こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。
NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。
前回のお話:
スマホカメラをシールで覆うハイセキュリティの下で始まった、時代物映画の仕事…
1つ目のシーン
まず最初は、ワードローブへ…ありがたいことに、衣装は全て、下着に至るまでワードローブが提供してくれる…そうなのだ、時代物の時はその時代の下着が必要だったりするのだ?!(過去記事参照)
その時代は1960年代で、この頃は、尖った形のブラが流行…なので、コーンシェイプのブラが貸し出される…勿論私はパッドなしではパカパカになる…それに昔懐かしのシュミーズ、そしてパンスト…そこに春用の七分袖ワンピースを着て、そこに春用コート…のはずなのだが、どうも衣装合わせの時のコートは不評だったのか、新しい別のコートが用意されていた?!…衣装合わせで来たのはグレーの無地の春用コートだったが、用意されたのは結構派手なチェック柄のコート…それよりもそれは冬用のウールのコートではないか?!
数日前から、季節はいきなり夏…まぁ、その前日の「メモリアルデーから夏が始まる」という事になっているからそれは仕方がないのだが、七分袖のワンピースも結構暑いし、その下には化繊のシュミーズにパンスト着用…なのにこのコート着ろってか?…というより、設定の季節は春ちゃうんか?!…ともかく衣装を着けて、全員が一列に並び、プロダクション・デザイナーのチェックを受けるのだが、時代物の時には特にそのこだわり度が大きいような気がする(過去記事参照)…そのデザイナーも結構細かく、何人かが別の衣装に着替えさせられていたが、私のそのコートはそのままパス?!…そこにダークグリーンのハンドバッグと、金のピアスを渡されただけだった…ええんかい?!
衣装をつけると、今度はヘアメイク…事前に、髪には何もつけないように、メイクもナチュラルメイク以上のことはしないように…と言われていたので、メイクはファンデーションだけ塗ってそれ以外はほぼノーメイク…なのにメイクに関しては「You’re good.(あなたはそれでいいわ。)」と言われる?!…口紅ぐらい塗らせてくれ~!もっとも、私は自分ではフルメイクのつもりでも「何か塗っている?」と言われるくらいなので、おそらくメイクして行ったところで変わりはなかったかもしれない…どの道、顔は映らない通行人なのだ…
問題はヘアで、これは特に女性は時間が掛かる…この担当者の人は、やたらと髪の毛を逆立てて膨らませるのが好きな人だった…しかし髪の毛の細い白人と違って、私の髪は剛毛である…頭の大きさが倍になったんちゃうか?!というような膨らんだ髪型をさらにトサカの様に立てたかったらしいが、髪の重さのせいか元々の癖が強すぎるせいか中々思うところにじっとしていてくれないようで、それをキープするためにヘアスプレーをガンガン噴射して固定しようとする…「可燃物注意」というサインを持ち歩きたい気分だった…
ありがたいことに、朝ごはんはホールディングに設置されていたので、早速取りに行く…数日前の血液検査でコレステロール値がまた上がっていたので、一瞬迷ったが、今日はストレスを減らす事を目標にしているので、スクランブルエッグとソーセージ、それにあろうことかポテトフライ…そこにカットフルーツと、ビスケット(もっともこれはおやつ用にキープ)、そしてコーヒーにも牛乳を入れる…という、普段は絶対にやらない高脂質ブレックファースト!…しかし、次に食事が取れるのは早くて6時間後なので、ガッツリ食べておく…そうでないと、空腹のストレスにさらされる事になるからだ…カメラが使えないので、朝ごはんの写真も撮れなかったが…
いよいよ時間が来たので、現場に移動する…その現場へはホールディングからまたバスに乗って移動…そうして到着した撮影現場は小さな公園だったが、その公園の周りには、時代物のクラシカルな車がずらりと駐車…そこで我々もADの指示を受け、あちこちに配置される…
やがてスタンドインの人達が退き、その主演俳優登場…その時、このハイセキュリティの原因が判明した…人気絶頂の超美形俳優ではないか?!(イニシャルだとバレるので、ここでは仮に「王子」と呼ばせてもらう)…ひゃ~!生王子がすぐそば通っていくやんか?!…眼福眼福…もっとも、画面上では美しい王子も、今回の役柄にせいか、間近で見る彼は、ごく普通のイケメン青年…という感じで、思ったより小柄だったが、脚細っ?!…とセクハラ親父の様に、そのスキニージーンズに包まれた脚をガン見してしまう…ちゃんと栄養取ってる?!と逆にオバチャンは心配になってしまうのだが…
まだ朝早かったので、公園にはちょうどいい木陰ができており、気温もまだそんなに上がっていなかったので、コート姿でも思ったより快適だった…むしろ風が結構あったので、肌寒いくらい?!…寒がりの私には、このコートは返ってありがたかったかもしれない…
その公園のすぐ横に学校があったのだが、その生徒達が窓から撮影現場を覗き、そこに王子がいる事をなぜか突き止める…見えるんか?あんな遠くから?!…そして王子を見てキャーキャー叫ぶのだからたまらない…その「騒音」で何度もNGとなり、その度に我々は元の位置戻って撮り直しとなるのだ…お前ら、ファンならせめて邪魔すんなよ!
さらに困ったのが、公園のすぐ側を通る路線バス…実は撮影の間、車は通行止めにできるのだが、バスは止められないのだそうだ…当然最新のハイブリッドな市バスは60年代にはないので、バスが通る度に撮影は「バス待ち」…また、このエリアのバスは数分に1本は何らかのバスが通っているのだ!…ニューヨークのMTAのバスよりよっぽど本数多いやんか?!
さらに私の歩いていたあたりは、古風な石畳のようなデザインになっていて、見かけはお洒落なのだが、その凸凹の丸っこい敷石がヒールでは歩き難いったらない…しかもビンテージ物の時代物の靴は固いので、中敷を入れてはいたが、決して履き心地がいいとは言い難い…
その上、その監督がこれまたこだわりの人?!…なのかどうかわからないが、とにかく何度も何度もやり直させる…短いシーンでそんなに難しいシーンでもなかったのだが、ほんの少しBGのタイミングが遅れただけでもすぐ「カット!」…もっとも、この家督はちゃんと事前にリハーサルしてくれるのだが、それだけにこだわりも半端ではない…そしてその主演の王子の演技についても、細かい指示を出し、何度もやり直すのだが、実は私は割と彼の近くにいたのだが、実はこれもイマイチどう良くなったのかよくわからない…その違いはスクリーン上しかわからないのかもしれない…そういうただでさえ何テイクも撮る監督で、その上時々学校の女学生達の「キャ~!」で中断されるのだ…何時間か後には、足が痛くて、冗談ではなく泣きたくなった…
さらにもう1つストレスだったのは、時代物では多くの人がタバコを吸う…そのタバコはハーバルシガレットで、身体に害はないのだが、それが独特の、喩えて言えば「質の悪いマリファナ」のような悪臭がする(なぜマリファナの臭いがわかるかについては、突っ込まないで頂きたい)…これが屋内ならば、たとえ自分が剃っていなくても「Smoke Pay」(過去記事参照)の対象となるのだが、屋外は基本的にはそのタバコを吸う役の人だけがそのペナルティの対象である…が、この日私は、そのハーブのタバコを吸いながら歩いている中年カップル役(しかも両方吸ってる!)のすぐ真後ろを歩く羽目に?!…実は私は、最初は彼等の前を歩いていたのに、なぜかそのカップルが出るタイミングを早くしたので、結果的にその後ろを歩くことになる…しかもそのお2人さんは、歩くのが遅く、その後を歩く私は本当にイライラさせられる…のみならず、その彼等のハーブタバコの煙が、全部私の方に流れてくるのだ!…タバコではないので健康に害はない…とはいえ、その間接煙で喉がイガイガしてくるし、何より臭いし、はっきり言って私にとっては煙害以外の何物でもない…なのに「Smoke pay」の対象ではないのか?!
そのBGの中には、何とBG犬も1匹出演?!…しかし、これが実によく訓練されている賢い犬で、ホールディングでは、何があったのか1~2度吠えたが、それ以外はずっと静かにしていたし、現場でも別に騒いだり走り回ったりする事もなく、ここに居ろと連れて行かれるところには大人しくついていく…また撮影の合間にはゴロンと座ってリラックスしているが、やがて撮影の準備ができて「Pictures up!」「Rolling!」という声が掛かると、すっくりと立ち上がるのだから大したものである…はっきり言って、人間の子供…どころか、未経験なノンユニオンBGよりよっぽど勤務態度が良い…ちなみに、この犬の名前が、セカンドADと同じ名前だった…という、ちょっと笑える事もあったりした…
(その3へ続く)
★過去記事★