俺は自分が正しいと思ったことは素直に実行できる善良な男だ。 ただし、常に体調が良いわけではないし、運が良いわけでもない。 だが、たぶん俺は大丈夫だ。 だまされても、なさけなくても、くじけそうになっても、生きていれば好いこともある。 ここは遥か東欧ハンガリー。この地で俺は恋をした。 障害をもった我が子に優しく話しかける美しい母親に。 トラムで出会った親子だが、自然に、そして敢然と、車椅子の少年が乗り降りするのを手助けした。 きっと他人には決して伺い知れない苦労と悲しみがあるに違いない。しかし反対側の窓から教会が見たいという少年の希望をかなえてあげ、そして車窓の光景に喜ぶ少年と愛しげに会話をするその横顔に心が震えた。 優しく、深く、気高い眼差しに、美しい輝きが溢れていた。 すこしやつれた、またほんの小さな少年の母親のわりにはふけてみえる婦人だが、歳はいくつなんだろう。 子供と話しをするのになぜ英語なんだろう。旅行中なのか、それにしては生活を感じる停車駅だ。 "I will help you." "Thank you very much." "It's my pleasure. Good night." "Good night." 交わした言葉はこれだけ。 俺の行為は不快ではなかった様子で、俺が電車に戻るのを笑顔で見送ってくれていた。 思い込みの激しい、「ああ勘違い」な俺にとっては、すごく素敵な出来事だ。