『エイリアン』(午前十時の映画祭) | 三つ子の魂百まで…トラウマニア

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TOHOシネマズ海老名で午前十時の映画祭
『エイリアン』を観賞。

【1979年製作/アメリカ映画/117分/ドルビーステレオ】

■スタッフ■


◆監督:リドリー・スコット
◆脚本:ダン・オバノン

◆製作:ゴードン・キャロル/デビッド・ガイラー/ウォルター・ヒル

◆製作総指揮:ロナルド・シャセット
◆撮影:デレク・ヴァンリント
◆音楽:ジェリー・ゴールドスミス

◆エイリアン・デザイン:H.R.ギーガー

◆エイリアン・ヘッド製作:カルロ・ランバルディ
◆フェイスハガー&チェストバスター製作:ロジャー・ディッケン
◆コンセプト・デザイン:ロン・コッブ
◆美術:マイケル・シーモア

★キャスト★

●シガニー・ウィーバー【リプリー】 三つ子の魂百まで・・・トラウマニア

●トム・スケリット【船長ダラス】
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●ジョン・ハート【ケイン】
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●イアン・ホルム【アッシュ】
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●ベロニカ・カートライト【ランバート】三つ子の魂百まで・・・トラウマニア

●ハリー・ディーン・スタントン【ブレット】 三つ子の魂百まで・・・トラウマニア

●ヤフェット・コットー【パーカー】 三つ子の魂百まで・・・トラウマニア

●ボラジ・バデジョー【エイリアン】 三つ子の魂百まで・・・トラウマニア

300人収容のスクリーン2で上映。シネマスコープの作品は家庭だと上下黒幕が出てしまうので横長のその迫力たるや映画館の専売特許ですなー♪新作上映時と違い、壁の電装品がほぼ皆無かつ照明もかなり落としていてナメクジが這うような速度でしか進めない宇宙空間に放り出されたような恐怖感を覚える素晴らしいシチュエーション。

フィルム特有のソフトな質感、適度なホコリに独特な字幕書体もデシタル化が主流となった今では大変貴重な存在であります。あと時々画面右上に現れる黒丸はフィルムリール交換時のサインなんですが、それも実に味わい深い~♪

翻訳は岡枝慎二氏。FOXから発売されているDVDとほぼ同じ内容でしたが、訳されない箇所が結構多くてかなり不親切な印象を受けます。初観賞の人やヒアリングが得意じゃないとどうにも伝わりにくいのは残念に思いました。フェイスハガーを探す医務室での場面。DVD版ではアッシュの台詞が「化け物じゃあるまいし」と訳されているところ、劇場版は原語同様「ゾンビじゃあるまいし…」になっているのが嬉しかったですね。

これだけ大きな画面だと新たな発見もある訳で冒頭に登場するキッチンに見覚えのあるコーヒーミルが!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でデロリアンの後部に搭載されていたゴミを燃料に変える原子炉"ミスター・フュージョン"の原型でもある実在するドイツ製のコーヒーミルそのものが置かれているのです。

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キャラクターの衣装も宇宙貨物船が飛ぶ時代にしてはクラシカルで特にブレットが着ているアロハシャツとかランバートが履いているウエスタンブーツなど現代的で感情移入しやすく、個人的に人間模様が丁寧に描かれているこの1作目がお気に入り。宇宙服も大昔の潜水服みたいな重々しいフォルムですし、後頭部の管から二酸化炭素がシュー!と噴出す描写なんてたまらなく好きなんです。

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この衣装は通気性が悪く初期の段階でジョン・ハートが窒息しかけたのだとか…。引きの画でセットを大きく見せるためリドリー・スコット監督の息子が代役として演じているのは有名です。H.R.ギーガーが創造した不快感を催す異質なビジュアル。エイリアンの卵が並んでいる別の宇宙人が乗っていた宇宙船入り口の形状を見てください。まるで女性器そのもの。つまり探索に行く乗組員は精子でその中で受精したのがケインだったと言う解釈もできます。

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それにしてもエイリアンに襲撃され化石になった宇宙人(スペースジョッキー)って巨神兵並みにデカくないですか?この宇宙人がエイリアン(ややこしい)に負けるとは到底思い付かないのもまた想像力をかきたてられてゾクゾクするんですけどね。ケインが降り立った洞窟には無数のエッグチェンバーが並んでいますが、その上に青白いレーザー光線のようなバリア!?が張られていて、そこに接触すると卵の中のフェイスハガーが目覚める仕掛けなのでしょうか。このレーザー装置は当時物珍しかったらしく、ライヴで使用していたバンドの"THE WHO"から監督がレンタルさせてもらったそうです。

1作目のエイリアンが子孫を残す手段は襲撃した獲物を身動きできないよう体液で固め、何らかの方法でその獲物をエッグチェンバーへと変態させる設定です。初公開版ではテンポが悪くなると言う理由から削除されてしまいましたが、宇宙船の脚格納庫で連れ去られたブレットとダクトで襲われた船長ダラスが繭にされている場面があり、それら未公開だったフッテージはディレクターズカット版で確認することができます。

【発見したリプリーに「殺してくれ!」と懇願するダラス】
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【頭部を破壊され絶命したブレットは早くも卵へと変化】
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今のように情報が溢れかえっていない80年代、シネフェックスというSFX映画のメイキングムックでこの未公開シーンのスチルや詳細が載っており、ファンの間で語り草となっていたのでした。人間を卵に変態させる設定をジェームズ・キャメロンは『エイリアン2』でクイーンが卵を産むという形に改悪してしまったのは残念でなりません。
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人間を仮死状態にし、食道へ卵を植え付け、宿主の体内で成長したチェストバスターは強引に胸を食い破り、脱皮を繰り返してビッグチャップへと成長。そのビッグチャップが子孫繁栄のために再び宿主でもあった人間を繭にするため殺戮を繰り返すと言う身も凍る理不尽かつ生理的嫌悪感を抱かせる強烈なインパクトが説得力を持たせているんだと思うんです。まぁ2作目のドンパチも好きですが…。

回復したケインが空腹感を感じたのは寄生しているチェストバスターが体外へ出る前兆なんでしょうか?あの焼きビーフンみたいな宇宙食、彼らは地球に帰ったら本物を食べたいと言っていましたが、なかなか美味しそうに見えるのは私だけでしょうかね(笑)
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【エイリアンより恐ろしい
日系企業“ウェイランド・ユタニ社”の缶ビール】
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ケインの胸に血が滲むシーンですが、最初のカットではシャツがはだけていたのにダミーの胴体を使ったシーンに切り替わるとシャツの裾が丁寧にズボンの中へ仕舞われているミスが確認できます。チェストバスター誕生の際、ジョン・ハート以外の役者は胸が爆発して大量の血糊が噴出するとは知らされておらず、本気で驚く生々しい表情には息を呑みます。中でも直接顔面に血を浴びたランバート役のベロニカ・カートライトは恐怖のあまり転倒してしまう迫力のスプラッター映像。血の気が多いパーカーがスプーンの柄で刺し殺そうとしますが、アッシュが止めに入ります。あそこでパーカーが手を出していれば酸性血液で負傷するかもしれませんが、被害拡大を食い止められたのではないかと…。

ビッグチャップを演じた長身の黒人ボラジ・バデジョーの美しくスリムな体型のおかげで着ぐるみ然とした胡散臭さを感じさせません。スーツと言ってもラバーで成型したパーツを体中に貼り付ける手法を用いていますから身動きはし易そうです。飛び出す第二のアゴをクリエイトしたのはイタリアンホラー界で活躍していた特殊効果担当カルロ・ランバルディの手によるもの。彼の代表作には『悪魔のはらわた』『サスペリアPART2』『キングコング』『E.T.』などがありますね。口周りの筋肉にはコンドームを加工して貼っているのですが、ギーガーが男性器をモチーフにデザインした頭部に避妊具のパーツを流用とは卑猥指数100%…。この辺の舞台裏は昔ソニーからメイキングビデオが発売されていてテープが擦り切れるほどリピートしましたよ。

シガニー・ウィーバーが実に若々しくて美しいですねー♪猫のジョーンズの毛とシガニーが顔に塗布していたグリセリンとの相性が悪かったらしく、猫アレルギー症状を発症し皮膚が真っ赤に腫れ上がってしまったのだとか。火炎放射器も実物を使用しておりシェパトン・スタジオの屋外で訓練を受けるスチルが残っています。
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ラストの脱出艇ナルキッソス号の中で着替えるシーンが登場しますが、当初の予定ではヌードを披露するはずだったそうで大変興味深いネタです。しかしあの申し訳程度に身に着けたミニパンティと半ケツで良い塩梅な隠れ具合の方がかえって興奮しますな。
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無防備なリプリーの前でモゾモゾと動くビッグチャップ。宇宙服に着替えるカットとビッグチャップの第二のアゴが粘液を滴らせながら出入りするカットを交互に映し出す嫌らしさには脱帽。小4の頃、荻昌宏さん解説の洋画劇場を家族全員で観ていて目のやり場に困った記憶が…。

TV初放送は1980年のゴールデン洋画劇場。吹き替え陣は、リプリー(野際陽子)、ダラス(前田昌明)、ケイン(仲村秀生) ※冒頭ナレーションも兼任、ランバート(鈴木弘子)、ブレット(青野武)、パーカー(飯塚昭三)、 アッシュ(富田耕生)、お袋さん ※マザーの声(久保田民絵)。

フジテレビ版はTBSやテレ東でも流用され、この吹き替えが最後に流れたのは97年放送のゴールデン洋画劇場が最後となっています。

 

巨匠ジェリー・ゴールドスミスの壮大なサントラも必聴!【数年前にイントラーダより完全盤がリリースフィルム版とサントラLP版を収録したディスク2枚組仕様】


今回初めてスクリーンで『エイリアン』を観賞し、想像もつかない斬新なアイデアから美術に特殊造形と超一流のクリエイターが集結し、極悪な異星人を描いた映画史に残る名作だと感じ取ることができました。

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もし別の惑星の土地が買える時代にこの作品が製作されていたら、大規模な撮影セットをその星に組んで永久保存したいくらい素晴らしい造形美だと感じずにはいられません。平面なCGが全盛の昨今、本作を超越する同等の映画は撮れないと断言できると思います。来年で午前十時の映画祭は終了してしまいますが、第3回もラインナップは今回と同じですから見逃した方は是非ともスクリーンで体感してもらいたいです。
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