バレエピアニストというお仕事10:ザギトワ選手の「ドン・キホーテ」も完全コピーしてみて感じたこと | 台東区入谷・浅草・三ノ輪のピアノ教室《高島ピアノ塾》とバレエピアニスト高島登美枝のブログ

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歴史と文化の地・台東区(浅草 入谷 上野)の《高島ピアノ塾》。
主宰者は早稲田大学出身の異色のピアニスト。
伴奏業の傍ら、東京藝大大学院で博士学位を取得。
20代から「音楽による経済的自立と社会貢献」を実践し
逆境から夢を叶えた音楽起業家人生のストーリー。

浅草 入谷 台東区のピアノ教室

《高島ピアノ塾》主宰、

バレエピアニスト・バレエ音楽研究者、

コレペティトゥア兼歌曲伴奏者の

高島登美枝です。 

本日もご来訪ありがとうございます。

 

先日の宇野昌磨選手の

「トゥーランドット」完全コピー動画が

意外とご好評をいただいておりますので、

ウケるとすぐ調子に乗る大阪人の不肖・高島、

今度はアリーナ・ザギトワ選手金メダル

フリープログラム「ドン・キホーテ」を

完全コピーしてみました。

 

 

YouTubeのNHKの動画で計測すると、
ザギトワ選手のプログラムが3分57秒。

私の演奏が3分56秒なので、

ほぼテンポも再現してます

 

※ちなみに、テンポに関しては

「トゥーランドット」のほうが出来が良くて、

宇野選手の音楽とばっちり同じ、

4分39秒です。

宇野選手の平昌での演技は1秒分、

音からはみ出ています。

 

ちょっとした「かくし芸」(笑)ですが、

テンポが記憶できなければ、

バレエピアニストは、

(…というより伴奏業全般は)

仕事になりませんから、

これも職業的経験のたまものです。

 

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「トゥーランドット」と違って、

こちらのコピーは超・楽ちん爆  笑

 

宇野選手の音楽のコピー作成の

手順解説の記事にも書きましたが、

あちらは、オペラ《トゥーランドット》から

3曲を抜き出しています。

 

参考宇野昌磨選手の「トゥーランドット」を耳コピーしてみた件:バレエピアニストのお仕事4

https://ameblo.jp/nikiyabayaderka/entry-12354463029.html

 

3曲のつなぎ部分にも

音楽が付けられていて、

全体が切れ目なく連続しているのですが、

このつなぎの音を拾うのが、

それなりに面倒なんですね。

 

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それに比べて、

このザギトワ版「ドン・キホーテ」。

バレエ《ドン・キホーテ》から

3曲抜き出しているところは

「トゥーランドット」と同じなのですが、

つなぎ部分に音を足すこともなく、

そのまんま切り貼りしているわけです。

 

おまけに、使用曲も
バレエピアニストなら、
誰でも絶対にすぐ弾けるという
スーパー有名な箇所。

 

なので、該当箇所を

つなげて弾くだけで

完全コピーが

「はい、一丁上がりよっしゃ

超・楽勝ですピース

 

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「トゥーランドット」も

「ドン・キホーテ」も

フィギュアでよく使われる作品ですが、

音楽の使い方は対照的です。

 

「トゥーランドット」の場合、

ほぼすべて、

宇野選手と同じ曲構成か、

さもなければ宇野選手の後半の曲

(アリア「誰も寝てはならぬ」)を

使っています。

 

荒川静香選手と

宇野昌磨選手の曲の尺は同一で、

歌入りが認められるようになったため、

宇野選手は後半を歌付きに変えているだけです。

(荒川選手が金メダルを勝ち取った

トリノの開会式に登場した

パヴァロッティの声だと思います。

縁起をかついだのかな?)

 

反対に

「ドン・キホーテ」の場合、

タイトルこそ同じ「ドン・キホーテ」でも、

抜いてくる箇所は選手によりまちまち。

 

試しにYouTubeで

「Don Quichotte figure skate」と入れて

最初の10秒の音だけでも聞いて

比較してみてください。

驚くほどばらばらです(笑)

 

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「ドン・キホーテ」限らず、

フィギュアでは

ラテン系のイメージを利用したプログラムが

数多く見られます。

 

スパニッシュ・ダンスのポーズを

要所要所に組み込むことで、

表現を印象づけやすいからでしょうか。

スペイン舞踊は、

リズミカルでメリハリが効いてきますから、

滑る人も観る人も、

テンションが上がりやすいアップですよね。

 

音楽には

フラメンコやタンゴを使用する場合も

それなりにあるのですが、

バレエのスペイン音楽が使われるケースが

結構、目立ちます。

 

バレエのスペイン音楽は、

本当の民族音楽から

エッセンスだけを抜き出して

クラシック音楽の形式に沿わせた曲なので、

カウントもしやすいですし、

振付けも元の作品のイメージを利用できるので、

扱いやすいのだと思います。

 

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バレエ《ドン・キホーテ》は、

セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』を

一応、もとにしていますが、

バルセロナの街の若いカップルラブラブ

すったもんだの末、

結婚寿にこぎつけるまでの話がメイン。

 

19世紀バレエは

美男美女キラキラの恋物語の世界ですから、

ドン・キホーテとサンチョ・パンサのような

中年のおっさんおじさん

狂言回しというか脇役扱いなんですね汗

 

で、またこの音楽が、

これでもかというほど

全編これスペイン風の曲のオンパレード。

振付と相まって、

いやがうえにも、

気分を盛り上げてくれます。

(しまいには全部同じに聞こえてくるけどやばい

 

但し、バレエ団や上演版によって

曲が増えたり減ったり、

順序が変わったりするので、

仕事で弾くときには

バレエピアニスト泣かせな作品です。

 

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バレエを良く知っている人から見ると、

フィギュアのプログラムで、

同じ「ドン・キホーテ」というタイトルでも

各選手がどの曲を取り上げているのかは、

なかなか興味深いことだと思います。

 

ザギトワ選手の音楽は、

主役の恋人たちの結婚式の

グラン・パ・ド・ドゥの曲の中に、

恋愛時代の痴話げんかのシーンの曲を

回想シーンのように挟みこんだ、

非常に賢い選曲になっています。

 

衣装も、

バレエのクラシック・チュチュを思わせる

スカートの形でしたね。

 

 

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バレエ《ドン・キホーテ》の初演は1869年。

オペラだとヴェルディの《アイーダ》(1871)や、

ワーグナーの《ジークフリート》(1871)や

《神々の黄昏》(1874)と

ほぼ同時期の作品です。

 

一方、オペラ《トゥーランドット》は1926年。

(↑意外と現代に近い時代だったりする)

 

この50年の間に何が起こったかというと、

ワーグナーが出現して、

バレエやオペラも含む「音楽劇」のあり方そのものを

大きく変えてしまうわけです。

 

音楽学には、

「ナンバー・オペラ」という用語があるのですが、

要するに曲が一つ一つ分かれていて、

番号が付いているオペラのことです。

ワグナーはこういう細分化をやめて、

切れ目なしのオペラを書き、

それがだんだん他の作曲家にも

波及していったのが

19世紀後半~20世紀初頭という時代。

 

バレエ音楽の世界は、

19世紀前半、

つまり

近代バレエ(トウシューズで踊るバレエ)が

確立した時代の様式を

19世紀後半にもまだ引きずっていて、

(これにはいろいろ複雑な

バレエ特有の事情があります)

「ナンバーオペラ」的に、

ひと幕の中で曲が細かく分かれているのです。

 

おかげで、

宇野選手の「トゥーランドット」は

つなぎ部分にも音が必要で、

ザギトワ選手の「ドン・キホーテ」は

該当曲をただつなげて弾けばいい、

…という現象になったわけです。

 

フィギュアの曲の背後に

音楽史あり、というのが

本日のオチでしたアハハ

 

 

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高島登美枝

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