※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
「なぁ、なんで五円でいいなんて思ったの?」
「でいい…ってゆーか、単純に縁起がよさそーだなぁって」
「縁起?」
「次も、その次も、この人とのご縁が繋がるといいなぁって思ったから、五円でいいや、じゃなくて、五円がいいなって」
「お前…ダメだよ、安いよ、そんなの有り得ないって」
「あなただけなんだから別にいーじゃん」
俺が初めから別枠であったことも、縁が繋がることを望んでいてくれたことも、驚きは隠せないけど、嬉しい
「でもさ、俺が気持ち悪い変態野郎だったらどうしてたんだよ、お前ちっこいし、調子に乗った俺に酷いことされちゃったかもしれないんだぞ?」
「確かに気持ち悪いとこあるしー、変態だなって思うこともあるしー、実際初めての時は誰よりも酷かったけどー」
「それはごめん、マジでごめん」
「でも俺って勘いいほうだから」
「勘?!」
そんなあやふやなモノでマスターの壁を無き物にして簡単に突破させるなんて、危機管理能力が低い、低すぎる
「ステージから初めてあなたを見た時、あぁ、こっちに来るかもな、来たらいいなって思って、で、あの席に座るあなたとやり取りして、あぁ、やっぱりなーって」
「それだけで勘がいいとか言われても…」
「あなたがお店の常連さんになってくれて、ステージもたくさん見てくれて、うれしーなーって思ってて、ちゃんと会ってみたいなーって、だから、もし予約って言われたらそのまま通してってマスターに言ってあったの」
嬉しい?
会ってみたい?
「ちょ…え?えっ?ちょっと待て、ちょっと待ってくれ、お前、今すげー重要なこと言ってんぞ?」
「そう?」
「そうだよ!だってお前さ、そしたら俺のこと、初めからずっと好きだったってことになるぞ?!このままだとそういう勘違いしちゃうんだぞ?!分かってんのか?」
「…うん」
「うん?!」
顎が上下した
それは、つまり、頷いた…のだろうか
初めから好きだということになるぞ、と聞いたことに対して、頷いた…?
「お前…俺のこと、ずっと、好き…だったの?」
「……かも、だもん」
驚くことの多い夜だけど、今が一番衝撃的だ
頭が一度真っ白になって、またたくさんの言葉と映像がぐるぐると回り始める
あの散々だった初夜から、いやその前にステージと特等席でやり取りしていた時から、すでに好意を持たれていた?
嬉しいな、会いたいなと思っていた?
そんなもの、衝撃以外の何物でもない
「お前…そーゆー大切なことはもっと早く言えよ!」
「だってこっちはゲイとかあったし!進展するなんて考えられなかったし!巻き込んだら悪いなって思ってたからっ!」
金が好きなはずなのに金を受け取ることを嫌がっていたのはそれが原因だったのか
言えなくて、苦しくて、建前であっても金は受け取らなくてはいけない
俺は俺で五万だと思い込んでいたし、お互いにまた会う為には金銭の授受は続けなくてはいけない儀式だった
心と行動には矛盾があった
それが何度も繰り返されたら歪む
表情も、空気も、歪む
そんな彼を何度となく見てきたはずなのに
歪みで生じた隙間から漏れ出ていたのは、俺に対する好意だったのに
「ごめん、気付かなくて、ごめん…」
「違う、気付かれたくなかったし、勘違いしてくれてるのは好都合だったんだよ」
客だ、商売だ、そういう関係は悲しい
買う、買われる、そういう関係は寂しい
でも無理に進んで会えなくなることのほうが辛くて、苦しい
そう思っていたのは俺だけではなかった
「俺が…もっと早く、ちゃんと気持ちを伝えてたらよかったんだな」
「俺も、どうしても怖くて…」
「うん、怖いよな、怖かったよな、それでも俺に会う機会を与え続けてくれて、ありがとな」
「…ありがとうは、こっちの台詞だから」
とても遅くなってしまったけど、預けていた金と共に
「それ、受け取る」
「うん」
彼の大きな想いを、しっかり、受け取った
「回数分の五円、差し引く?」
「え?回数覚えてるんだ?」
「覚えてない」
「なにそれ、ダメじゃん」
「回数を覚えてたとしても金を置いてかなかった夜も結構あるし…二人の記憶を合わせて一緒に思い出せばいけるかも?」
「えー、めんどくさー」
「だよな」
「それに、せっかくのご縁が薄くなりそうだから、いらない」
「そっか、それもそうだな」
彼を買う為に用意した金は、支払う金額が変動した為にまだ使い切っていなかった
それが今、初めの50万に戻ってしまった
俺は人を買っていなかった
そもそも向いていなかったのだろう
それでいい
それがいい
つづく