こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子などをお届けしています。

 

昨日アカデミー賞の候補作品が発表された(過去記事参照)…そのBest Pictureの候補作の多くは、このブログでもご紹介してきたが、実は2作品触れていなかった作品がある…どちらも注目に値するところがある映画ではあるけれど、「映画全体のクオリティ」という観点から冷静に見ると、ホンマにBest Picture?…というのが、実は私の正直な感想だったからだ…もっとも、それはあくまで私の個人的な感想で、それは独断と偏見がベースになっているのは今更いうまでもない…まぁ、別にお金をもらって映画のレビューをしているわけではないし、所詮映画を観た後で感想をくっちゃべっている、お喋りの延長だと思って頂きたい。

 

Mank

 

 

これは「Citizen Kane(市民ケーン)」の脚本を書いたHerman J. Mankiewiczの話である…実はあろうことか私はその有名映画「市民ケーン」を見た事がない…なので、例えば冒頭のシーンや、過去と現在を行き来する構成など、おそらく「市民ケーン」へのオマージュ?というような部分を、その映画を知っている人ならもっと楽しめただろうな…と漠然と想像するしかないし、そのモデルの人物についても全く知識がなかったので、最初予備知識なしで見た時は、はっきり言って「ふ~ん」てな感じだった…しかし、そういう背景となる内輪情報を把握した上でもう一度みると、2度目はかなり面白かった…こういう「わかる人にしかわからない」というようなある意味観客を選ぶ映画は、ある種の特権意識を持てるので、好きな人は好きなのだろうが、私はその時点でなんかなぁ…と思ってしまった…

 

実は、こういう昔のハリウッド映画界ネタ…というのは、今でもハリウッドでは人気のジャンルである…しかもこの映画は、よりその時代のハリウッド映画を思わせるよう、わざと白黒で撮ってあったりする…古き良き黄金時代のハリウッドへのノスタルジーも、人気の理由かもしれない…

 

しかし、役者陣に関しては申し分ない…特にこのMankこと、Mankiewicz役を演じたGary Oldmanは絶品…今回はそんなに特殊メイクをしているわけでもないのだが、まるで別人…もっとも私は実際のMank自身を知らないので、本人と似ているのかどうかは判らないのだが、こういう一見チャラい奴は、業界には多かった(今も多い?!)んだろうな…と思わせ、そのくせ「実はいい人なんだろうな…」と思わせる魅力がある…全くこの人の芸域の広さは本当にすごい…この映画の中ではチャラいアメリカ人なのに、Q&Aではめちゃめちゃブリティッシュやんか(当たり前なのだが)…というのに、いつも驚かされる…

ちなみにクライマックスのディナーのシーンでの、17ページに及ぶという長台詞は、何と1カットで撮られたものだという…まぁ、シアターではそんな風に長々喋る事はザラなので、元来舞台俳優の彼にはどうという事はないのかもしれないが…

実はこの脚本は、監督のDavid Ficherのお父さんの遺作だという…だからおそらくそんなに気楽にカットするわけにはいかなかったのかもな…と思わせるような、現代の観客にはやや冗長なところがなきにしもあらず…だが、それも古のハリウッド感に一役買っているのかもしれない…

 

 

Minari

 

 

アジア人としては、この作品のノミネートは大いに歓迎するべきなのかもしれないが、実に地味ぃな作品ではある…監督のLee Isaac Chungのお父さんがモデルだそうだが、アメリカにやってきた普通の移民達の物語…その地味なテーマを地味ぃに正攻法で描いた映画なので、まぁ、印象が地味なのも当然だろう…

実は、この手の父親世代の「移民根性物語」というのは、割と人気のジャンルで、アイリッシュ系、ユダヤ系、イタリア系の移民物語の中には、多くの優れた作品が作られている…ところが、アジア系のこの手の移民物語はあまり聞かない…といわれるが、これはメジャー映画では、という意味である…インディ映画では、別に珍しくも何ともないネタで、実際かくいう私もその移民のお母さん役に何度もキャストされているのだから…

この移民根性物語のパターンは、母国を離れ、アメリカンドリームを夢見て渡米した移民達が、アメリカ人としてその新天地に根を下ろし、アメリカの一部となる…というのが多いが、なぜかアジア移民は、いつになっても感覚的には「アメリカの一部」というより、アメリカにいる外国人という扱いのままである…もっとも、アジア人排斥の移民法のせいで、昔はアジア人はアメリカ市民に帰化できなかった…というのもあるのだろうが、その子供達はアメリカ人として育っているので、しばしば第一世代と第二世代の文化の確執…てなものがテーマになることが多い…しかし、このMinariは、アメリカに根を下ろし、アメリカの一部になろうとする移民の物語で、それがメジャー映画で作られ、アカデミー賞候補になったという事は、アジア系アメリカ人の物語が、ようやく「アメリカ人」の物語として受け入れられた…という意味では大きい。

 

しかし、正直のところ、これは御祝儀ノミネート候補にしてあげるだけで十分でしょう?…という扱いで、受賞に至る事はまずないだろうな…という気もしないでもない…が、今はそれでも十分である…だってこれまでは、そこまで辿り着けず、その前でブロックされている状態だったのだから!また、主役のSteven Yeunは、主演男優賞にアジア人初のノミネート…この93年間、アジア人俳優は1人も主演で候補になったことがなかった?!…というのにも驚いたが、Inclusionへの間口がようやく少し広げられたわけである。

 

もっとも、Stevenはとても誠実に一生懸命演じていたと思うが、実際のモデルの監督のお父さんは、もっと山気のある人だったのではないか?…なんせいきなり中西部のど田舎に土地を買い、そこでやった事のない農業をいきなり始め、おまけに水の確保も、お金がもったいないと、自分で勝手にやろうとするのだ…そんなアバウトでいい加減だが、何故か自信と行動力を持ち、周りの人は引きつけられ、それに引きずられてしまう…そういう人だったのではないか?という印象なのだが、Stevenはそういう点ではものすごく真面目で、どちらかといえば、いきなり土地を買おうとする友人を嗜めるタイプ…もしこの役がオーディションを通してキャストされたものなら、彼はおそらくタイプではないと言われたのではないか?…という気もする…今年の主演男優賞は、おそらくChadwiick Bosemanに行くだろうから、これもおそらくご祝儀ノミネートかもしれないが、ともかくアジア人初のノミネートなのだから、今はそれでも十分と言えるかもしれない…

その役者陣で、抜群の存在感をアピールしていたのが、婆ちゃん役のYoun Yuh-Jung韓国のベテラン女優で、彼女は今回助演女優賞にもノミネートされているが、こちらはご祝儀以上の可能性があるかもしれない…

 

ちなみに、Minariとはのことで、その婆ちゃんが韓国から持ち込んで(ええんかい?!)裏の森に植えたら、しっかり根がついて繁殖する…そこに韓国から移住し、そこに根を下ろしていく韓国系移民の姿が重ねられるアメリカ人なのに異文化人扱いされ続けた、アジア系アメリカ人達にとっては、やはりこの作品の評価は、大きな意味を持つようである

 

★過去記事★