こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどもお届けしています。

 

このところずっと忙しく、ついつい更新もサボりがち…というのも、実は先週末まで舞台の公演をやっていたからだ…それがようやく終わり、ほっと一息ついたところ…私自身も公演の千秋楽で、またこれがツッコミどころ満載公演だったので、本来なら打ち上げじゃぁ~となるところを、速攻で帰宅…だって、今年はオスカー見たかったんやもん!

 

*画像はWebからお借りしました。

 

…実は、それまで私はここで言うほど、こういうアワードものに入れ込む方ではなく、たまたま仕事もなく家に居たから見た…というケースが多かったし、家に居ても忘れていた?!…という年もあったくらいだが、今年は特に見たい理由があった…おそらく、全米のアジア系俳優は同じ思いでいたのでは無いだろうか?

そして、その期待通り、今回のOscarこと、第95回アカデミー賞は、確かに歴史を塗り替えた一夜となった…

 

そのトップはなんと言ってもMichelle Yeohの主演女優賞受賞である…オスカー始まって以来、ということはこの95年間、このカテゴリーでアジア人女優が受賞する事は一度もなかったそりゃそうだろう?!受賞するには候補にならねばならず、候補になるにはまず主演せねばならない…しかしアカデミー賞の対象になる…つまりある程度全米で興行成績を出せるようなメジャーな作品の主演をアジア人女優が務める…なんて機会は、実はものすごく少ないのだ…それでも過去にも候補には何人かなってはいたものの、それはあくまで多様性のための御祝儀ノミネート?!という感じが色濃く、本気で受賞させるつもりはないんやろうな…というケースもままあった…

 

しかし、今年は違う…「Everything Everywhere All at Once」過去記事参照)が11部門でノミネートを獲得し、その内の7部門で受賞…その中には、そのMichelle Yeohの主演女優賞を始め、助演女優賞にJamie Lee Curtis助演男優賞にKe Huy Quan、さらにBest Picture、Best Director、Editing、Original Screenplayと、ほとんど総ナメ状態?!

これをアジアブーム…などと言う人がいるが、これはアジアのブームなどではない…この「Everything Everywhere All at Once」という映画自体が、それらの賞に相応しいと評価されそういう映画に出演するチャンスを与えられた俳優達が、存分にその能力を発揮して、それが評価された…というだけの事なのだ。

言い換えれば、それまでそういう映画に出るチャンスが全く得られなかったアジア人俳優に、ようやくその機会が回ってきた…ということでもある。

Michelle Yeohは、香港ではすでに大スターだが、その30年に及ぶキャリアの中で、アメリカ、すなわちハリウッドで、主演を務めるのは初めてだったという?!…つまり、この機会を30年待たねばならなかったわけである…彼女が受賞スピーチで呼びかけた「All the little boys and girls who look like me」というのは、要するに「アジア人の」、さらに言えば「非白人の」少年少女達という意味である…その次世代の子供達に、白人でなくても成功するチャンスはあるのだ、という希望を彼女は示した…というのも、今まで(少なくとも過去95年間)は、そんな希望の前例などなかったのだ…

 

また彼女は女性達に言う「Don’t ever let anyone tell you that you are past your prime!(我々は旬が過ぎたとは、誰にも言わせるな!)」…白のドレスをエレガントに着こなすMichelle Yeohは60歳…特にアジア人女優は、それまで20歳以下か40歳以上…つまり若い娘役かオバサン役しかなく、50歳以上はお婆さん役…と言うのが定番だっただけに、この彼女の言葉の意味は重い…

 

一方助演女優賞受賞のJamie Lee Curtisも64歳で初ノミネート&初受賞…彼女は両親が大スターのいわゆる2世俳優だが、それはそれで親と絶えず比べられて別な苦労があっただろう…と言う気がする…もっとも彼女はどちらかといえば脇役路線で、ずっと途切れることなく仕事を続けてきているが、それでもオスカーの対象になるような役にはあまり恵まれていない…それだけに、彼女も35年待った!…と言う思いだったのだろう…

 

ちなみに、この助演女優賞というカテゴリーは特に激戦区である…そりゃそうだろう…主演は1人か2人だが、助演となると複数いるし、その中でも印象的な俳優はたいていベテランである…また、フレッシュな新人がこのカテゴリーで好まれる事も多い…そういう意味では、正直のところ、Stephanie Hsu「The Whale」Hong Chau過去記事参照)の方が、演技の上では遥かに良い仕事をしていた…のだが、おそらくこの2人はまだ若いから、この先またチャンスがあるだろう…というので、Jamie Lee Curtisの受賞になったのではないか…という気もしないでもない…また実際、Jamie自身もすごく良い芝居をしてもいた一歩間違えばステレオタイプな悪役留まり…という役にリアルな人間性を与え、同じ母親としての深い共感に満ちたイブリンとの短いシーンは、あのシュールな映画の中でもっとも感動的な1シーンである…通常は、マイノリティの我々が、そういう役にされがちなのだが、この映画では白人の彼女がマイノリティ…と通常と立場が逆転していたのだろう…

 

この主演&助演の女優賞を獲得したお2人さんは、いずれもベテラン中のベテランなのにそれまでチャンスを与えられなかったわけで、そんなオバサンパワーの炸裂…という一面もあり、それまで若く美しいことが必須条件であったハリウッドの女優像にも一石を投じた…

 

一方、助演男優賞を獲得したKe Huy Quanと、主演男優賞を獲得したBrendan Fraser過去記事参照)は、共に「カムバック」という共通項を持つ…彼らはいずれも若い頃(Ke Huyは子役時代)に一度チャンスを得てスターになったものの、その後に仕事に恵まれず、一時期俳優業も休止せざるを得なかった…それが、また作品に恵まれ、再びスターダムへ戻って来た!…というわけである…もっとも、アジア人男優のKeと、白人男優のBrendanとでは状況がまた違うだろうが、二人とも「諦めない事の大切さ」をカメラに向けて訴える…

 

主演女優賞のプレゼンテーターの一人がHalle Berryであったのも味な計らいである…(本来なら、これは昨年の受賞者のWill Smithがやるはずだったのだが、例のビンタ事件で彼は10年間オスカーに出入り禁止になったのだ)…彼女も2002年にアフリカ系で初めて主演女優賞を受賞し、歴史を塗り替えた今、その彼女の手から、同じカテゴリーで、オスカー像がMichelle Yeohに渡される…

 

そして、この夜、再び歴史は塗り替えられた…それは、アジア人主体の映画もアジア人俳優達も、別にわざわざ気を使ってくれなくても、機会さえくれれば、それだけで十分ハリウッドの競争に勝ち抜ける…という事を証明した夜でもある…

 

★過去記事★

 

 

 

 

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