「旅人」
今日も同じブーツを履いて石の街をゆく、昨日も履いていた、明日もまた履くだろう、きっと、くたばるまで履いてくんだろう。
僕の住む石の街はいつも鉛を熔かして混ぜたみたいな雲に覆われ、一日おきに雨が降る、あらかじめ決めた予定があるみたいに律儀な空。
石畳の道に敷き詰められた石と石の隙間は雨水が排水溝に流れやすくするためで、踵が鳴らす音を楽しむために造られたわけじゃないって最近知った。勘違いしたタップダンサー、うなだれて街を離れる姿を見たことも、一度だけじゃない。
街は冬の終わりだけど、そもそもここには季節なんて教科書で知るものでしかなくて、肌寒い雨季と月の影みたいな冬が交互に繰り返すだけ。街外れには海岸もあるにはあるけど、垂れ流されたオイルのせいで澱んで波さえ立たない。ぶくぶくと泡になるだけ。
終わる街。そう話す旅人がいたらしい。
コートの襟を立て、体を小さくして歩く。サイズの合わないブーツを引きずるみたいにして歩く。擦り切れたスウェード、左にはハートみたいに見える赤いしみ。
この街を離れようとした友達から譲ってもらったブーツ。
だけど、そいつは刺されて死んでしまった。
つまんないガキのギャングごっこの巻き添い食って死んじまった。
僕は明日、ここを離れるって決めた。
死ぬまでに見たい景色がいくつもあって、それをスケッチしてみたい。
なあ、と僕は呼びかける。君が見たかったはずの風景、そこにも連れてってくれよ。歩き続けられる間はずっと、おまえと行くつもりだから。
胸の十字を握る。
目を閉じる。
そして祈る。
間違えて姿を現した太陽は、オイルの滲む海にひかりを投げこんで、それは少しだけ虹みたいに見えた。
日が変わっても、街はやはり灰色におおわれていて、僕はブーツを履いて街の終わりを告げるアーチをくぐった。
━━━━━━━━━━━━━━━
<summer coming!!>
⇒月の夜にて自由を誓う
⇒スペクトル
⇒終わりなきビーチ・パーティ
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた



