忘れたくても忘れられないマナー教室。 | MIYUKI&KAMIOのつぶやきと陶芸のブログ

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陶芸家の夫である尾形香三夫は、2022年に他界しましたが、タイトルをそのままにして、今後も夫婦の思い出を交えて、書いていきたいと思います。

MIYUKIです。

今でこそ、イタリアン、フレンチと様々な洋食を食する機会は多々あり、当然のごとくフォークとナイフを使って食事をします。

ちょっとしたランチでも当たり前のようにフォーク&ナイフの世界です。

が、この西洋スタイルが家庭に入ってきたのは何時ごろだったでしょうか?

家庭のありようで、かなりバラつきはあるでしょうが、私が小学校の低学年頃でしょうか、引出しの中に、殆ど使われないフォークとナイフが鎮座しだしたのは。

それでも、買った時ぐらいは、一応お肉を焼き、母親が、こうやって使うんだよ、と言って手本を見せてくれました。

でも、これがよろしくなかった。

有体ですが、逆に持ちましたね、フォークとナイフ。

つまり、食べる時は、右手に持ったフォークを一度肉から抜いて、食べるベく切った肉に刺し直して食べる、そんな芸当のような事を、母親は、何も知らない無垢な子供たちに伝授しました。

西洋人はなんでまたこんな面倒な食べ方をするのかと、子供心に思いました。

その間違いはほどなく気づいたのですが、これからの日本を背負っていく私たちはきちんとしたマナーを身に付けなくてはいけないと、短大生の頃、学校で行われた「和食と洋食のマナー教室」に参加することにしました。

ホテルの会場で行われた洋食のマナー教室でのことです。

私はそこに時間ギリギリに飛び込みました。

全ての間違いはここから始まりました。

中に入ってみると、会議用のテーブルかなんかにクロスを掛けたものが数列並んでいて、既にみんなは席についていていました。

一番前の席しか空いていなくて、仕方なくそこに腰掛けました。

マナーを教えて下さる先生は、みんなが揃った事を確認して、おもむろに言いました。

「今日は、配られたお料理をまずご自由に食べてください。その後に、正しい食べ方を教えます。」

内心、練習なんだから最初に教えてくれてもいいのに、と思っているやいなや、

「まず、先頭の人から料理が配られますから、先頭の人は、4、5人位まで配られたところで、食事を始めてください。礼儀として、最初の人が食べ始めたのを確認してから次の人は手を付けるように」

「ジェジェ!」(朝ドラ、「海女ちゃん」で使われる、驚いた時の東北弁。)

一番前といったら、私ではないか!私が食べ始めなければ、私のこの列の人は誰も食べれないということなのか?

私のこの一番前の席は、実はかなり過酷で責任重大な席である事に気づきました。

席順から今の私の置かれている状況を理解した時から、いや~な汗が背中を流れていくのがわかりました。

楽しいはずのフルコースの料理が、ふっと遠のいていくのを感じた瞬間でした。

機械的かつ事務的に、前菜が配られます。

お皿を覗いてびっくり。

大きな丸いお皿のせられていたのは、四角の、余りにもシンプルで見慣れた、あの四角いクラッカー。その上にサーモンか何ちゃらがわずかに乗ったものが、野菜と一緒に配られていきました。

瞬時に思った・・・これを、このクラッカーをナイフで切るのか?

辛うじて、外側からナイフ&フォークは使っていく事ぐらいは知っていた。

しかし、あのクラッカーをナイフで切っていいものなのか?

疑問を残しつつ、右隣の人が私の動きを注視していることがピリピリと感じてくる。
 
そうです、私が食べなければ、この人もお料理にありつけないのです。

私はどうにか心を落ち着かせ、おもむろに外側のナイフ&フォークを手に取りました。

躊躇しつつも、いさぎよくあのクラッカーにナイフを立てたのです。

オーマイ・ガ~!

想像以上に“カピ~ン”という音が部屋全体に響き渡る・・・そう、当然です、お皿の上のクラッカーをナイフで切ったのですから・・・

額から汗が滲んできますが、この行為はもう止められません。

しかし、どうした事でしょうか!あろうことか、その後、あちらこちらで同じようなサウンドが!

パピーン!、カシャーン!、クキーン!

まぁ、賑やかなこと。

先頭の人間の愚かしい行為が、後に続く無垢な人たちまでも汚染していく・・・そんな空しさの残る響きでした。

しかし問題は終わっていません。

この半分砕け散ったクラッカーをどのように口に運ぶのか!

ナイフ&フォークを手にしてしまった以上、いまさら素手でつまむ事は出来ません。

しばし、私はお皿の上のクラッカーを見つめました。

人間、追い詰められると何をしでかすか分かったものではありません。

私はジ~っとあの、今は砕けてしまったクラッカーのあの等間隔に開けられている小さな穴を凝視していました。

おもむろに、フォークの先端を、その穴に差し込んだのです。

これ以上砕け散ったら、その行為そのものが無駄になってしまう、緊張みなぎる瞬間でした。

深く差し込んだら砕けてしまう、浅かったら、口にまで持っていけない、その微妙な力加減で。

その時の私は、他の人が今どのようにそれを口に運んでいるのかを見る余裕さえありませんでした。

ただただ崩さないように、恐る恐る、穴にフォークを差し込む。

どれほどの時間がたったのでしょうか?

最終的には、ぐちゃぐちゃに砕けたクラッカーがお皿に残ってしまうというお粗末な結果になりました。

その後マナーの先生は苦笑いをしながら、

「このようなクラッカーの場合は、手でそのまま口に運んで下さい。ふふふ・・」

なんてこった、だから最初に教えてほしかった!

あの背筋を凍らせるような緊張は、その後も続きました。

なんとメインは串刺しのラムに下ったのです。

熱ーい串に刺さったラム肉です。

その後、可愛そうなあつあつのラム肉がどうなったかは、想像にお任せします。