「スープ」
ことを終えると私は隣に眠る誰かの寝息を聞きながら、その無防備極まる間抜けな顔を眺めながら、濃くて熱いスープを飲む。
ポットに持参したポタージュ・スープ。
溶かされたカボチャやクルトンが糸を引きながら沼から掬い上げられる、スプーンは銀色で柄に聖母を彫りつけてある。
隣の男は夢を見ながら、醒めない夢のなかをゆくんだろう。甘い夢か悪夢かは分からない、どちらにしても夢は夢、彼にはもう現実は訪れない。
旅立たせたのは私。
朝の空は水に似ている、ブラインド越しに眺める淡い青のなかに煙を吐き出す。痺れが体にまだ残っていた。
グラス一杯さえ飲まれずに用済みになった、ワインの底には溶けきれずに沈澱した白い液体が渦を巻き続けている。
残りをトイレに流してから私はシャワーを浴びる、熱のある体に熱を浴びせる、どろどろに溶けたアイスクリームの気分はたぶんこんな感じだろう。
息絶えた彼は数日もすれば冷えたスープのように変質する。人体はスープだ、無駄な具の多すぎるスープだ、いつかは私もそうなるだろう。
荷物をまとめて私はチェックアウトする、街の景色はいつもと同じ呼吸をしている。
コートのポケットのなかの、スプーンを弄ぶ。
柄の聖母は私にさえ微笑みを浮かべてる。
それでも慈しみまでは与えられないだろう、私はそれを知っている。
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⇒球体の心臓
⇒ラツィオと地球儀
⇒蝶か蛾か
⇒地上の星と深海の夢
⇒水曜日のトランク
⇒名もなく彷徨う
⇒サクラと波音
⇒「さようなら」
⇒宝石泥棒の朝
⇒靴磨きのアッシュ
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた



