『ルチオ・フルチのマーダロック』 | 三つ子の魂百まで…トラウマニア

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『マーダロック』Murderock


【1984年/イタリア映画/ステレオ/93分】

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        ■スタッフ■

◆監督:ルチオ・フルチ
◆製作:アウグスト・カミニート
◆製作総指揮:ガブリエル・シルヴェストリ
◆共同原案・脚本:ジャンフランコ・クレリチ、ヴィンチェンツォ・マンニーニ
◆共同脚本:ロベルト・ジャンヴィッティ
◆撮影:ジュゼッペ・ピノーリ
◆美術:パオロ・ビロゲッティ
◆編集:ヴィンチェンツォ・トマッシ
◆音楽:キース・エマーソン

        ■キャスト■

★オルガ・カルラトス

【キャンディス・ノーマン】 田島令子

★レイ・ラヴロック

【ジョージ・ウェッブ】 富山 敬

★クラウディオ・カッシネリ

【ディック・ギブソン】 池田 勝 

★コジモ・チニエリ

【ボージェス警部補】 増岡 弘

★ジュゼッペ・マナユオーロ

【デイヴィス】 有本鉄隆

★ジェレッタ・メリー・フィールズ

【マージ】山田栄子

★クリスチャン・ボロメオ

【ウイリー】堀内賢雄

★ベリンダ・ブザート

【グロリア】 高山みなみ

★マリア・ヴィットリア・トラッツィ

【ジル】高田由美

★ロバート・グリゴロフ

【バート】梅津秀行

★シルビア・コラッティーナ【車椅子の少女】

★ルチオ・フルチ

【プロデューサー】※カメオ出演


ニューヨークの名門ダンススクールを舞台にスターを夢見て練習に励む女子生徒ばかりがピンのような物で心臓を突き刺される連続殺人事件をサスペンスタッチで描いたルチオ・フルチ監督の意欲作。
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十八番としてきたグロテスクな描写は皆無ながら犯人と思しき人物が二転三転と観る者を惑わす巧みな演出につい騙されてしまう辺りにスリラーを得意としていたフルチ監督の原点が垣間見れるようで実に興味深い作品だと思います。


『燃えよドラゴン』並みに鏡越しのショットが多用されているのも幻想的で素晴らしいです。当時流行していた『フラッシュダンス』に触発されレオタード姿のお姉ちゃんをワンサカ出せばヒットするとでも思ったのか?


【タモリ倶楽部ではございません】

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時代背景が強く出すぎている感は否めないものの、キース・エマーソン作曲によるディスコミュージックとお乳プルルンなサービスカットのコラボに男なら色々と満足させられる要素が詰まっているような?

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検視官が現場検証する際、閃光時間がやたらと長いストロボの影響で画面が真っ白になったり、閉校時間になると点滅するライトなど"光と影"を印象付ける照明効果が緊迫感溢れるスタイリッシュな作品作りに貢献しています。

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クローズアップした乳房にハットピンをゆっくり突き刺すシーンですが、心臓に達した瞬間『必殺仕事人』を思わせる「ブスッ!」という誇張した効果音は失笑モノ。ちなみにピンを刺す前から狙った部位が赤くなっているのが確認できるという事はNG連発で跡が残ってしまったんでしょうか。そんな事を考えるだけで楽しくなっちゃうのも魅力です。


『サスペリアPART2』アマンダ・リゲッティ宅での出来事を彷彿とさせるワンシーン

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キャストはフルチ映画の常連が揃っています。ヒロインのダンススクール教師キャンディスは『サンゲリア』でメナード夫人(木片が目に刺さる人)を演じたオルガ・カルラトスが撮影当時37歳だったとは思えない大人の色気漂うヌードを披露しており、個人的に知的なイメージがするキャンディス役がお気に入り。

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絶叫顔も見事でイタリアのジェイミー・リー・カーティスと呼びたいくらいの迫力です。
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映画スターで今は落ち目のジョージ役に70年代に一世を風靡したアイドル俳優レイ・ラブロックが扮しており、甘いマスクでニヒルな男を熱演。彼の代表作には『カサンドラ・クロス』『悪魔の墓場』『炎のいけにえ』などがあります。

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事件を担当するボージェス刑事には『マンハッタン・ベイビー』や『ザ・リッパー』で強烈な個性を見せたコジモ・チニエリが特殊メイク要らずの化け物顔で余計な花を添えています。飲み干したコーヒーカップの底を指ですくってベロベロ舐めるシーンが気色悪いけど執念深い刑事の性格を表しているようでつい見入ってしまいます。

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他に『デモンズ』で仮面を被り最初の犠牲者となった黒人女優のジュレッタ・メリー・フィールズがダンスコーチ役で顔を出してます。彼女はビンセント・ドーン監督の世紀末ネズミパニック映画『ラッツ』にも出ていましたな。
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『サンゲリア』のアル・クライヴァーは音声分析家のチョイ役として出演。
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生徒の中に『シャドー』で犯人を目撃するジャンニ青年役が印象深いクリスチャン・ボロメオまで拝めちゃいます。

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相変わらず出たがりなフルチ監督はプロデューサー役でカメオ出演ながら下手な役者より余程か上手いな~と毎回感心させられますが、この時すでに糖尿病を患っていたそうで…。
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そんでもってフルチ大先生の大好物なオシロスコープも漏れなく登場しますよ。

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足の不自由な少女を演じていたのは『墓地裏の家』でフロイトシュタイン博士の娘をやっていたあの子です。ミステリアスな雰囲気そのままで嬉しくなっちゃいます。

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この作品、昭和63年に木曜洋画劇場で『デビルズ・ダンシング』と題名を改めて放映され、当時何も知らずに観た僕にとってフルチ初体験の記念すべき映画でもあります。その後1993年にSLCレーベルから販売されたサントラを購入したのがキッカケで『マーダロック』のビデオを手に入れて観たらデジャヴかと感じるくらい見覚えのあるシーンが連発するではありませんか!それもそのはず。TV放送時に観た時は原題じゃなかったのでまさか『デビルズ・ダンシング』が『マーダロック』だったとは思いもせず狐につままれたような感覚に陥りました。

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東芝から初ソフト化された際『ルチオ・フルチのマーダロック』だったので今回のDVD題名もそれを受け継ぐ形でリリースされました。


【東芝から発売されていたVHS】

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『マーダーロック』だと勘違いしているファンも少なからずいらっしゃるかと思いますが、綴りは“MURDEROCK”なので“マーダー”と“ロック”を掛け合わせた造語のようなタイトル『マーダローク』が正しい読み方です。アメリカ公開時は“MURDER ROCK”だったりするので必ずしも間違いではありませんが…。何はともあれ今作で一番の話題はサントラにブリティッシュ・プログレの大家で元ELPのキース・エマーソンを起用した点にあるでしょう。

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彼が得意とするシンセ音の乱舞、ドリーン・チャンターとマーク・セベイジのボーカルで始まる美しいピアノが印象深い“Tonight Is Your Night”などディスコ調のナンバーがほぼ鳴り止むことなく使われていて、予告編を見るとフルチよりキース・エマーソンを前面に押し出した売り方をしているのも、いかにキースの音楽が重要な役割を果たしているかが分かるかと思います。ヴォーカルナンバーが流れる度に歌詞翻訳の字幕を入れてくれたSPOグッドジョブ!ビデオ版では字幕入っていませんでしたから。


劇中、車椅子の少女がベビーシッターに音楽流すから踊って見せてよと頼む場面でキース・エマーソンのオリジナル・ソロアルバム『ホンキー』より4曲目の“ソルト・ケイ”がラジカセからさり気なく鳴り出す辺りはファンには堪りません


Honky/Keith Emerson

¥3,035

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サントラ盤は公開当時バブルレーベルからLPがリリース。CDはキースが担当したサントラで唯一本編未完成に終わった『ベスト・リヴェンジ』とのカップリングがあり、日本ではジムコレーベルより単品では世界初CD化されるも早々と廃盤。そしてサントラ専門レーベルとして意欲的に活動していた日本のSLC社から93年8月21日に2度目のCD化。これはフルチ監督のお墨付きでライナーノーツにファンへのメッセージが添えられている貴重な一枚。

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2001年10月にはイタリアのチネヴォックス社が未発表音源を追加した増補盤CDをリリース。
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この時期ゴブリンの完全盤アルバムが続々と発表され好セールスに気を良くしたレーベルが『インフェルノ』や『デモンズ3』まで商品化しましたが『マーダロック』は売れ行きが芳しくなかったのかデジパックでの再販は実現せず現在に至る。改めて映画を観ると増補盤CDに収録されなかったテイクが幾つかあったのでリマスターを施し、もう一度商品化してくれると嬉しいんですけどね…。


【プログレ業界でもかなりのイケメンなキース!】
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録音はゴブリン御用達、ローマのトラファルガー・スタジオにて。本編を観ずに書き上げたそうですから大したものです。イタリアの音楽番組にキースが出演している映像がYouTubeで見られますがリップシンクなのが残念です。


DVD音声のオリジナル・ステレオはヘッドホンで聴くとノイズが耳障りでお世辞にも良い状態とは言えませんが、原語より日本語吹き替え版の方がクオリティーが高いです。ただノーカット放送だと思われていた吹き替えも一箇所だけ字幕に切り替わるシーンがあったのでマスター音源が劣化していたのか、CM入りか何かでこの部分のみスルーされてしまったのか分かりませんが、出来が良いだけに何とも惜しい気がします。コメンタリーは司会進行役がユーザー目線からの物言いで痒い所に手が届く嬉しいコメントを撮影監督のジュゼッペ・ピノーリと共に楽しそうに語っているのは聞き応えがあります。

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特典ディスクにはルチオ・フルチゆかりの人々が彼の思い出を語るインタビュー映像が収録されており、あのアルジェント監督の名前まで出ていましたから期待していたら顔から下しか写さない劣悪仕様でガッカリ。クラウディオ・シモネッティが『SF/コンクエスト』で音楽を担当したときの逸話を語ってくれる所以外は特段面白みの無いものでした…。額が薄くなったレイ・ラヴロックのインタビューも自分のことばかり語っていてつまらないです。ルチオ・フルチやイタリアン・ホラー好きなら一度は観ておかなければならない1本。

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