「法律的には、会社に辞めたいと言えば2週間で辞められる」・「会社の就業規則には、退職する場合は1か月前に申し出ること」
一見両立しない話に思えますが、実際にはどういう意味なのでしょう。
退職の種類
退職は、法律上では2種類に分けることができます。
①辞職
前者の「2週間で辞められる」はこちら。
民法627条に定める「一方的な意思表示」で、申し出を行えば、使用者の意思に関係なく退職になるというものです。
②合意退職
後者の「退職するときは1ヶ月前に」はこちら。
就業規則(労使の契約)を根拠とするものであり、こちらは『申込み』・『承諾』が必要であるため、撤回の問題が生じます。
- 合意による撤回
「辞職の意思表示」であろうと、「合意退職の申込み」であろうと、当事者で合意すれば、撤回は可能です。
- 合意退職の申込の場合
一般的に合意退職の申込は、民法525条に定める「承諾の期間の定めのない申込」にあたります。
そして、同条2項により、対話が継続している間(承諾の意思表示をするまで)は、労働者は退職の申込みの撤回が可能です。
さらに、さらに、同条3項により、使用者は退職申込みに対し、承諾する際には『承諾する』という通知をしなければ、退職申込の効力はなくなります。
「第525条 承諾の期間を定めないでした申込は、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」
「2 対話者に対してした前項の申込は、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。」
「3 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。」
実務上望ましい対応
労働者から「退職したい」という話があった場合、
①「辞職の意思表示」か「合意退職の申込」、どちらなのかを確認・判断する。
※一般的には、辞職の意思表示は『退職届』、合意退職の申込みは『退職願』ということが多いですが、名称のみで判断せず、中身を斟酌する。
②合意退職であれば、速やかに会社として承認するか、拒否するかを決める。
③決裁権限のある人が、辞職であれば「辞職の意思を受け取ったという通知」、合意退職の申込であれば「諾否の通知」を行う。
※日頃から退職したいと言われても、何も諾否の通知をしていない場合、民法527条により、意思表示があった際に承諾したと見なされる危険性があるためです。
④事業主からの通知を受けたという確認を、労働者からもらう。
退職トラブルにならないよう、しっかりと対応しましょう。