こんにちは。NYで役者やってます、まみきむです。

 

世界中から、夢と希望を持った人達がやって来るニューヨーク…切磋琢磨して己の才能を磨き、より一層実力をつけ、あわよくばここで一旗あげたい!…この街には、夢を持つ人達にそんな思いを抱かせ、またそういう人達を惹きつける強力な磁場がある。

しかし、その一方、そういう夢と希望を持つ人達を食い物にする人達も、実は存在する。まさか自分だけはそんなものに引っかかるはずがない…と思うかもしれないが、いかんせん相手はプロ…そういうプロの詐欺師に食い物にされない為には、相手の手口を知っておく事が大切だ。

ここでは、「NYで役者になりたい。」という夢を持つ子羊達を食い物にする、偽タレント・エージェントに出会った時の、Red Flag(危険信号)をいくつか紹介するので、もしそういうRed Flagに遭遇したら、速攻で逃げるのが一番である。

被害者とならないために、自分の身は自分で守る…それがNYの鉄則である。

 

経験無用でもOK?!

「あなたには映画スターの素質がある。演技の勉強も経験もない?大丈夫、心配はいりません。経験なんてなくてもOK。私達があなたをハリウッドのスターにしてあげます!」…もし、NYの街中や、郊外のモールで、こんな風にスカウトされたり、いきなりこういうメールを受け取ったり、あるいは、こういう文句を雑誌の広告ネットの掲示板などで目にしたら…速攻で逃げた方がいい。

というのも、ここにはすでにRed Flagがテンコ盛りなのだ。

 

まず「映画スターの素質がある」かどうかなんて、少なくともその人の演技を見るまでは分かるはずがない…そもそも素質だけではスターにはなれないし、そんな事を保証するのは不可能なのだ。その保証できない事を保証してしまうというのが、まず第一のRed Flagだ。

 

はっきり言おう。演技の勉強をしたこともないようなズブの素人が、エキストラ以外で、いきなりハリウッド映画に出られる…などという事は、99%ありえない。ではその残る1%はどういう場合かというと、本人かその親が超金持ちで、映画の資金を何百億ドルでも平気で出せる…という場合、その自分(もしくは親)が出資した映画になら、出る事は可能である。なんといってもプロデューサーが一番偉いのがショービジネス…また経済力が権力となるのは資本主義の宿命でもある。ただ、そんな映画が、ちゃんとした評価を受けるようなものになるかどうかは、全く別問題だが…

時々「芝居の勉強なんてした事がありませ~ん。」というポーズをとる役者がいたりするかもしれないが、はっきり言って、その大半は宣伝のための大嘘か、あるいは単に「ジュリアードやイエールのような、演劇の名門校で勉強した事がない」という意味だったりするだけで、実は多かれ少なかれ、必ずどこかで演技のトレーニングを受けているか、個人の演技コーチがついているものである。「無名の新人」というのも、単にメジャーな映画やTVの出演歴がないというだけで、実は舞台やインディ映画では何十年も活動していたりして、決して芝居そのものの経験がないという意味ではないのだ。

ちなみに、「私はバイオリンを習った事はないが、クラシック音楽を聞くのが好きなので、ニューヨーク・フィルでいつか演奏してみたい。」とか、「バレエのレッスンを受けた事はないけれど、バレエを見るのは大好きなので、夢はニューヨーク・シティ・バレエに舞台に立つことだ。」などと言う人は、多分いないと思う。その分野の素人でも、バイオリンやバレエは、その専門の技術が絶対必要で、鑑賞が好きなだけでは無理だとわかっているからだ。それなのに、役者については、全く芝居の経験も勉強した事さえないのに、「映画が好きなので、ハリウッド映画に出たい」と、なぜか平気で思っている人が多い…実は、役者も、バイオンやバレエと全く同じなのだが…前にも書いたが、必要な技術を持たない者は、現場では全く通用しないので、速攻で切り捨てられる。

(そのお話はこちら:ナンチャッテ観光客)

もちろん、たとえ演劇の名門大学を卒業し、さらに何十年も役者のトレーニングを積んで技術を得たとしても、それだけで役者として大成できるという保証は全くないのも事実だ。しかし、だからといって「技術はいらない」という事にはならない。「技術はいらない」というのは、技術を持たないくせに、それを学ぶのが面倒…という人の言い訳に過ぎない。技術を学ぶには、時間もお金も掛かるからだ。しかし、素質だけを問題にしていれば、そんな苦労はしなくて済む…が、それが通用するような甘い世界ではない。

 

先の台詞に戻ると、「演技の勉強をしたことがない」のは、「大丈夫、心配はいらない」どころか、実は大いに心配すべき事で、これこそが次の罠の伏線なのだが、それについては、また後で触れる。

また、「私があなたをスターにしてあげる」という台詞自体が、Red Flag以外の何物でもない。スターどころか、現実は、仕事が取れるかどうかも保証できないのだ。ちなみに、「ハリウッド」を連呼するのもRed Flag…カリフォルニア州にあるこの映画の都の事は、業界では「LA」もしくは「West Coast(西海岸)」と呼ぶのが普通である。

 

しかし、不幸にもこれらのRed Flagが見抜けず甘言に乗せられた場合…あるいは、これらのRed Flagが巧妙に隠されていて見えなかった場合、次にくるのは、事務所での「面接」である。そして、そこには次の罠が待っている…

 

(その2へ続く)