How to fly・53 | 黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

嵐さんが好きです。二宮さんが好きです。大宮さんが好きです。

こちらは妄想書庫でございます。大変な腐りようです。足を踏み入れる方は、お気をつけくださいませ。

※BL妄想書庫です


苦手な方はお気を付けください





















「…お前、なんなの?」

「なんなのって?」

「もう俺に用は無いだろ」



こんなことを言いたいのではない

が、何を言いたいのかが分からない

素晴らしいステージを見せてくれたこと、こうして再会出来たこと

どちらも嬉しいはずなのだから、それに応じた言葉を選べばいいだけなのに



「居場所はあるし、支えてくれる人も居るし、ステージも用意されてるし、ははっ、俺の出る幕なんかどこにもないよなぁ」



口から出てくる言葉は冷たく響いている



この一年が気が遠くなるほど長かったことを分かって欲しいとは思っていない

しかし、これだけ平然と隣に座られると、それが無かったことにされたようで悲しくなる

お前を失ったのは店だけじゃない

俺だってお前を失って、失ったままで、この一年を過ごしてきたんだ



「あの、ちょっと待って、そんなこと…」



一人相撲で、一人空回りで、何も知らされなかった長い一年の最後に

こんな素敵な再会をご用意しましたよ、どうですか?嬉しいでしょ?

と、押し付けられて

そうですね、ありがとうございまーす

なんて、簡単に切り替わるとでも思ったのか

ピエロも随分と軽く見られたものだ



「いーよ、もう」



何も言わなくていい

何を聞かされても、何が真実だとしても、受け入れる自信が無い



「あのっ 勝手なことしてごめんなさいっ 一緒に居られたらすごく楽しかったと思うんだけどっ」

「もういいって」

「でもダメだって思った、あなたに甘えて一人じゃ何も出来ないままじゃダメだって」

「だから、もういいって」

「飛ばせてもらうんじゃなくて一緒に…」

「黙れ!もういいって言ってんのが聞こえねーのか?!」



絶えず音楽が流れているはずの店内で、この一瞬だけ静まり返ったのが分かった

場の空気を悪くしているのは俺だ

さっさと退場しよう



「そういえばただいまって言ってたよな、おかえりって言って欲しかったんだ?ごめんごめん、気付くの遅くて、おかえりー、ステージすごく良かったよ」

「…ごめんなさい」



復帰祝いの席なのに、おめでたい空間なのに、なぜ悲しい顔をさせているのだろう

なぜ謝らせているのだろう



「あのぉ」

「あ、お騒がせしてごめんなさいっ えと…お連れ様ですよね、会社の?」

「後輩っす、てゆーか、そーゆーのは全然いーんですけどぉ」



どうにもならない空気を読んでくれたのか、二人の間に同僚が割り込んで来てくれた



「壁の絵のモデルさんって、あなたですよね?」

「あー…」



俺をちらりと見て、彼が躊躇いがちに答える



「はい、そう…です、あんなに素敵に描いていただいて何とお礼を申し上げればいいのか…」


「さっき近くで見てたんすけど、ほんと素敵でしたっ」


「ありがとうございます」



時間稼ぎをしてもらっている間に、少しだけ冷静さを取り戻す

おかえりという言葉を吐き捨てるように言ってしまった

とても大切な言葉だったのに


ステージの感想も投げやりな言い方だった


拍手だけでは伝えきれない感動がたくさんあったのに



「ってことは先輩」

「ん?」



急に水を向けられて、不用意に会話に参加してしまう



「こちらがペチャンコの境地さんですよね?」

「…え?ぺちゃんこ?」



あぁ、残念だ

全く空気を読んでいない方の突入だった



「頼むから、ほんと頼むから黙っててくれねーかな?!」

「だって先輩、恋人と会ってるのに有り得ない顔してんですもん、なんすか、その般若みたいな顔は、こちらのペチャンコの境地さんが泣きそうになってんじゃねーっすか」



泣きたいのはこっちだ

誰でもいい

助けてくれ



「違うんです、勝手なことしたのは俺なのに調子に乗って失礼なこと言ってしまって…せっかく楽しんでくださっていたのに空気を悪くしてしまってごめんなさい」



ピエロから悪者になったらしい



「はははっ」



笑える



「先輩?顔が余計に怖くなってますけど」



笑えるついでに、一つだけ訂正しよう



「恋人じゃねーから」

「えー?恋人じゃないんすか?」

「恋人じゃない」

「でもこちらがデートのお相手さんですよね?」

「ずっと前にデートしてたかもしれないけど、恋人なんかじゃない」

「そうなんすか?」

「あ…はい、そうですね、勘違い…してました、ごめんなさい」



今度はこちらをちらりとも見なかった



「それは大人の事情的な?」

「そう…かもしれないです、すみません」

「えー?なんか納得いかないなー」



話を続ける二人を無視して、会話から離脱する



完成したばかりの壁を眺めた

描いている時も、完成した時も気付かなかったが、あの絵は全てが過去だ

今夜のステージと比べたら足元にも及ばない駄作のオンパレード


馬鹿な俺の、馬鹿な一年の、馬鹿の結晶



「全てを破棄すれば、完済、かぁ…」



区切りを望んでいた俺に用意された、最高の結末

















つづく