こんにちは。NYで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子などをお届けしています。

 

これまでのお話: 1分間の勝負(1)

                        1分間の勝負(2)

TVのオーディションは、通常1分で勝負の決まる、ああ無情な世界…だからこそ、その1分にかける準備は非常に重要になる。

ある時、TVのオーディションで、実際にキャスティング・ディレクターにやれと言われた役が、エージェントから言われて準備した役と全く違うものだった…

 

撃沈…

エージェントにわざわざ確認したのに、私のオーディションを受ける役は、準備したジャーナリスト役ではなく、まさかの重役の方だった!…さながら、前方は広い海だと思っていたら、実は大きな氷山があり、いきなりそこに激突したようなもの…もちろんパニックになる…ジャーナリストに関しては準備は万全だったが、重役に関してはその台詞の内容をかろうじて把握している程度である…そもそもそれなら違うスーツを着てきたのに!いや、それどころではない…一瞬真っ白になった頭の中を整理し、気を落ちつけようと、実はエージェントにジャーナリスト役だと言われていたので、ジャーナリストの準備しかしていない事を説明するが、気が焦っているので英語もしどろもどろ…キャスティング・ディレクターは「全員がこの重役のSidesを日本語にして読む事になっていて、その中からジャーナリスト役も選ぶ」と言う…でも、ジャーナリストと重役では、立場が逆だし、要求される役のクオリティも全く違うやんか?!…両方のSidesを読むならともかく、同じ一つのSidesで、全く違う役を選ぶって?!…キャスティング・ディレクターは、おそらく日本語を話せる日本人の役者を探す事を心配していたのだろうが、これがもしアメリカ人の役なら、そんないい加減なキャスティングの仕方をするか?!…おっと、キャスティング・ディレクターに喧嘩を売っている場合ではない…しかもすでに部屋に入ってから1分近く経っている…本来なら、とっくにオーディションは終わっていて然るべき時間である…なのに私はまだ始めてもいない!…しかも、さっきから私がくだくだ言っている事は、なぜ重役の準備ができていないかという言い訳ではないか?!…実際オーディションでUnprepared(準備不足)な役者ほど見苦しいものはなく、これは最も嫌われるものである…だから私もあれだけしっかり準備してきたのだ…違う役だったけど

 

ともかくこれ以上時間を無駄にするわけにはいかない…幸い台詞は日本語…とはいえ、それは英語の台詞をその場で日本語に訳さなければならない…後で思えば、いっそ全くのインプロにしてしまえばよかったのだが、なまじっかSidesがあるだけに、それを翻訳しなければならないと頭から思い込んでいた…しかし、翻訳と演技は脳の全く違う部分を使うので、それを同時進行でやるのは、かなり辛いものがある…特に気持ちが焦っている時はなおさら日本語が出てこない…おまけに敬語がうまく喋れず、一瞬変な日本語に…これでは日本語が喋れるという事さえ怪しく聞こえるではないか?!…さらに、これは謝罪記者会見だと思っていたが、本当にそれでいいのか?…つまり、アメリカでは謝りすぎてしまうのはかえってまずいのではないか?!…そうなると全てに迷いが生じ、迷いながらやっていると全てが中途半端にそれではいけない…とわかってはいるものの、タイタニック号のように、一旦沈み始めると、もうどうにも止まらない誰か止めてくれ~!

ここまで不本意な形で撃沈したオーディションというのも、最近では珍しい…しかも、始める前に余計な時間をあれだけ取って、これかよ?!…私がキャスティング・ディレクターなら、こんな役者は2度と呼ばない…そうなのだ、それが困るのだ…

キャスティング・ディレクターの多くは、象並の記憶力を持つ(そのお話はこちら:象のような記憶力)…しかも、このキャスティング・ディレクターと会うのはこれが初めて…という事は、私の今日のこの撃沈オーディションが、今後の私の印象を決定してしまうのだ…始める前にUnprepared(準備不足)の言い訳をくどくど述べて無駄な時間をとった挙句、オーディションはイマイチ、おまけに日本語も怪しい…あかん…はっきり言って、無茶苦茶印象悪いやんか?!

そこで私は、一か八かの賭けに出る事にした…

 

(その4に続く )