対談(幸田文) | 本のブログ

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普通の人は読まないだろうと思う本を記す。
あとは、Linuxと中古PCなどの話題。

本書は岩波書店1997年刊行のもの、幸田文氏の対談集。

明治の人の話言葉は美しい・・・と、総括しようとしたが、もしかすると、著者の話術が卓越しているだけなのかもしれないので、一応却下した。

しかしながら、今の人が仮にこの本を読んだ時にいかほど理解できるのかは不明だが、私は、とても面白く読むことができた。

そして、現在が、その当時から文化的に相当様変わりしてしまったことに気付かされた。

それは沢村貞子氏との対談で話された「けじめ」や「福分」という言葉に感じるところがあったからだ。

それは、自分の分際を心得て、決して背伸びをしないこと、しかしながら、その分際の中では最善を尽くすこと、そしてなにより、現在の感覚では気が遠くなるような(そう、何十年という)時でも、何かが生まれるまで、待つということ。

 

以前から、気になっていたのだが、コスパとかタイパだとかいうことを重要視すると、長期的な展望は望めなくなってしまう、刹那的な対応は、あくまで応急処置の蓄積にしかならず、根本的な解決には必ずしも結びつかないのではないかと思うのだ。

だから、忍耐強く「待つこと」も必要だと思うのだが、それが最近どこかに忘れ去られているような世相が見え隠れしていて不気味なのだ。

 

まぁ、そんな世相談義は、とりあえず脇においておいても、本書に収められたそれぞれの対談には、もはや、昭和以降の世代にはできない語り口が満載で、それだけでも一読の価値があったのだ。

佳品である。