NHK・にほんこども新聞 -5ページ目

【第29回】麺であり、面

木乃伊的生活.web-MEN IN BLACK

先日の記事 で、筆者が街角でみつけた「麺」なのか「面」なのか分からない店をご紹介したところ、ある読者さんから興味深いご指摘を頂いたので、自分なりに再度確認してみることにした(※その経緯については、当該記事をご参照頂きたい。


■関連リンク:【第31回】面ないし、麺



さて、「再度確認」とは言ってみたものの、その実、上掲の記事でも触れているように、筆者は中国語に関する造詣があまり深くない。そこで、実に安易な方法であるのだが、筆者が最も信頼する海外の翻訳サイト『Tradukka』(http://tradukka.com/) を使い、日本語で表記するところの「麺」について、実際に翻訳してみることにした。なお、この『Tradukka』、外国人の友人からユダヤ系のエンジニアが開発したサービスだと聞いたことがあるのだが、実に完成度が高く、筆者は海外のニュースサイトなどを読んでいる際に、どうしても自力ではニュアンスが分からない場合などは、ここの翻訳使うようにしている。

さて、問題の「麺」だ。まずは翻訳元となる言語を「日本語」に設定し、「麺」と入力してみる。

木乃伊的生活.web-MEN IN BLACK


すると、


木乃伊的生活.web-MEN IN BLACK

「麺條」というフレーズに翻訳される。だが、このサイトの翻訳機能の中には、実はもう1つの「chinese」があり、それを選択してみると…

木乃伊的生活.web-MEN IN BLACK

今度はご覧のように「面条」と表示された。おそらく、2つ「chinese」があるのは、簡体字(※60年代に登場した簡略化された中国語表記)と繁体字(※それ以前から使われている日本の旧字体のようなもの)の別なのだと推測されるが、だとすれば、「麺」の省略した表記が「面」ということになるのかもしれない。無論、これならば、前出の読者氏が教えてくださったサイトでの解説とも符合する部分がある。


そこで改めて前回の記事の店を確認してみる。まずは外壁から。

木乃伊的生活.web-麺ないし、面

次が店頭の看板。

木乃伊的生活.web-麺ないし、面

おそらく、先述の推測を元に考えると、店ができた当初は、現地の雰囲気をそのままに再現する狙いから壁面に「面」とペイントしたが、実際に営業してみると、日本では「面」よりも「麺」と表記したほうが分かりやすく、営業効果が高いと判断し、後から制作した路上看板では「麺」と記載したのではないだろうか。たしかに、在日中国人諸氏だけを相手にするならば話は別だが、無論、日本人の多くは簡体字と繁体字の関係なぞ知る由もなく、「麺」はやはり「麺」であるほうが、商売的には正解だろう。

また、読者氏が紹介してくださったサイトでも触れられていたように、聞くところによると、実際には現地でも「面」と「麺」が入り混じった状態で用いられているという話もある。ということは、当の中国人の中でも、「麺」と「面」をはじめとする、簡体字と繁体字は、用例的に見て、やや曖昧な扱いであるのかもしれない。

おそらく、使用人口で考えればエスペラント語以上だと考えられるが、先述したように、簡体字は60年代になってから使われだした、比較的新しい表記。とはいえ、そこから既に50年。筆者はこうしたところにも、中国がいかに短期間で大きな変貌を遂げたかということ、しかも、それでいて、国民全てが必ずしもその変化に対応できているわけではないという、中国ならではの複雑な社会情勢が垣間見られるように思えてならない。世間的にはどう捉えられているかは分からないが、1つの国家として見た場合、スピッツや岡本真夜のパクリ云々よりも深刻な問題ではないかと筆者は素朴に感じてしまうのだ。

…とはいえ、筆者はどんぶりの外にある麺を、たかだか1本つまみあげてみたくらいで、大上段に構えて政治問題に言及するつもりなぞ毛頭ないが、いずれにしかり、言語やそれに付随した視覚的な表現というのは、それが最も基本的な共通認識として社会に定着している以上、やはり誰しもその日常において、常に注意を払うべき対象であるといえそうだ。自分で視覚的に四角に見えるものを表現した時、もしかすると相手には三角として伝わるかもしれないし、三階で待ち合わせしたのに慌てて産科医に向かってしまったり、実際には歯科医にいるのに死海にいるという誤解を生んでしまうかもしれないのである。これはメールなどでやってしまいがちな誤変換にも言えることだが、ハム買う人が必ずしも歯向かうとは限らないのだ。



最後にまったくの余談ではあるが、先日、都内の繁華街にて下掲の看板を見つけた。どうやら、中国系のマッサージ店のようだ。何故に妖しげな魅力を放つ女性が半裸で横たわっているのかは謎だが、店側の主張をあえて鵜呑みにするのであれば、おそらく「健全な」マッサージ店なのだろう。

木乃伊的生活.web-年中無給

それはさておきこの看板、写真の下の方に注目して欲しい。


木乃伊的生活.web-年中無給

「無休」ではなく、「無給」である。「麺」&「面」と同じようなものなのだろうか。筆者は、従業員がちゃんと報酬を受け取り、真っ当なスケジュールで働いていることを、ただた祈るばかりである。