「ジョニーと美貌の破壊者と」
一月某日、ステージだけが太陽を独占するかのように煌めいていた、都内のあるライヴハウス、今日も今日とてヤツらがロックンロール・パフォーマンスを繰り広げている。
ザ・シガレッツ。
インディー・ロック・シーンに現れた直球型のパンク・バンドである。彼らは一枚のオリジナルCDを携え、ツアーを敢行している最中である。
ステージから離れたフロアの片隅には美しい娘がいた、ヒールのかかとでリズムだけは取っているが、彼女はライヴを楽しむふうでもなく、眉をしかめ、怪訝ささえも含めた視線でバンドを見つめている。
彼女はまどかと言う。ザ・シガレッツのマネージャーである。バンドの動向の確認のためにこっそりと現れたのだった。
「よーよー、こんなバンドなんて観てないでさ、何処か楽しいところ行かねぇ?」
ニューヨーク・ヤンキースのキャップを斜めにかぶった小太りの男が軽い口調でまどかさんに近寄ってきた、彼女はちらりとも見ず即座に言い放つ。
「うるせぇ、なんだお前」
なんだこのチャラチャラした生き物は……めんどうくせぇなぁ……。口にしないまでもまどかさんは露骨な態度を見せる、しかし、男は食い下がる。
「冷てぇこと言わねぇでよぅ、いいじゃん、どっか行くべ」
チャラチャラした生き物はまどかさんの肩に手をかけた、その指には安物丸出しのゴールドリングがいくつも着いている。
やべぇ、こんなすげぇ美人はそういねぇべや……チャラチャラした生き物のアタマのなかは都合の良すぎる妄想でいっぱいだった、しかし相手が悪かった。
「うるせーっつってんだろ、このハエ野郎!!」
一閃、それ以外に表現できない攻撃が繰り出された。
肩に乗せられた男の手首をつかんで反時計回りに捻じりこむ、極端に短いミニスカートを気にもせず、姿勢を崩した男の首根っこを丸太に見立てるがごとく、振り上げられた彼女の踵が斧となって落とされた。
意識を失う寸前に見た……まどかさんのパンツがフラッシュバックする……文字が並んでいた、黒字に赤で……KILL、KILL、KILL……と。あんなパンツどこで買うんだろう……。
チャラチャラした生き物は一瞬の輝きを眼に焼きつけて、そのまま意識を失った。
「ふん。たいしたことないわね……次回は骨まで残らないと思いなさい」
「あ、まどかさんだ! おーいおーい」
騒動に気づいたジョニーがステージから笑顔で手を振っていた、演奏も鳴り止んでいる、会場すべての視線がまどかさんに注がれる。
「なにやってんのよジョニー! 演奏に集中しなさいっ!」
む、ムチャ言うなぁ……ヒラサワくんと天野くんは標的にされないよう、俯いたまま演奏を続けていた。
<ロックンロールはそれでも続く……>
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<check this!!>
⇒前回までのジョニーさんたち。