「過去になる終の光景」
氷河の季節を越えたあと、訪れたのは水の季節だった。水が地表のほとんどすべてを覆い、生き物はもう残っていない。
かつての市街地を抜けて太陽が水面に溶けてゆく景色を見にゆく。空は灰の色を纏い、白い太陽はわずかな光沢を持つ。発光しているのだろう、だが、その輝きは褪せ、かつて夜に反射光を放った衛星、月を真昼に見る程度の輝度しかない。
無。
無の終景。誰の空想、夢想をも超えることのない、ありふれた光景。終焉に見るのは荒野でなく水だった、融けた氷が海を拡大させ、生命はそこへ還元してゆく。
沈んだ海底には新たな生命が誕生しているのかもしれない。
有り合わせで組んだ小船で彼は、言語がまだ生きていたころで言う「南」へ向かう。
もはや誰に送ることができるでもない、最期の手紙を書くために。
かつてここにヒトがいた、おそらく彼は最期のヒト科だろう。彼が終焉を選んだのではなく、終焉が彼を導いたのだ。記録者として水の世界を記させるために。
そして、彼が残す言葉はやがて未知の言語、古代の記録として、新たな生命が知を持ったそのとき、研究と好奇心の対象に変わるのだ。
彼は最期に書き記す。
「君ならこの風景をなんて言葉で説明する?」と。
━━━━━━━━━━━━━━━
⇒砂漠に雪が降る
⇒メメントモリ
⇒小さな背中
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた




