【第30回】概ね理解され難い趣味

世 の中には実に様々な趣味を持つ人々が存在しているが、その実、それらの多くは同好の志を比較的見つけやすいものがほとんどであるような気がする。かくいう 筆者の場合、さほど趣味らしいものはこれと言ってないのだが、ここ数年、個人的に「アツい」ものの中に、「エレベータの定期検報告済証を集める」というの がある。無論、その性質上、いくら現物をコレクションしたくなったとしても、その場で剥がして持ち帰るわけにもいかないものであるから、大抵は上掲の画像 のように、携帯電話のカメラで撮影し、一人悦に入るというのがせいぜいだ。なお、筆者のこの趣味について触れた際に、「あ、自分もそれやってるんだよ ねー」などという嬉しいリアクションをとってくくれた人物は、山田かつてお目にかかったことはない。



定 期検査報告済証書がいかなるものなのかはさておき、少なくとも筆者は、自らが訪れる場所で、ほぼ毎回と言っても過言ではないほどに、これらの画像を撮影し ている。傍目に見れば単なる挙動不審者以外の何者でもないことは言うに及ばずであるが、その実、自分でやってみると、日常的な光景の中へと埋没しがちな、 これらのなにげないアイテムが、実はとても奥深い魅力を持っていることを実感せずにはいられない。

たとえば、読者諸姉諸兄がしばしば目に する検査報告済証書の多くは、上掲の画像のようなものだと思う。しかし、そうしたものの中には、注意深く見ていくと、下掲の画像の如く、ある意味、「イレ ギュラーな状態」になっているものも少なからず存在しているのだ。このカードの場合、検査そのものは既に完了しているものの、正式な認可が下る前の段階に あり、その旨を記したものをシール貼りしていることが見てとれる。



下掲の画像も、まさしくこれと同じパターンのものである。ただし、注意深く見てみると、貼ってあるシールに違いがあることが判る。



無論、シールにいくつかのバリエーションが存在しているということは、同時に、さらにイレギュラーなものも、少なからず存在しているということを意味している。例えばこのカードがそのタイプだ。



ご 覧の通り、全力で「手書き」である。筆者の経験則で言えば、こうしたものの多くは、予め用意されていたと思しき同一フォーマットのシールを用いるケースが ほとんどなのであるが、中にはこのカードのように、その場で作成したと思しきハンドメイド系のシールが使われる場合もあるのだ。一体如何なる経緯でこう なってしまったのかは定かでないが、筆者はこうした「イレギュラーカード」を見つけたときに、なんとも言えぬ感動を覚えてしまう。



ま た、通常は市区町村の名称が記されていることの多い記入欄に、どういうわけか、都道府県名が記されているケースもある。これは意図的に行われているものな のか、はたまた、何らかのイレギュラーケースの１つとして行われているのかは定かでないが、いずれにしかり、こうした個々の差異だけを見ているだけでも、 筆者はそれなりに楽しんめてしまうから始末が悪い。



そ のほかのところとしては、なぜか検査を担当した人物の名前に加え、上掲の画像のように、シャチハタ印が押されているものもある。こうなってくると、一体ど れがデフォルトなのか判らなくなってくるのだが、そうしたささやかなミステリーが、筆者にとってはかなり「ツボ」なのだ。




それと、この「定期検査報告済証」の魅力を語る上で忘れてはいけないのが、Ｂｅｆｏｒ→Afterである。たとえば、先程ご紹介した上掲のカードは、ご覧のように「手続中」なのだが、その後、暫く時間を空けてから再訪すると、下記のカードに挿し替わっていた。



ど うやら、無事に審査を通過し、正式な認可を得られたようである。筆者の知る限り、エレベータというのは、概ね、１年に１回程度、必ず検査を受けているよう なのだが、この２つの画像は、まさにその過渡期にしか見ることのできない貴重な代物であると言えるだろう。お正月の『かくし芸大会』で堺正章がやらかすト ンチキな芸と同じようなものなのかもしれない。

…と、このように「当分の間は長文を自粛する」と言っていながらも、結局、例によってろく でもない記事をアップしてしまう筆者なのであるが、こうした日常の、なにげない場所に置かれているものというのは、得てして、目立ちすぎるがゆえに、世人 の多くが注目しないものである。しかしながら、筆者はこうしたものの方が、ある意味「わかりやすい何か」をコレクションするよりも楽しく感じられてしまう のだ。しかも、基本的には「たまたま出かけた場所」にある「たまたま乗ったエレベータ」で撮影しているのだから、コスト的に見ればロハも同然。客観的に見 て、あまりに世間のムーブメントとは懸け離れているものの、個人的には「なかなか良い趣味だ」と、筆者は手堅く誤解している。


な お、この趣味の醍醐味の１つとして、「同じ検査担当者を探す」という裏テーマじみた何かがあることも付け加えておきたい。自分が何かの用事で出かけ、そこ でたまたま乗ったエレベータに、かつてどこかで見かけた人物のカードが掲示されていたら、それはそれでなかなか感慨深いものである。無論、遭遇することは 極めて稀なことなのだが、それだけに筆者は、日々、都内の至るところで、この手の画像を撮影し続けてしまうのである。たまたまそこに居合わせた同乗者から 浴びせかけられる白眼視なぞ、この際、知ったことではない。


そうした点を踏まえ、今回、筆者は検査担当者に最大限の敬意を払いつつ、最後に、読者からの需要なぞ一切無理する形で、彼らの「作品」をご紹介したいと思う。



【場所】世田谷区
【担当者】倉田雄一氏（フジテック）




【場所】世田谷区
【担当者】倉田雄一氏（フジテック）



【場所】都内某所
【担当者】東胤納盛光氏



【場所】台東区
【担当者】田辺健治氏



【場所】世田谷区
【担当者】鈴木敏裕氏



【場所】千代田区
【担当者】黒崎善道氏



【場所】千代田区
【担当者】石川清俊氏



【場所】千代田区
【担当者】三井章氏



【場所】世田谷区
【担当者】杉本忠氏



【場所】東京都（詳細地区不明）
【担当者】渡辺幸人氏



【場所】渋谷区
【担当者】清宮氏（※印字の乱れにより名は判別できず）



【場所】世田谷区
【担当者】倉田雄一氏
【備考】※申請承認後、ニューバージョンに差し換え。



賢 明なる読者諸姉諸兄からすれば、「また管理人がおかしなことを言い出した」と思われるかもしれないが、我々の日常において、安全にエレベータを利用するこ とができるのも、すべて彼らが地道な作業を続けた末の賜物である。世人の多くがどう考えるかは知る由もないが、筆者はエレベータに乗るたびに、心の中で彼 らに対し、自分なりに、幾許かの感謝の気持ちを抱かずにはいられない。