先日の宇野昌磨選手の
「トゥーランドット」完全コピー動画が
意外とご好評をいただいておりますので、
ウケるとすぐ調子に乗る大阪人の不肖・高島、
今度はアリーナ・ザギトワ選手の
フリープログラム「ドン・キホーテ」を
完全コピーしてみました。
YouTubeのNHKの動画で計測すると、
ザギトワ選手のプログラムが3分57秒。
私の演奏が3分56秒なので、
ほぼテンポも再現してます
※ちなみに、テンポに関しては
「トゥーランドット」のほうが出来が良くて、
宇野選手の音楽とばっちり同じ、
4分39秒です。
宇野選手の平昌での演技は1秒分、
音からはみ出ています。
ちょっとした「かくし芸」(笑)ですが、
テンポが記憶できなければ、
バレエピアニストは、
(…というより伴奏業全般は)
仕事になりませんから、
これも職業的経験のたまものです。
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「トゥーランドット」と違って、
こちらのコピーは超・楽ちん
宇野選手の音楽のコピー作成の
手順解説の記事にも書きましたが、
あちらは、オペラ《トゥーランドット》から
3曲を抜き出しています。
宇野昌磨選手の「トゥーランドット」を耳コピーしてみた件:バレエピアニストのお仕事4
https://ameblo.jp/nikiyabayaderka/entry-12354463029.html
3曲のつなぎ部分にも
音楽が付けられていて、
全体が切れ目なく連続しているのですが、
このつなぎの音を拾うのが、
それなりに面倒なんですね。
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それに比べて、
このザギトワ版「ドン・キホーテ」。
バレエ《ドン・キホーテ》から
3曲抜き出しているところは
「トゥーランドット」と同じなのですが、
つなぎ部分に音を足すこともなく、
そのまんま切り貼りしているわけです。
おまけに、使用曲も
バレエピアニストなら、
誰でも絶対にすぐ弾けるという
スーパー有名な箇所。
なので、該当箇所を
つなげて弾くだけで
完全コピーが
「はい、一丁上がり」
超・楽勝です
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「トゥーランドット」も
「ドン・キホーテ」も
フィギュアでよく使われる作品ですが、
音楽の使い方は対照的です。
「トゥーランドット」の場合、
ほぼすべて、
宇野選手と同じ曲構成か、
さもなければ宇野選手の後半の曲
(アリア「誰も寝てはならぬ」)を
使っています。
荒川静香選手と
宇野昌磨選手の曲の尺は同一で、
歌入りが認められるようになったため、
宇野選手は後半を歌付きに変えているだけです。
(荒川選手がを勝ち取った
トリノの開会式に登場した
パヴァロッティの声だと思います。
縁起をかついだのかな?)
反対に
「ドン・キホーテ」の場合、
タイトルこそ同じ「ドン・キホーテ」でも、
抜いてくる箇所は選手によりまちまち。
試しにYouTubeで
「Don Quichotte figure skate」と入れて
最初の10秒の音だけでも聞いて
比較してみてください。
驚くほどばらばらです(笑)
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「ドン・キホーテ」限らず、
フィギュアでは
ラテン系のイメージを利用したプログラムが
数多く見られます。
スパニッシュ・ダンスのポーズを
要所要所に組み込むことで、
表現を印象づけやすいからでしょうか。
スペイン舞踊は、
リズミカルでメリハリが効いてきますから、
滑る人も観る人も、
テンションが上がりやすいですよね。
音楽には
フラメンコやタンゴを使用する場合も
それなりにあるのですが、
バレエのスペイン音楽が使われるケースが
結構、目立ちます。
バレエのスペイン音楽は、
本当の民族音楽から
エッセンスだけを抜き出して
クラシック音楽の形式に沿わせた曲なので、
カウントもしやすいですし、
振付けも元の作品のイメージを利用できるので、
扱いやすいのだと思います。
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バレエ《ドン・キホーテ》は、
セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』を
一応、もとにしていますが、
バルセロナの街の若いカップルが
すったもんだの末、
結婚にこぎつけるまでの話がメイン。
19世紀バレエは
美男美女の恋物語の世界ですから、
ドン・キホーテとサンチョ・パンサのような
中年のおっさんは
狂言回しというか脇役扱いなんですね
で、またこの音楽が、
これでもかというほど
全編これスペイン風の曲のオンパレード。
振付と相まって、
いやがうえにも、
気分を盛り上げてくれます。
(しまいには全部同じに聞こえてくるけど)
但し、バレエ団や上演版によって
曲が増えたり減ったり、
順序が変わったりするので、
仕事で弾くときには
バレエピアニスト泣かせな作品です。
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バレエを良く知っている人から見ると、
フィギュアのプログラムで、
同じ「ドン・キホーテ」というタイトルでも
各選手がどの曲を取り上げているのかは、
なかなか興味深いことだと思います。
ザギトワ選手の音楽は、
主役の恋人たちの結婚式の
グラン・パ・ド・ドゥの曲の中に、
恋愛時代の痴話げんかのシーンの曲を
回想シーンのように挟みこんだ、
非常に賢い選曲になっています。
衣装も、
バレエのクラシック・チュチュを思わせる
スカートの形でしたね。
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バレエ《ドン・キホーテ》の初演は1869年。
オペラだとヴェルディの《アイーダ》(1871)や、
ワーグナーの《ジークフリート》(1871)や
《神々の黄昏》(1874)と
ほぼ同時期の作品です。
一方、オペラ《トゥーランドット》は1926年。
(↑意外と現代に近い時代だったりする)
この50年の間に何が起こったかというと、
ワーグナーが出現して、
バレエやオペラも含む「音楽劇」のあり方そのものを
大きく変えてしまうわけです。
音楽学には、
「ナンバー・オペラ」という用語があるのですが、
要するに曲が一つ一つ分かれていて、
番号が付いているオペラのことです。
ワグナーはこういう細分化をやめて、
切れ目なしのオペラを書き、
それがだんだん他の作曲家にも
波及していったのが
19世紀後半~20世紀初頭という時代。
バレエ音楽の世界は、
19世紀前半、
つまり
近代バレエ(トウシューズで踊るバレエ)が
確立した時代の様式を
19世紀後半にもまだ引きずっていて、
(これにはいろいろ複雑な
バレエ特有の事情があります)
「ナンバーオペラ」的に、
ひと幕の中で曲が細かく分かれているのです。
おかげで、
宇野選手の「トゥーランドット」は
つなぎ部分にも音が必要で、
ザギトワ選手の「ドン・キホーテ」は
該当曲をただつなげて弾けばいい、
…という現象になったわけです。
フィギュアの曲の背後に
音楽史あり、というのが
本日のオチでした
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