「かつてここは」
「水都……? 都はどこにあるんだ?」
「真下だ、俺たちのケツの遥か下にある。いまはサカナたちが住んでる」
水平へと陽が落ちてゆく、彼ら二人を乗せたボートは中空に漂う羽根のように揺られ続けている。
風は音すらあげず、そして遅れて波が届く。
静謐は無音よりも多弁だ、そこが既に気配さえ失われた世界だと語り続ける。
なんど見渡そうにも周囲には水面とそれを分ける水平線しかない。
一定の間隔で送電線が伸びている、そしてそこには休む鳥が小さく見えた。
「行き先は……ねぇな、もうさ」
「好きな方角へ漕いでくれていいぜ」
「自由すぎるってのも困っちまうな」
「牢獄とどちらがいい?」
「……メシが食えることに関してのみ牢獄、それ以外はいまのほうがいいね。お前は?」
「どちらにしても同じ結果が待ってる。そう思えば、昨日よりは今日がいい」
かつてここは。
かつての此処は、栄華を極めた都市だった。古い地図にはそう示してある。発行年月日は滲んで読めない。
だが、読めたところで彼らに年月日は意味をなさない。時間すらない、小窓から見る朝と夜しかなかったからだ。
「で。せっかく逃げ延びたんだ、せめてビールくらいなんとかならないか」
「何処かから流れてくるのを待つしかないな」
ふたりは笑い合う。シャツは片袖を失くし、首に光るチェーンはその先端に羽根を模したヘッドがついている、だが、泥にまみれ酸化し、光沢はない。
「そろそろトイレを見つけないとな」
「周り全部トイレみたいなもんじゃないか」
「腹のなかに……腹のなかにカギがある」
「カギ……? どこかの金庫か、それとも……?」
「開いちまった空の蓋を閉めるカギだ。いまさら遅いような気もするけどな。でも、早いとこ閉めてしまわないと……」
「次の雨で俺たちがアウトってわけか」
「察しがいいな」
見ろ、ひとりが言う。
視線のさきには月が蒼く目覚めていた。
夜の世界を冷たく支配するそれに空を閉める蓋がある。
「俺たちの祖先はあの裏側に住んでいたんだ。この地球って星に住んでた生命を絶滅させるために、空の蓋を開いたらしい」
「へえ……俺たち以外に知的生命が……」
「すべての生命がそう思ってるってことだ」
無造作にチェーンを引きちぎる、そしてその羽根を掲げる。
月の表面が点滅する。一定間隔ごとにそれは停止し再開する。
その光は徐々に近づく、巨大な影が輪郭を伴い、やがてそれが何であるのかが目視できるまでに近づく。
水面に浮くボートのうえのふたりの前に、現れたのは船だった。
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