※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
「ここに住んでることは…?」
「言ってない、もう何年も帰ってないし、連絡もしてない」
自分の核たる部分を拒絶した人間と生活を続けることは辛かったに違いない
罪悪感もより深く重くなっただろう
逃げなければならないほどに
しかし、理由はそれだけだろうか?
もちろん俺には想像するだけしか出来ないが、家族に否定同然の態度を取られたと思うだけで大きなショックを受けたと思う
だけどそれでこんな地下まで逃げるだろうか?
「友達には?」
「うっかりしたら恋愛対象になっちゃうんだよー?もう作るのも恐怖だわ」
友達も近すぎてダメか
「バイト先とか」
「あれって不思議なんだけど、どこからかバレるんだよね、で、嫌がらせされるかキワモノ扱いされるかのどっちかになって、最終的にクビだよねー」
打ち明けても打ち明けなくてもダメなのか
「職場の人とか周りの人間の年齢とか人種とかが多彩になってからは?」
原因がたくさんあって欲しいのではない
そんなことを望んで過去をほじくり回しているのではない
自分の力だけで生きているという憎たらしい顔は、そう思わざるを得ない状況から生まれていたとしたら、そう思わなければ生きていけなかったからだとしたら…
「恋人はどうだった?作った?仲間は?お店とかに行った?そこには居なかった?」
どこかに居て欲しい
理解し、支え、愛してくれた人が、たくさん居て欲しい
そして「お前が気付いてないだけだよ、馬鹿だな」と言ってやりたい
「…質問、多いね」
「あ、ごめんっ」
一人で熱くなってしまった
質問攻めは不躾だ
分かっているが、どうしても彼に、何か…
「マスターと正反対だわ」
「…マスター?」
なぜ今あいつが出てくる?
「何も聞かずにここで働けって言ってくれてー、住むとこないって言ったらここを改造して部屋にしてくれてー、あ~、優しかったな~」
とても繊細なことだから、知りたい欲を押し付けると無駄に傷を抉ることになる
それを避ける為に牽制したのかもしれない
気持ちは分かる
付き合いの長いらしい頭のキレる公私ともに支援する力のあるあいつと比べて、俺は「ばかなのー?」の一言で片付けられる存在だということも分かる
「どーせ俺は根掘り葉掘り聞く嫌な奴で優しさの欠片もねーよ、悪かったな!」
これが逆ギレだということも分かっている
押し掛けず、問い詰めず、スマートに、一目で全てを理解し、嫌な部分には決して触れず、黙って見守る
それが出来るなら初めからやっている
「…ごめん、嫌な言い方した、謝るから怒らないでよ」
「怒ってねーよっ」
情けなくて、語気が荒くなる
「怒ってんじゃん!」
「これはっ…これは、自分に腹が立っただけだっ」
そうだ、腹立たしいんだ
「そんで、すっごく悔しいってゆーかっ」
そして、猛烈に悔しい
「なんだろ…とにかく悔しいんだよ、今のお前の側にマスターが居てくれてほんとによかったと思うよ、比べられたら情けないほどお前に何も出来てないし、これからも出来ないかもしれないし」
「ごめん、だからそれは…」
「でもさ、お前のいいとことか、個性とか、優しいとことか、俺だっていっぱい知ってるんだよ、そういうのを受け止める奴はそれまで一人も居なかったのかって、ここに辿り着くまでに一人も出てこなかったのかって…
俺がもっと早くこの店に来てたらとか、お前の実家の近くに住んでたらとか、同級生だったらとか、同僚だったらとか、道ですれ違うのでも、電車で隣に立つのでもいいから、そこに俺が居たらって…」
こんな場所まで逃げて来たのに、それでもまだ居場所が失われることに怯えなければならない
そんなことになる前に、誰か一人でも居ただろう?
居ただろう?!
誰でもいい、理解しろよ、支えろよ、愛せよ、こんなに…こんなに愛おしい奴じゃないか
なんでだよ、悔しい、悔しい、悔しい
「…なんで泣くんですか」
「だって、だってさぁ…お前さぁ…」
救うだなんておこがましいことは口が裂けても言えない
「理解した」も「支える」も「愛してる」も違う
こんな俺でもお前に言えること
何かないか
何か…
「…飛びたい、んだよな?」
「え?」
「言ってたよな、飛びたいって」
「あぁ、うん」
「じゃあ、飛ぼう」
「はい?」
「俺と」
「あなたと?」
「飛ぼう!」
「…えーと、はい?」
「お前の飛びたい場所に、お前が飛びたい方法で、お前と一緒に飛ぶ!」
これが今の俺の、お前に対しての、最大限の想いを込めた言葉だ
つづく