こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

BG仕事を得る時は、キャスティングから直接以来が来る事もあるが、大抵キャスティングサイトに「こういうタイプの人が要る」という情報が掲載され、それに該当すればサブミットする…その際、闇雲に片っ端から応募する人もいるが、大抵は自分のタイプに合ったものに重点的に応募する方が効率がいい…その際に、やはり無視できないのが人種である…

例えば、19世紀の上流社会の話だと、たとえその頃に実際アジア人もいたとしても、我々の出番はまずない…そこで時代物の場合、我々はチャイナタウンのシーンを待つしかない…のだが、それはそれでまた激戦…全アジア人BGがそれに応募するから無理もないが、逆を言えば「アジア人はチャイナタウンに押し込めておけ」とでも言わんばかりのキャスティングに、「Diversityはどうした?!」と言いたくなるではないか…

 

なので、「これは多分白人ばっかりだろうな…」と予想できるようなカテゴリーでも、もしそれが自分のタイプに合っていれば、私は時々サブミットするようにしている…「キャストしたいけど、アジア人が誰もサブミットしてこないから」なんていう言い訳を聞かされるのはごめんだからだ。

 

ある時、とある映画のBGをやったが、それがまさにそういうケースだった…なんせ募集されていたのは「ニューイングランドの町の人達」…ニューイングランドというのは、マサチューセッツ州、バーモンド州、ロードアイランド州、ニューハンプシャー州、メイン州、そしてコネチカット州を含む一帯で、白人ばっかり…というイメージがある…もちろん実際はそんなことはなく、ボストンにはチャイナタウンもあるし、コネチカットにも黒人のコミュニティはあるのだが、それでも夫の実家のマサチューセッツ郊外なんかだと、アジア人の私はやはり注目を浴びる…といえば聞こえがいいが、要するに「なんか珍しいのがおる」ってな感じでジロジロ見られる

なので、多分これもアジア人の出番はないだろうな…と思ったが、一応建前は「全ての人種」とあるので、内心「嘘つけ!」と思いつつもサブミットした…すると、なんと驚いた事にブックされた?!

 

おそらく、最近はDiversityの推奨で、何パーセントかは白人以外の人も雇わなあかん…というような大人の事情があるのかもしれないな…と、少し身構える…そういう時は、雇いはするが現場では使わない…あるいは、使っても遠くの方で見えないようにしておく過去記事参照)…というケースが過去に何度もあったからだ…それでも、昔は雇われる事自体がなかったのだから、それに比べればまだマシ…と自分に言い聞かせるしかない…

 

ところが、その日のシーンに雇われたBGは10人ほど…そして私以外は全員白人だった…普通Diversityなら少なくとも10%…このケースなら最低2人は非白人の「サンプル」がいるはずなのだが…と思ったら、私の役は「本屋の客」…そうか!アジア人はよく本を読む人種としても知られているのだ!…つまりこの1人のアジア人でDiversity問題を解決し、なおかつ白人ばっかりの町でも本屋ならアジア人がいてもおかしくない…という事か?!

そうやって周りを見渡せば、中高年のいかにも本好きそうな白人のオッチャン&オバチャンばかりである…もっとも本好きな黒人の人達だって、現実には大勢いたりするのだが…

 

その日は我々が到着する1時間前から「通行人」役で呼ばれている人達もいたので、我々は朝ごはんはなし…まぁ、その分コールタイムがそんなに早くなかったからいいのだが、それならそうと知らせて欲しかった…実はそこのキャスティングは個別に連絡してくるので、他のBG達のコールタイムがわからなかったのだ…

また、最初私は「このシーンで使うから」と言われていたのだが、すぐに「やっぱりこのシーンはいらない」と言われ、白人のBGだけが呼ばれていった…それを見ながら「やっぱりな…」と苦い思いを噛み締める…ここでもDiversityの限界を実感する事になるのか

 

そうして待っている内に、ランチの時間…

 

 

ランチの後に呼ばれるのか?…あるいは今日はこのまま使われないままか?…こんなに人数が少ないのに使われないというのは、ちょっと辛いが、実際そういう時もあったから、その覚悟はしておいた…その頃にはDiversityに関して、かなり疑心暗鬼になってしまっていた…

 

しかし、ランチの後、もう1人の白人のおばちゃんと一緒に私もセットに呼ばれた

撮影現場は、レトロな古本屋…そこで忙しく立ち働くクルー達の間でスペイン語が飛び交う?!…どうやらそれはヨーロッパ…というか、スペインのプロダクションで、監督は私でも名前を知っている有名なスペインの監督だった?!…そして、そのシーンには私の大ファンの大物女優が2人?!…そして私はその後ろに配置される?!…きゃ~っ!…生J様と生T様が…1~2mの至近距離に?!…思わずガン見しそうになるのをかろうじて堪え、しかしわからないようにチラ見していると、うっかりJ様と目が合ってしまう…しかし彼女はまるで知り合いであるかのように、ニコニコと笑いかけてくれるではないか?!…実は私は以前彼女が出ている映画のBGをやった事があるので、全く初対面ではないのだが、いくらなんでもまさかそれを覚えているわけはないだろう…しかし、こんな風に目が合った人には、相手が誰であろうと親しみ深く笑いかける事ができる…というのが、やはりこの人が大女優である理由の1つなのだなぁ…とますますファンになった…

 

そしてこれらの大女優達が、実際に監督とコミュニケーションしながら撮影を進めていく様子を間近で見るのは、これも実に興味深い…というのも、当然のことながら、大女優だろうが、有名監督だろうが、やっている事は私等と同じ…またその気持ちもすごくわかるからだ…

ある時T様が台詞をとちり、どうしてもすんなりと言葉が出てこない…これは多くの場合、実は脚本に問題がある事が多い…つまり、その台詞が自然でリアルなものではなく、どこか無理があるから、すんなり出てこないのだ

そこでその問題有りの台本に対して、監督に「こうしたらどうか?」と代替案を出す…が、なぜか監督は謎のこだわりを見せてその元の案に固執する…そうなると俳優は「I’ll make it work…(何とかします…)」と言うしかない…

そういったやり取りを側で盗み聞きしながら、「わかるわかる!私もあなたが正しいと思う!」とそのT様に心の中でエールを送る

 

それでも何度目かにそのシーンはOKとなり、撮影は割とサクサク進む…アメリカ式はとにかく時間一杯、あらゆる角度やレンズで同じシーンを撮りまくり、少しでもオプションを多くして編集でその大半を捨て、実際に使われるのはその3分の1くらい…という贅沢な方法を取るので、その分時間も掛かるのだが、ヨーロッパ式は最初から欲しい構図が決まっているようで、それが撮れるとさっさと次に進む…しかし、スペイン人のクルーのオッチャン達の中には「Rolling!」と撮影が始まっても喋り続けている人達も結構いて、その度にADが「Silence!」と怒鳴る…「静かにしろ!」と言う時、アメリカでは「Quiet!」と言うが、このヨーロッパのプロダクションは「Silence!」と言う…意味は似たようなものだが、なんか「Silence!」というのは「黙れっ!一言もしゃべるな!」と言われているようで、表現が「Quiet」よりキツい様に感じ、ちょっとドキッとする…

 

2つ目のシーンで、プリンシパルの近くにいたせいか、私はその後の別のシーンには使われないまま、その日の撮影は終わった…

 

実は、その撮影場所はニュージャージーだったので、そこからバンでマンハッタンまで戻らねばならなかったが、そのマンハッタンに実際に到着したのは8:29pm?!後1分遅ければ、ナイトプレミアになったのに~!とがっかりしていると、そのドライバーさんは「8:31pmに着いた事にしとくよ。」と言ってくれ、さらに最終的な終了時間は8:40pmだった…

些細な額ではあるが、少しでも私達の収入が増える様にしてくれる、その心遣いが泣ける…プロダクションによっては、できるだけ我々にお金を払わないように、かなり無理な操作をするところもあるからだ…

 

ランチも食べられたし、大ファンの生J様と生T様も間近で見られたし…おまけに少しだけオーバータイムになったが、帰りはそんなに遅くないし…今日は結構いい日だった…

 

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