※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
「この金で、お前が、俺を…買うの?」
「違う」
では、封筒を厚く膨らませるこの金にはどんな意味があるというのか
「返したい」
返す?
金なんて貸していない
「あなたはなぜか五万だと思ったみたいだけど、俺は…その、俺はさ、五円のつもりだったんだよね」
「…ご、えん?」
「そう、五円」
開かれた手が、こちらに向けられた
この映像は記憶に残っている
初めての夜の、初めての金額交渉
相場がないと言われ、他の奴等はだいたいこれくらいだと、片手を開いて見せた
可愛らしい小さな手が示した「五」という数字
五千なんて有り得ない、五十万はさすがに高過ぎる
だから、五万
これが一番適切であり、その後も当然のように五万だと思い込んでいた
それが、まさかの
「…五円?!」
「だからこれは預かってた超過分」
「超過分って…いやいや、五円なんてそんな安く売る奴がどこに居んだよっ」
「ここ?」
「まさか他にもそんなふざけた金額提示してちゃり~んなんて五円だけ受け取って抱かれたなんて言うんじゃねーだろうなぁ?!」
「なにー、もー、うるさぁい」
「これが黙ってられるかっ!」
「ラッキー、お買い得、でいいじゃん?」
「いいわけねーだろ!ちゃんと説明しろ!説明しねーなら受け取らねーぞっ!」
これを受け取れば抱き合える、金も返ってくる、ラッキー
そんな馬鹿な道理が通るわけがない
抱く抱かない以前の問題だ
大問題だ
「おい、こら、黙るな、ふて腐れた顔すんなっ 口を動かせっ」
これだからあなたはめんどくさいんだよなー、はー、もー、めんどくさっ
そんな愚痴をいちいち挟みながら渋々明かされる事柄を、こちらは懸命に聞く
「基本的にみんな前払いなんだよねー」
「えっ?」
俺以外は彼と過ごす夜の二回目が無いことはマスターが教えてくれたし、彼もそれを認めていた
しかし、支払いシステムまで違うとは思っていなかった
「まず店に来るじゃん?で、予約するよね?」
「する、俺もした」
ここまでは俺も他の奴等と変わらない
「そこでマスターが見定めてくれるの、客として相応しいかどうか的なことをね、で、値段も決めてくれて、その場でお支払い、予約システムとしては一応そういう流れかな」
「そ、そうだったの?」
「ぐちゃぐちゃ言う人も居たみたいだけど、そーゆー人はその場で追い返されるんだって」
「それもマスターが?」
「そう」
あいつならやりそうだ
仮面を外し、睨み、時には怒鳴り、すごすごと背中を丸めて帰る客の姿が目に浮かぶ
「一晩で最低十万に設定してるって言ってたかなぁ」
「十万…」
いきなり告げられる金額としては大きく感じられる
「お前にすっごく会いたくても足りない人も居ただろうな…」
「そーみたいね」
値下げを要求する奴はもちろんのこと、端から見下している奴、乱暴な行為をしそうな奴、身だしなみが整っていない奴、噂を聞きつけた興味本意な奴
全ては門前払い、容赦なく叩き出したらしい
「でも俺は…」
前払いシステムの説明はされなかった
二回目は呆れた顔はされたが仮面が外されることも、拒否されることも無かった
金額設定があったことも、それが十万であることも、今、初めて聞いた
何も知らなかったとはいえ、俺は、その日の過ごし方によって金を置いていかない夜もあった
それなのに、初めから基本の半額どころか五円のつもりだったと言われても、お買い得だラッキーだ等という言葉では片付けられない
つづく