のお客様が、明らかにお怒りの様子でいらっしゃったら、

 

「わたくし」の目線で見ると、

 うわぁ怒ってる。怖い。どうしよう。誰か代わって。

 

「おおやけ」の目線で見ると、

  お客様がお怒りだ 何にお怒りなのだろう。

 

 

「怒っている人」にピントを合わせてしまうと、

誰でもいやだなあ、逃げたいなあ、と思います。

「わたくし」の時であれば、逃げればいいのです。

 

 

でも「おおやけ」の役割担い中の私が、

ロレックス社社員の受付として合わせるべきピントは、

「お怒りの理由」です。

お客様がここまでお怒りなのは、時計の何によるのだろう

にピントを合わせるのです。

 

 

つまり、ロレックス社の受付に来て

お怒りをあらわにしていると言うことは、

その内容は、ロレックスに関係すること以外ありえません。

 

 

であれば、私がその怒りにビビる必要はなく

ロレックス社受付の立場として、

お客様にどのようにして差し上げるべきか、

答えは絞れますよね。

 

 

 

そのように考えれば、

 

こんなにお怒りになるってどんなことが起きたんだ?

1つづつ確認させていただいてもよろしいですか?

と、原因究明プロジェクトの立ち上げです。

 

 

 

お客様も、ただ怒りをぶつけたいのではなく、

原因を解決したいなんとかしてくれよ、

という目的があってご来店な訳ですから、

 

 

正しい場所にピントが合った瞬間から、

私は同じ目的に向かってお客様の伴走ができるわけです。

 

 

お客様の時計について、

一緒に心配し、一緒に考え、一緒に解決したら、

信頼が生まれます。

 

 

 

このお客様も、プライドを崩されることなく

時計の特徴を知ることができ、

時計に異常がないことも確認できて、

最後は「ありがとな」と、笑顔で帰って行かれました。

 

 

 

「伝え方」で、相手のお気持ちの向く方向を、

ある程度は変えることができます。

 

それは、

 

・どこにピントを合わせるか

・お客様をよく観察しながら、自分だったらと想像する
 

の、組み合わせです。

 

 

 

実際にご自分でも意識してみてください。

何かが変わるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

今日もお読みいただきまして、ありがとうございます。