社会保険労務士法人Nice-One 所長のブログ

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正確な労働時間の把握は、労務管理において非常に難しい課題の一つです。訪問が必要な業務のように外出している場合や在宅ワークの場合、自己申告に頼らざるを得ないところがあり、なおさら困難になります。
一方で、「指示をしていないのに勝手に残業をしてしまう」、「タイムカードを打刻した後に、スタッフ自らの意思で仕事をしてしまっている」といった事業主からの相談事例も少なくありません。
今回は、指示をしていないにもかかわらず残業をしてしまう従業員に、どのように対応すればよいかという事例を紹介します。
 

  •  

     残業命令と労働時間について

     

「労働時間」とは、法的には、
「使用者(会社等)の指揮監督下にある時間」
のことをいいます。


今回のテーマでもある「残業」については、
 

  • 使用者が労働者に残業の命令を行った場合

⇒当然労働時間となります。

 

  • 残業の命令はしていないものの、自主的に残業をしている場合

⇒明確に時間外労働を命じていないものの、労働者が残業しているのを黙認しているといった事情があれば、労働者に対して「黙示の指示」をしたものとされ、労働時間にあたる可能性は高いと考えられます。

行政解釈(昭23.7.13 基発1018・1019)では、

「自主的時間外労働の場合は、労働時間ではないが、黙示の命令があると判断されるような場合(残業をしないと不利益な扱いをされる等)は、労働時間にあたる」

としています。

この具体的なものとしては、以下が挙げられます。

締め切りのある業務について所定労働時間内での処理が困難なため、労働者が自らの判断で残業をしていた時間

 

  •  

    一般的な対策

     

以下のような許可申請の提出等を義務付け、事業所側からも許可した旨の書面を出すことです。
メールや勤怠管理システムなどでの電子記録でも問題ありません。



「残業をする場合には、使用者の許可が必要」


というルールがあるかないかは、トラブルになった時、労働者が自主的に行ったことであると使用者が主張するための一つの根拠になります。
ルールだけを制定していても、実際には残業の申請はせず自主的に行っている人が多くいる、という事象が発生してしまっている状態では意味をなしません。
 

「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない」

 

という、会社が命じていない残業についての高判会社側の支払義務が否定された、代表的な高裁判決(ミューズ音楽院事件 東京高判 平成19年11月29日)では、

  • ・職員の時間外労働及び休日労働を禁止
  • ・残務がある場合には役職者が引き継ぐ旨の業務命令を発していた。

というルール・そしてそれを実際に行っていたという事情がありました。

  • まとめ

  • 従業員が自主的に行った残業でも、賃金支払義務があることもある
  • 残業許可制は、ルールがどれだけ徹底されているかが重要で、単に行っているだけでは本当の対策にはならない

 

参考判例

ミューズ音楽院事件 東京高判 平成19年11月29日