- 日本人が誤解する英語 (知恵の森文庫)/マーク ピーターセン

- ¥760
- Amazon.co.jp
わたしは一向に英語力に進歩が見られないにもかかわらず、なぜか英語関係の本を次々と買ってしまう、典型的な「英語学習難民」である。言ってみれば、まるで永遠に振り向いてもらえない美女に貢ぎ続ける哀れな非リアのようなものだろう。おそらく、わたしはこれまで英語関係の本だけで20万くらい使っているはずだが、投資に見合うだけの語学力を身につけたという実感がない。これこそまさに英語コンプ市場のいい「カモ」だろう。
わたしの観察によれば、英語関係の本を買う量と語学の伸びは反比例すると思う。色々手を出す人間は間違いなく駄目だ。「サルにでもわかる」とかいう本を買う人間はもっと駄目だ。地味だが版を重ねた良書を手に入れ、じっくりと何度も何度も使うほうが絶対に語学力は伸びる。お金をかければかけるほどだめになるもの、それが英語力というか語学力の面白いところだろう。
このような英語コンプ丸出しのわたしであるが、さすがに何冊も買っていると、たまに「これはいい!」と思える英語本に出会う。本書はその中でもかなり上位にランクすべき名著中の名著である。本書は流暢な日本語で書かれているが、著者は正真正銘の米国育ちの米国人であり、彼の母語は英語だ。日本語すらわたしより達者なこの米国人が、われわれ日本人が陥りやすいポイントをじつに的確に解説してくれる。
本書の素晴らしい点は、あえて一気に書くと、「日本で英語教育を受けた人が多かれ少なかれ犯す<典型的な間違い>を、長年それを観察した英語ネイティブが、間違いのバックグラウンドにある日本の英語教育に十分思いを巡らせた上で、英語のニュアンスについて懇切丁寧に解説している」という点である。
たとえば鬼門のひとつ、「冠詞」を例にとってみよう。われわれ日本人はこの「冠詞」という概念そのものを持たないため、とりあえず適当にaをつけてみたりtheをつけてみたり、ちょっとまじめな人は可算名詞はa(an)をつけ、固有名詞にはtheをつけ・・・などと杓子定規に覚えようとしたはずだ。しかし著者は、そもそも冠詞というものの原理をつぎのように解説する:さて、the と a の基本的論理をどう見ればいいのか、考えましょう。まず、「名詞があって、そこに the を付けるか、 a を付けるか、それとも、何も付けないか、文法にのっとって決定する」というような捉え方をやめましょう。
(中略)
話すときも、書くときも、先に出てくるのは冠詞のほうで、そして、その冠詞に名詞が付きます。そればかりではなく、 the か、 a かによって、名詞の意味が変わるのです。たとえば、ネイティブ・スピーカーが喋っているとき、"I need a...a...a modem."(モデムが必要だ)と、 modem という言葉がすぐに思い出せない場合、思い出せるまでは、"a..."を繰り返します。同様に、"I need the...the...the modem."(あの例のモデムが必要だ)となることもあります。
(中略)
つまり、名詞が "a" に付くか "the" に付くかによって、その名詞が示すものが変わるわけです。言うまでもなく、ここで問題なのは"modem"に "a" を付けるのか、"the" を付けるのか、それとも何も付けないのか、いったいどれが文法的に正しいのか、なんていうことではありません。何を伝えたいのか、ということだけが問題なのです。
このように、著者はあくまで「伝えたいことはなにか」という観点で、われわれ日本人が本当に悩むポイントを丹念に解説してくれるため、中高時代、受験英語を学んでいたときに渦巻いていた「なんでだろう?」という疑問をうまく解消してくれるのだ。もちろん、英語は長い歴史を持つ言葉であり、ここで語られることが全てではないだろうが、それでも、「名詞にaをつけようかtheをつけようか」という受験英語の悩みから解放され、活き活きとした英語の論理で冠詞と付き合えるようになるわけだ。
これはまさに日本人のための英語本の真骨頂であり、すべての英語学習者が必読と言ってもいい内容だろう。個人的には、高等教育において教科書の副読本とすべきなのではと思えるほどだ。
本書はもともと集英社インターナショナルの大判本、『痛快!』シリーズとして刊行されていたものを光文社が文庫で再録したものである。いまさらあの大判の本を買う必要はないが、氏の著作には、英語学習者にはおなじみ『日本人の英語』『続 日本人の英語』(いずれも岩波新書)という名著もあるので、本書に感銘を受けた人はこちらにも挑戦すべきだと思う。内容的にはここで紹介した『日本人の誤解する英語』と重複しているのだが、やはり『日本人の英語』はもはやベストセラーを通り越して「定番」であり、こうした名著は目を通しておくべきだと思うのだ。ただし、この本を読んだからと言って英語が流暢になるわけではないのは、わたしを見れば明らかなので、その辺は十分に気をつけられたいw- 日本人の英語 (岩波新書)/マーク ピーターセン

- ¥735
- Amazon.co.jp
- 日本人の英語 (岩波新書)/マーク ピーターセン
- 続・日本人の英語 (岩波新書)/マーク ピーターセン

- ¥735
- Amazon.co.jp
- 英語の壁 文春新書 326/マーク・ピーターセン

- ¥735
- Amazon.co.jp