
「美味しかった」
そう思っていただければ、
もう一度来ていただけるチャンスはあると思います。
でも、それ以上はない。
私はそう思っています。
二度目に来てくださったお客様には、
前回以上に、その方が何を求めているのかを考えます。
どんなものがお好きだったか。
どのくらいのペースで
食事をされていたか。
そうしたことを少しずつ覚えて、
次の接客に生かしていきます。
ただ、
「前回のことを覚えていますよ」
と、こちらから言うことはほとんどありません。
言葉で伝えるのではなく、
「自分のことを少し分かってくれている」
そう感じていただけたらいいと思っています。
それを一度ずつ積み重ねていく。
そしていつか、
「今日は任せるよ」
と言っていただけたり、
大切な接待で使っていただいたり、
ご家族を連れてきていただいたりする。
そういう時に初めて、
安心して任せられる店に
少し近づけたのかなと思います。
美味しいものをお出しすることは、
もちろん大前提です。
その先にあるものを
一度のご来店ごとに積み重ねていく。
西麻布で長く店を続けてきて、
今はそれがとても大切なことだと感じています。
肉粋やまもとでは、
塩は焼く直前に振ります。
早くから塩をしてしまうと、
塩が肉に浸透して水分が出てしまう。
その水分と一緒に、
肉の旨みまで抜けてしまうからです。
塩の量も、
すべての肉で同じではありません。
霜降りには多めに。
赤身には少なめに。
霜降りの肉は、
脂が多いほど甘みも強くなります。
その甘みに負けないように、
塩もしっかりと効かせる。
反対に赤身は、
肉そのものの味を邪魔しないよう
塩を強くしすぎません。
使う塩そのものも変えています。
店には約40種類の塩があり、
塩化ナトリウムの含有量を基準に
それぞれの特徴を見ています。
脂の多い肉には、
塩化ナトリウムの含有量が高い
塩味のしっかりしたもの。
赤身には、
その他のミネラルを多く含む
口当たりのマイルドなもの。
そして、使う塩は固定ではありません。
その日の仕入れで肉が変われば、
合わせる塩も変える。
いつ振るのか。
どれだけ振るのか。
どの塩を使うのか。
すべては、
その日の和牛を美味しく
召し上がっていただくため。
塩もまた、
一枚の肉に合わせて決めています。
西麻布 肉粋やまもと
焼肉は、本来自由なものだと思っています。
好きな肉を好きな順番で食べてもいい。
何種類かを一緒に焼いてもいい。
そこに決まりがあるわけではありません。
ただ、肉粋やまもとでは、
できるだけ一枚ずつ味わっていただきたいと思っています。

一度に何種類もの肉を食べてしまうと、
今、何を食べているのか。
その肉がどんな味だったのか。
分からなくなってしまうことがあります。
だから、一枚ずつ。
焼き上がった一枚を食べていただき、
その味を感じてもらってから次へ進みます。
その時、私が見ているのが
お客様の最初の反応です。
口に入れた直後に出る、一言目。
「柔らかい」
「とけた」
テレビの食レポなどでも
よく聞く言葉です。
もちろん、それも一つの感想です。
でも私が一番うれしいのは、
「おいしい」
という一言です。

柔らかさや食感は、
味わっていなくても感じることができます。
でも「おいしい」は、
それだけでは出てこない。
肉の状態。
切り方。
塩。
焼き方。
温度。
お出しするタイミング。
全部が揃って、
初めて自然に出てくる言葉だと思っています。
だから私は、
お客様の最初の一言を聞いています。
一枚ずつ焼き、
一枚ずつ味わっていただく。
その先で聞こえる「おいしい」が、
私にとって一番うれしい言葉です。
西麻布 肉粋やまもと

