エレファント・ツーリズム Ⅱ | nezumiippiki

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アジア再発見Blog

 

 

アジア象はインド、スリランカから東南アジア、中国南西部と広く分布し、100年前までは百万頭がいると推定されていたものが、現在では45,000頭と見積もられている。

恐ろしい減り方だ。

https://ourworldindata.org/grapher/number-of-asian-elephants

結果、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」では、アジアゾウを「EN(絶滅危惧種)」、絶滅の危機が非常に高い状況にあると評価。

 

タイのゾウさん達のケアのしかた

タイのゾウさんの現状を英語ネットで調べていくと、エレファント・ツーリズムと出てきた。

なるほど、エレファント・ツーリズムとはまさにタイのツーリズムを紹介するのに適した表現だ。アジア象のいる国で、タイほどゾウの頭数を揃えツーリズムのコンテンツとしている国は他にない。

そこで肝心のTAT(タイ政府観光庁)で見てみると、エレファント・ケア・ツーリズムとなっている。

https://www.thailandtravel.or.jp/elephant-care-tourism/

この記事を読むと、ケアを入れた意図がツーリストの視点外からの理由があるように感じて、筆者なんとなく違和感を覚える。

(ここまで書いて良いのか、煩い欧米の意見に忖度しているような?という意味で・・・。)

 

他の国のアジア象

インドやスリランカでもツーリズムで象を利用しているが、タイの規模には遥かに劣る。因みに、インドの森林環境省が2019年に初のインド象飼育頭数を調査したところ、2454頭であった。その内どれくらいがツーリズムで働いているかのデータは無いが、国土がタイと比較してはるかに広く、ツーリストの数もタイの半数以下なので、ゾウとツーリストの接触密度はかなり低くなる。筆者も度々インドに行っているが、インド飼育ゾウとの接触は2度ほどしかなかったと思う。

 

夕方の散歩中のインドのゾウさん達。

立ち止まって木の葉を食べ始める。

インド象はタイのゾウさんより一回り大きい。

 

余談だが、インドでもゾウの個体数が激減し最近では推定27,000頭にまで減少してしまっている。インドのアジア象も当然絶滅危惧種で、まさに危機的状況。筆者の経験だが、アッサムの友人の畑を夜中に野生象の群れが畑を荒らしながら通り過ぎ、畑の中の小屋も完全に破壊されてしまった状況の現場を見ている。そこは、住宅地と紅茶畑の間にある場所で、とても野生象が通るような場所ではないのだが、その近くの森が刈り取られ(違法な規模に)広大なキャンパスを持つ大学が出来たために、行き場を失ったゾウさんが止むを得ずそこを通らざるを得なかったためらしい。

 

インドでも小象は人気。

ドライブ中の若者が車を止めて小象達と何やらコミュニケーションし始めた。

小象に乗っているゾウ使いもまだ少年だった。

 

インドの野生象も人間世界に追い詰められている。あの広いインドでゾウさんの住める場所が今は3%までに減り、各所で人間との衝突が起き、ゾウも死ぬが人間も年間500人死んでいる(by CNN)という。その友人、それが切掛けでその大学と対立関係に発展し、彼は死をもって抗議し社会に訴えることで大事件へと発展させている。

 

 

コロナ禍がもたらした観光ゾウの苦境

 

コロナ禍の間、餌の確保にゾウさん達は苦労していた。

 

2020年からの3年間、タイもCovid-19パンデミックのお陰でツーリズムは大打撃をこうむっている。

パンデミック以前、タイで観光に従事していたゾウは推定*2,700頭以上(mongabay.com)。この殆どのゾウは職を失い、ゾウオーナーやゾウ使いの多くはゾウの飼料確保のための収入を失うことになり、多くは故郷へ戻っていく。

多くのゾウが一度に故郷に戻ってきた当初、各地では当然のように人間とゾウとの間に衝突があったようだ。ゾウの栄養失調や餓死、農作物を荒らしたことにより撃たれたり、農薬でゾウが中毒になったりと。

チョンブリにあるシラチャ・タイガー動物園では所有する11頭のゾウを1頭300万バーツで売り出した話も聞いている。

タイの観光業に従事していたゾウさん達の苦境は、日本のメディアでも度々報道されていたのでご存知の方も多かったと思う。

ゾウさん達の代表的な故郷スリンでは、そもそも300頭ほどもいるところに、同じような頭数が戻るとなるとそれは一大事となる。

*前回も指摘しているが、タイ飼育ゾウの頭数が参考にする資料によってマチマチ。前回は2400頭と紹介し、TATでは3,000頭以上としている。タイでは役所に登記して初めてゾウの飼育が出来るので正確な頭数が分かるはずなのだが。

 

夕方のゾウさんの散歩

 

@ゾウが故郷に戻るという意味

観光地で働くゾウさん達には出身地があり、雇用される観光施設に故郷を離れてやってくる。出稼ぎとも表現される。解雇されたり餌代がもらえなかったり、次の行き場がなければ出身地に帰らざるを得ない。

 

@ゾウの飼い主(オーナー)とは

タイ人はゾウさんへの思い入れが特別に深い国。趣味でゾウさんを保持する場合もあるかもしれないが、今は観光施設にリースしビジネスとするケースが多いと思われる。筆者が仕事をしていたプーケットのホテルでは、1頭の小象を所有しキッズクラブの子供達と一緒に遊ぶ仕事をさせていた。

とはいえ、金持ちだからと勝手にゾウさんをペットには出来ない。法人にしてもゾウさんの購入には法的なハードルが高く、個人では尚更難しい。

 

@ゾウ使い

ゾウオーナーがゾウ使いのケースもあるが、タイの各観光施設にいるゾウ使いは特殊技能を持っている労働者。北タイではカレン族の人が多く、カンチャナブリ方面ではモン族の人が多いと聞く。スリン出身のゾウさん達にはクアイ族の人たちがゾウ使いになっている。

*しかし、特にゾウさんの観光施設で見かける単なるゾウさんの世話をしている人たちはゾウ使いではなく、単なる下働き労働者。

 

 

スリンのゾウと人間との関係

ゾウで有名なスリン(隣県のブリラムも含む)のゾウさん達は、エレファントキャンプではなくゾウさん飼育専業のクアイの家で飼われ、あるいはクアイの米作農家に使役動物として飼われている。

スリンのケースは、ゾウさんを大切に扱うタイにおいても世界的にも特殊ケースになる。

実は筆者、スリンではゾウさんの好きな農家なら誰もが飼育しているのかと誤解していたのだが、それはタイの少数民族であるクアイの人たちに限ってのことと知った。

彼らは昔からゾウの扱いに長けており、かつては野生のゾウを捕まえてゾウを飼いならし、戦時には重戦車、平時にはトラックやタクシーとして利用するためのゾウ使いとして働き、ゾウ達と何世代にもわたって生活を共にし、現在に至るということを知った。とはいえ、現在もゾウとともに暮らしているクアイの人々は、後に紹介するタクラーン村とその周辺に限られているとのこと。

クアイの人にとってゾウは家族の一員。

 

そこでクアイ族の人たちのことを詳しく調べようとネット検索したが、英語スペルではKuy, Kui, Kuoy, Kuay, Suay, Suei など出てきてどれが正解なのか。

結局、KuyでようやくWikipediaにたどり着く。

しかし、タイでの発音はカタカナ表記としては「クアイ」となるようで、スリンでゾウ研究に携わる大石友子さんからも「クアイ」と指摘を受けている。

 

 

昨年11月にスリンに行った目的は、スリンでの人間とゾウさんとの関係を見ようと思い立ったからなのだが、たまたまゾウ祭りに日程が重なり、想定していたようなゾウさんを個人で飼っている一般農家には訪問できなかった。

一度、刈り取りの終わった田んぼの端で木々の葉っぱを食べているゾウさんを一頭見かけたが、この近所の農家のゾウさんであることは間違いないのだが、どこの農家なのかは分からなかった。

 

そして最後にバーン・タクラーン・エレファントビレッジへ行って見る。

当初筆者は、そこは観光施設としての大きなエレファントキャンプなのだろうと勘違いをしていたが、実はここが目的の村だったことを行ってから気がつく。

 

村に帰ってきたゾウ祭りに参加したゾウさん。

お祭り用の化粧がそのまま。

 

 

そして幸運なことにそこで大石友子さんと会うことができた。彼女はもう日本に帰っているとバンコクに勤める後輩から聞いていたので、全く予想外だった。

お陰で、スリンにおけるゾウと人間との関係を、彼女の論文*やnote**を読ませてもらうことで理解できたし、このブログやその他のレポートで引用させてもらう許可も得ている。

 

*参考文献:「現代タイにおけるクアイの人々が“ゾウ使い”になること」―人間と動物のコンタクト・ゾーンにおける変容と非対称性―、大石友子 広島大学

https://researchmap.jp/tomoko_oishi

** https://note.com/oishi_tomoko/n/n3639eda18cb6?sub_rt=share_b

 Noteにはシリーズでスリンのゾウさん達の状況が報告されているので是非読むこと。

 

 

ゾウの村

 

大石友子さんのいう「ゾウの村」とはタクラーン村を中心とした、スリン、ブリラム県のゾウと一緒に生活しているクアイの人々の村のこと。

タクラーン村は、スリンの街から北に58Km。ブリラム県との県境にある。

これらタクラーン村を中心とした「ゾウの村」には世界最大のゾウの保護センター、エレファント・ワールドがあり、エレファント・キングダムがあり、ゾウに関する学術的な情報を学ぶことができる。エレファントショウの会場、ゾウさんプール、博物館、‥等、象に関する総合的なアトラクションの他、ゾウの専門病院、ゾウさんのためのお寺やゾウさんの墓地まである。

https://www.tourismthailand.org/Attraction/surin-elephant-village

 

 

ゾウで有名なスリン(隣県のブリラムも含む)のゾウの村のゾウさん達はエレファントキャンプではなくクアイの家のゾウ家族として、或いは米作農家に使役動物として飼われている。そして、ブリーダーとしての家でもある。

タイのゾウさん達の出身地を調べると、半数近くはスリン出身とも言われる。

いずれにしても、スリンのケースは、ゾウさんを大切に扱うタイにおいても、世界的にも特殊ケースになると思われる。

この人間とゾウさんの特別な関係を見ようとするなら、この「ゾウの村」に泊まってそれぞれの農家を覗くことだと思う。そして、ゾウさんの世話を手伝わせてもらう。

 

実際、「ゾウの村」でもそうしている人たちはいてゲストハウスの案内を村の中で見かける。

村の中の道路案内板にHome Stay(ベッドマーク)の案内がある。r

 

これまでは欧米のツーリストが多かったようだが、コロナ禍期間中はタイ人も来て、最近では日本の若者も来始めているようだ。

 

 

スリンプロジェクトとは

前回紹介したサンドゥアン・レック・チャイラート女史の影響による新しいエレファント・ツーリズムのかたちは、ここゾウの村ではまずスリンプロジェクトとして試験的に始まっているようだ。

それはゾウさんを鎖に繋いで飼育するのではなく、広い場所で放し飼いをしながらツーリストと一緒に過ごす、ゾウさんにとってもツーリストにとっても持続可能な観光環境を整えようとするプロジェクト。

その広い場所というのが、スリン県が用意したほぼジャングルのような場所で面積は2,000エーカーとか。計算すると東京ドーム173個分。其の脇を車で通ったが、手つかずのジャングルが延々と続いていた。

それを検索で調べていくと、例のレックさんが設立した「セーブエレファント財団」がスリン県の要請で始まったのがスリンプロジェクト、とでてきた。

https://www.saveelephant.org/

https://surinproject.org/

 

とすると、現在「ゾウの村」で見られている鎖に繋がれているゾウさんの姿は見なくてすむということになるが、その代わり、その家族とゾウさんとの家族としての関係はどうなるのだろうかと心配してしまう。

現状、ゾウさんを鎖で繋ぐというのは、家庭で飼われている犬が鎖やリードで繋がれているのと同じことなのだが、あの大きな体の足が一日の多くの時間を鎖で繋がれている姿に、筆者違和感を覚えないというのは嘘になる。

事故を防ぐためにも鎖は必要だが、そもそもはその環境、人間の都合で作り出したもの。

 

コロナ禍が収束し、帰郷してきたゾウさん達の中には再び出稼ぎに出るゾウさんもいる。

今後のエレファント・ツーリズムのかたちと合わせて、タイのゾウさん達はどうなるのでしょうか。