こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

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今年最後のスクリーニングで、この映画「Killers of the Flower Moon」を見た…

 

 

実は、これはApple TVのオリジナル映画で、私もサブスクしているのでコンピュータの小さい画面で見られるのだが、やはり映画は大画面で見たい…という思いがどこかあったりする…

 

Martin Scorsese監督の映画なので、上映時間は3時間25分とめちゃくちゃ長い?!…が、今回はそんな長さをほとんど感じなかった前回の「The Irishman」とほぼ同じくらいの長さで、その時私は実は2回ぐらい爆睡したのだが…

 

北米の先住民族は、かつての自分達の土地を追われ、いくつかの居住地へと追いやられたのだが、その1つのOsage族の居住地に石油が出た…そのオイルマネーを目的に人々が殺到し、町は石油ブームに湧きかえる…はずが、その先住民族を狙ったいくつもの殺人事件が起こる

 

ここから先はネタバレ警告

 

長さの割に、一向に退屈しなかったのは、勿論「これからどうなる?!」と言うハラハラドキドキの要素を含んだ展開…という脚本の良さもあったのだが、何と言っても俳優達の演技の功績が大きい…

 

特に、この映画のヒロインのモリー役のLily Gladston…彼女は本物の先住民族系アメリカ人で、Osage族でこそない様だが、その静かな存在感が圧巻…「ペラペラ喋ってアホに見えるより、黙っている方がいい」と言う通り、その多くの場面で沈黙を守ることが多いのだが、その黙ってじっと見つめる眼差しに、この人には全部お見通しなのだ…と言うのが観客にははっきりわかる…そして全てを見抜いていながら、それでも夫への愛故に、何も言わない…というその胸の内の葛藤も、これまた実に明確に伝わるのだ…

妹が殺された事を知って、彼女は慟哭するシーンがあるのだが、その瞬間、それまで「ママ~」と泣いていた子役の小さな女の子がぴたりと泣き止んだ…子供心にも間違いなく何か感じるものがあったのだろう…またモリーはそれまであまり感情を面に出さず…いや、出してはいるのだが、ずっと的確で極力押さえた表現だっただけに、その感情が一気に噴き出す場面に、見るものの心は鷲掴みにされる…この人は紛れもなくオスカー候補にふさわしい…と私は思うが…

 

そしてその夫のアーネストが、これまたどうしようもないアホなのだが、それでも可愛げがあって憎めない…その人間的な魅力と弱さLeo DiCaprioが見事に演じるこの人こんなに上手かったっけ?!…と、実はかなり彼を見直した…おそらく彼はこれでオスカー候補になるだろう…

 

また、その伯父さんを演じるRobert De Niroタヌキ親父ぶりが、これはもう至芸と言ってもいい…実に人情に溢れた良き隣人…かと思いきや、実はものすごく非情な悪党…それでもイマイチ憎めない人間味豊かな魅力を持つ…このところあまり作品に恵まれず、薄っぺらい爺ちゃん役なんかやっていた彼だが、この役では本領発揮ここまでできる人だったのだ…おそらくオスカー候補間違いない…と思う…

 

この映画にも出てくるように、先住民族が被害者になった事件は、ろくに捜査もされない…この手の人種差別はおそらくずっと行われてきたのだろうが、その事が公に話される様になったのは、実はごく最近のことである…今後も、そういった過去はどんどん明るみに出すべきだ…それは何も補償や謝罪を求めるだけではない…次世代にちゃんと教えて、それを2度と繰り返さないためにである

この映画でも、Osage族の人々は、州の警察では埒が開かないので、連邦政府に助けを求める…そしてそのOsageの殺人事件捜査が、FBIの初事件だったのだそうだ…

 

ただ当然の事ながら、そのFBIの捜査員のほとんどは白人男性で、その事件の犯人も皆白人男性だったりするので、ようやく助けに現れた人達も皆悪人に見えてしまう?!…その時の「この人はええもん?それとも悪もん?!」というサスペンスが、このクソ長い映画を最後まで一気に見せる原動力だったのではないか…という気もする…

それだけに、はっきり言って最後のラジオドラマのシーンは、私ならカットする…まぁ、スコセッシ氏自身があの役で出たかったのかもしれないがその後のシーンも、はっきり言って要らない…ある時、モリーがはっきりと夫を見限る場面があるのだが、私ならそこでエンディング…そこでドラマは明らかに終わりを遂げているからだ…「その後の情報」は画面に文字で出すだけにする方が効果的だろうに…

 

また、冒頭の先住民族の儀式のシーンは、何か「ナンチャッテ」の臭いがするし、「これ本当に要る?!」と言いたくなるようなシーンも結構あるストーリー上に絶対必要…と言うより「先住民族文化をちゃんとフィーチャーしてまっせ!」と言うアピールのような気がするのだ…そもそも先住民族と一口で言っても、部族によって全然違うのだ…さながら「日本の九州」の話だったのに、思いっきり東京弁だった「Silence(沈黙)」と同じことが起こっていたのだろうな…と、そんなに詳しくない私にさえ想像がつくのだが、その「やらされ感」がどうしてもチャチに見えてしまうのが、何とも残念である…

ちなみにこの映画の制作費は2億ドル?!伝記物では最高額だというが、時々「低予算かい?!」と言いたくなるようなチャチな場面もあったりする制作費のほとんどは、大スターのギャラに行っとるんちゃうか?!…と、ツッコミたくなるのだが

 

…と、ツッコミどころは多々あれど、これは一見の価値は十分ある映画である…少なくとも俳優達の演技が素晴らしい…それにほんのチョイ役にもやけに豪華なキャスティング…おそらく「一度でいいからスコセッシの映画に出たい!」…という俳優が多いのだろう…まぁ、勿論これだけツッコミを入れている私にしたって、もしお声がかかれば、すぐさま尻尾を振って喜んで出演するだろうから、人の事をどうこう言えた義理ではない…

 

来年もまたいい作品と出会いたいものである

 

 

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