君とずっと遠く離れて、いまも僕は歩いてる。
名前はもう忘れちゃった、呼んでくれたらきっと憶い出せるのに、僕の名前を知るヒトはいない、だから名前も憶い出せない。
目を閉じれば南のほうから波打際のさんざめき、楽しい声も聞こえてくるんだ、だけどそれは幻かもしれないって、君と過ごした世界でいちばん美しい日々、想い出でしかないのかもって。
「星みたいな眼をしてる」って、頭をなでてキスをして、
「君と僕はずっと一緒だから」って、小さなころからいつも君は側にいた。
君がいる、ただそれだけで、僕は生きてられたんだ。
何度も何度も名を呼んで、淋しさなんて感じたこともなかったんだ、振り返ればいつだって、笑顔の君がそこにいた。
両手を広げて抱き寄せて、頬と頬をこすりつけ、僕もいつも君の名前を呼んでいたんだ。
君と僕は同じ言葉を持ってないけど、それでも伝わる温もりがあった、優しい声はまるで子守唄みたいに思ってた。
いま、僕は君のいない土地に迷って、ただただ歩き続けてる。かすかに香る君の笑顔を探してるんだ。
冷たい雨と淋しい風に打たれても、この世界のどこかに生きて、僕を探す君のことを思ってる。
すぐに帰るから、必ず君のそばに走ってゆくから、そのとき僕の名前を呼んで。
僕が忘れた名前を呼んで、それからぎゅっと抱きしめて。