『田中角栄 魂の言葉88』(昭和人物研究所)の中で著者は
角栄の尽力以来、雪国の住民は変わっていく。雪が降ったら1年の3分の1は閉じ込められジッと我慢する生活から、「雪が降ったら除雪する」に変わった。つまり、雪がカネになったのだ。
と述べています。
この一節を読むと、田中角栄という政治家の「現場を変える力」がどれほど大きかったか、あらためて実感します。
角栄は机上の発想ではなく、雪国の暮らしを肌で理解していた人でした。
冬になれば交通が止まり、物流が止まり、人々は家に閉じこもるしかないその生活の不自由さを、本気でなんとかしようとした政治家だったのです。
彼が推し進めた除雪体制の整備は、単なる道路対策ではありませんでした。
雪が「行動を奪う存在」から「取り除けば動ける存在」へと変わったことで、住民の生活が一気に前向きになり、地域の空気そのものが明るくなったと言われます。
そして重要なのは、この変化が 地域経済にも大きな波及効果を生み出した ことです。
除雪作業は多くの建設業者や関連企業の冬季の仕事を生み、新たな雇用や収入の柱にもなりました。これまで「冬は仕事が減る季節」だった地域で、定期的な業務が発生することで、働く人たちの生活も安定します。
つまり、除雪は単なる公共サービスではなく、地域の産業を支える経済活動へと成長していったのです。
「雪が降ったら我慢する」のではなく、「雪が降ったら動き出す」という発想の転換。
こうした大胆な視点の切り替えこそ、角栄の政治家としての真骨頂でした。人々の生活の痛みを読み取り、地域の未来像まで描いて政策を進める──数字では測れないほどの影響力が、そこにはありました。
政治が現実の暮らしを変えるとは、まさにこういうことなのだと感じさせられる一節です。
角栄の行動力と現場主義は、今の時代に読んでもなお驚きを与えてくれます。



