こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

このところ全米を襲う寒波の影響で、北国NYも当然氷点下…昨夜からの雪で、今朝起きたら外は雪景色…それでもまだ今年2度目の雪で、しかもさほど大雪…という感じではないから、やはりこの冬はいつもより暖かい様な気がするとはいえ、こういう日に出かけずに済む…という事は、ありがたいことでもあるので、引きこもりついでに、以前から気になっていたこのシリーズを一気にビンジウォッチングする…

 

 

昨夜のエミー賞やこの前のゴールデングローブ賞でも、この「Beef」主演男優賞&女優賞他、多くの賞を総ナメ「Limited Series」という、通常のシリーズよりもエピソードの回数がやや短いものではあるが、アジア人によって作られ、アジア人によって演じられた米国産のシリーズ…それがここまで高評価を受けたのは初めてで、やはりこれは歴史に残る快挙と言えるだろう…その前に「Squid Game」過去記事参照)が同じく賞総ナメ高評価を受けてはいたが、これは韓国産だった…映画では、昨年の「Everything Everywhere All At Once」過去記事参照)がアジア人パワーを全世界に示した好例だったが、テレビシリーズでもようやくそれが達成できた事は、心から嬉しく思う…

また、この作品はテレビシリーズで、ステレオタイプではないアジア系アメリカ人が、リアルに描かれた、おそらく初めての作品ではないかと思う…そしてまた、中国系、韓国系、日系の3つのアジア系の家族が描かれていた…というのも特筆しておきたい…それまでは、「アジア人」という漠然としたイメージか、あるいは中国系もしくは韓国系、またはたまに日系など、特定のアジア系コミュニティ1本勝負…という場合がほとんど…まぁ、とあるコメディ・シリーズで中国系と韓国系の婆さん達の対決…というのがコミカルに描かれていたのが唯一ぐらいで、大抵のアメリカ人はその違いさえわかっていなかったりするのだ…というか、それまではそれを描き分けるほどアジア人キャラクターが出てこなかった…というのもあるだろうが、今回は主要キャストはオールアジア系キャスト…それもアジアの他国のスターを借りてくるのではなく、全てアジア系アメリカ人である…

 

実はこのシリーズがリリースされた時、多くのアジア系俳優やBGアクター達「『Beef』見た?!」と聞かれ、まだだと答えると「早く見ろ!」「(アジア人なら)絶対見るべきだ!」とものすごい熱量で勧められた…むしろその圧に、私などはドン引きしてしまったのだが、今は彼(女)らの熱意が良くわかる…実際、公平に見ても、これは実に優れたシリーズだと思うし、主演男優賞を受賞したSteven Yeunは、「Minari」過去記事参照)より数倍いい仕事をしている…また、同じく主演女優賞受賞者のAli Wongの極力抑えた演技…その深く刻まれた眉間の皺と、全てを抑え込んで笑う張り付いた様な作り笑いが滅茶苦茶痛々しい…これはおそらくアジア系女性なら誰しも「あるあるある!」と共感できるだろう…ちなみに、この主演俳優2人は、このシリーズのプロデューサーとしても名を連ねる…だからこそ、本当にリアルなアジア系アメリカ人の姿が描けたのだと思う…

 

さらに、ダニーの従兄弟のアイザック役のDavid Choe実に頼りになる良い「兄貴」だが、絶対に怒らせたくない、そしておそらく堅気ではないな…という凄みを持ったその圧倒的な存在感と魅力も特筆しておきたい…

 

「Beef」の話の発端は、Road rage…これは運転中に、他の車から煽られたり割り込まれたりした時にブチ切れるで、運転する人なら誰しも良くわかる事…らしいが、運転しない私には、最初ちょっとピンと来なかった…しかし、そのブチ切れる直前に、実は双方に十分な理由があり、それがどんどんエスカレートして行く過程で、その背後にあるものや、それまでの抑圧された怒りや葛藤が浮き彫りになってくる…そのスピード感と、ぶっ飛んでいながらも無理のない展開に、どんどん次の話が見たくなる…

 

タイトルの「Beef」は、「牛肉」以外に、アメリカのスラングで、「不平不満」あるいは「悪意」や「恨み」などを意味し、「What’s your beef?(何が気に食わないのだ?)」のような使い方をするのだが、この場合はこちらの方である…その抑圧されたやり場のない怒りは、「なぜ自分はこんなに一生懸命生きているのに、思うようにいかないのだ?!」という、それぞれの葛藤を起爆剤として、どんどん連鎖的な爆発を引き起こし、破滅へと突き進んでいく…しかしここには、真の悪人はおらず、皆本当に一生懸命生きているのだが、タイミング悪く「何でそんな事するんや?!」という過ちを犯し続ける…そういった人間の弱さと複雑さも、このシリーズに重層的な魅力を加える…

 

これまでアジア人キャスト主体の作品は、あくまで「アジア人の問題」に特化したものだったが、この「Beef」は、アジア人のみならず、現代人に多かれ少なかれ共通する人間的な問題でもある…ようやくそういう作品が出てきたのだ…という事も、しみじみ嬉しい…

 

…と、見終わってから、実は私もこの作品のオーディションを受けた事があった事に気がついた?!…かれこれ2~3年前だったので、すっかり忘れていた…のと、その実際にキャストされた女優さんが全く私と違うタイプだったので、最初は全く気がつかなかったのだが、ふとあるシーンに見覚えがあるような気がして記録を調べてみたら、ビンゴ!…もし自分だったら、この作品にどんな要素を持ち込めただろう?…という事を改めて考えさせられた…

 

Netflixの「Beef」…かなり辛口のドラマなので、万人向け…ではないかもしれないが、私は全エピソード一気に見てしまった…最初はとっつき難くても、一度食べ始めたらやめられない止まらない…激辛ポテチの様なシリーズ、と言えるかもしれない…

 

 

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