近年、「転職しました」的なことをブログで報告するのがはやっている(ような気がする)。これはひとえに、ネット界の重鎮であるちきりんさんが煽っているのが大きいだろう。各自色々思うところはあるのだろうが、全体的に後ろ向きな活動だなという感想は否めない。なぜいちいち聞かれてもいないのに「辞めました」というのか、正直なところ「何だかなぁ・・・」と思う人は多いのではないだろうか。
しかし、つまらない仕事や馬鹿な上司、理不尽な顧客など、日本のビジネスシーンはとかく閉塞感が漂う。隙あらば辞めたいと思っている多くのサラリーパーソンにとって、こうした言論は大いに心動かされることだろう。わたし自身、城さんやちきりんさんを中心とした「あるふぁついったらー」の有形無形の煽りに加え、昨今のSIer→Webサービスに転職しました的な風潮につい影響され、特に何の当てもなく転職してしまったクチである。ま、わたしの場合は結果的に大失敗だったのだが・・・。
思うに、成功例は巷にあふれているが、失敗例は意外にインターネット上に現れてこない(ような気がする)。これは典型的な「生存バイアス」であろう。これでは正しい情報は入ってこないのではないか。そこで、恥を承知であえてわたし自身の経験と、そこから考えたことについて軽く触れてみたい。といっても、まあ当たり障りのない範囲なので、あまり期待されぬよう。長い割に内容がないので、時間のある方だけ読んでください。
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昨今、SIerといえば非効率、低レベルの技術、ドメスティック、実装を知らない管理職・・・とまあ挙げればきりがないほどdisられまくっている業態であろう。いつも比較対象に挙がる米国の「合理的な経営」と並べると、わが国のICT産業はいかにも労働集約的で貧弱な印象を受ける。なかでも特に受託開発業界は、旧態依然とした経営のもと、一部の「プログラムを書けない」高給取りが、実際に開発の最前線に立っている人たちを不当に搾取し、業界全体として競争力を失っている、というのがだいたいの観測だろう。まあ、あながち間違ってはいないし、中の人はだいたい同じようなことを考えていると思う。もちろん例外は山ほどあるだろうが、趨勢としてSIerの現場離れ、実装離れはかなりひどいものになっていると思わざるを得ないし、大手ほどその病理は重いと感じる。
こうしたことを背景に、一部の先進的なプログラマたちは誇りあるステージを求め、続々とWebサービスの地へと旅立っていった。2008年頃から徐々にこうした動きは活発化し、いまではDeNA、GREEをはじめとしたソーシャル系、GoogleやAmazonといったWebサービス系(?)の会社に華々しく転職し、周囲の野次馬たちはみな一様に受託開発をdisる(disらない人ももちろんいますけどね)のがトレンドとなっている観がある。そしてこういう人は往々にして目立つ。いつしか、自信のない者から順に、「このビッグウェーブに乗り遅れたらヤバイ!」というような不安にかきたてられ、あせって妙な行動を起こしてしまうのではないかと思うのだ。まあ、わたしのことであるが。
わたしはこうした流れに勝手に焦り、意を決してSIerからWeb業界の末席に向けて転職に踏み切ったのだが、入った会社がいわゆる「ブラック企業」であった。このブラック企業というのもあいまいな定義だが、「日本最大のブラック就職先を知る私が教える、本当のブラック企業の見分け方」によればブラックの条件を全て満たしているので、まあブラック認定してもよいだろう。いまにして思うと、わたしが元々居た会社はどれにも当てはまっていないので、相当なホワイト企業だったのかもしれない。なんのことはない、ホワイト企業からブラック企業への転落だったわけだw。もちろん年収も大幅に下がったし、色々あって一時期無職になる羽目になって散々であった。個人的には色々と学ぶところもあり、決して無駄なだけではなかったが、客観的には明らかに「大失敗」であり、思い出すのもはばかられる。
もしかしたら他にも同じような人がいるのかもしれない。しかし、冒頭にも述べたようにこうした「失敗事例」をブログ等で敢えて語る人は少ないように思う。おそらく多くの無数の敗残者が、威勢のいいことを言いながら夢破れ、現実の前に再度自分自身と向き合わなくてはならない、そんな状況におかれているのではないかと推測する。俺はフリーランスになる、といって飛び出したがやはり受託の世界に戻るとか、生活ができないので勤め人に戻るとか・・・。悲喜こもごもであるが、やはり失敗する人には共通点があるのではないか。そこで、あくまでわたしのケースを参考にし、業界を俯瞰して、以下、転職に関して考えるべきポイント、注意すべきポイントを考えてみた。あくまでも、業界の端のほうでうごめく凡人の先例という認識で参考にしていただければ幸いである。あと、文章がへたくそなので言いたいことの半分も言えていませんw
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(1)技術力がないならSIerでがんばったほうがいい
技術力が身につかないといって焦るのは成長のためにはいいことかもしれないが、転職によって一気に技術力を身につけようと思う程度なら、現職に留まったほうがいいと思う。そもそも現在の仕事をしながらどのくらいの技術力があるかどうかくらいは、自己評価でだいたいわかるはずだ。技術力がないとわかっているなら、半年なり一年なり、いまの環境において圧倒的な成果を挙げられるようにしてから、そのとき改めて転職について考えたほうがいいと思う。
というのも、やはり旧態依然としたとはいえ、SIerだって捨てたものではないと思う。単純に記事だけ読んで業界のトレンドをわかったつもりになり、「やっぱりSIerはダメだ!」なんて一般論に終始していると、怪我をするだけだろう。まず、個人としてそれなりの成果が目に見える形で世に出ている(たとえばマイナでも何かのオープンソースプロジェクトのコミッタとして活躍しているとか、@ITに記事を書いたことがあるとか、ブログで名が売れてるとか)レベルでないなら、考え直したほうがいい気がする。少なくとも、その程度のレベルには達していないと、なかなか転職は難しいのかなと感じる。
ちなみにいまの自分の技術力がどのくらいかわからない、というレベルの人は、はじめから転職など考えないほうがいいだろう。周りにいるオッサンが駄目すぎて自分を過大評価している可能性もある。Excelもメールも満足に使いこなせないようなオッサンがいて、そういう人に「あいつら仕事できねえ!」とムカついているレベルであれば、むしろそこがその人にとってピッタリな会社である可能性のほうが高い。
(2)どうしても環境を変えたいなら外資がオススメ
それでもやはりドメ企業はいつまでたっても旧態依然、周回遅れで、このままだとヤバイ、と思っているのなら(そしてそれは事実でもあるのだが)、SIerからのチェンジという観点では、転職先は外資系を目指すのも良いかと思う。特に専門分化している外資系であれば、規模が小さくても教育にかけるコストは負担してくれることがあるようだ。報酬も大手に比べて遜色はないどころか、内資の15%~30%増しという印象である。レポートラインもはっきりしていることが多いので、評価が厳しい一方で、比較的やりやすく、やりがいもあるのではないだろうか。もちろんITコンサルや戦略系を目指すという「一昔前の王道」だってぜんぜんありだろう(なんと言っても報酬とネームバリューが段違いだ)。
また、これも個人的な感想だが、外資は結構「受け入れてくれる幅が広い」と思う(いわゆる「Up or Out」ということで、とりあえず採用してみて使えないなら解雇する、という考えなのかなと)。チャレンジしてみる価値はあると思う。
(3)安易にベンチャーに行かないほうがいい
そもそも「ベンチャーって何か?」という話はあるが、とりあえずその辺は一般的なイメージに沿った「設立10年未満の成長企業」とでもしておけばよいだろうか。ベンチャーとかスタートアップというのは、なにやら非常に魅力的に映るものである。特に、お堅い社風だったり保守的な環境で長年過ごすと、社長が同い年とか、下手したら年下で、経営陣も皆若くエネルギッシュに映るスタートアップ企業は、それだけで「何かができそうな気がする」ものである。彼らの放つ一種怪しいオーラは、キャッシュフローを気にしたこともないサラリーパーソンには毒が強すぎる。冷静な判断がつかなくなる可能性はあるだろう。
よって、もとからベンチャー企業にいて独立志向が高いとか、重要なポジションとして三顧の礼で迎えられるとか、個人的なコネクションでTech系の会社に呼ばれたとかいうケースでもない限り、SIerの人間がWeb系ベンチャーに入るのは控えたほうが賢明だと思う。特にWeb系はほとんどがベンチャー企業になると思うが、業界そのものが(顧客も含めて)特殊で、デスマーチになりやすい体質になっていると感じる。これはソーシャルゲーム開発だけでなく、Webプログラムの受託、デザインの受託なども同様だ。25歳以下、職歴3年程度であれば耐えられるだろうが、おそらく仕事を始めて10年20年の選手は適応できないのではないだろうか。
あと、これもかなり重要なことだが、ほとんどのWeb系スタートアップはほとんど受託で食っているという事実は強調しておいて損はないと思う。サービスだけで食えているのはほんの一握り。ここは強調してもしすぎないことはないでしょう。
(4)嫌だから辞めたいのか、成長したいから移りたいのかをもう一度よく考える
これが一番重要かもしれない。何かやりたいことがどうしてもあって、今の会社ではどうしてもそれができない、ということでもない限り、転職してもいいことはないのではないかと思う。どこの会社も似て非なる問題を抱えており、現実的には理想の会社というのはないだろう。どんなに素晴らしい会社だと言われているところでも、自分の適性と合わないことだってあるかもしれない。やりたいことがあるなら、まず、いまの会社で本当にできないことなのかどうか、じっくり考えてみたほうがいいし、じっくり考えた結果、今の会社が嫌だから辞めたいという理由なら、転職はまた来年にしたほうがいいと思う。
(もちろん労働強度が高すぎてブラック企業であるなら話は別。ブラック企業はどんな理由であろうと可能な限り早く逃げだすべき。金銭的な余裕があるなら辞めるべきだ。金銭的理由が原因で辞められないなら、当面の生活費を貯めて一刻も早く辞めるべきだと思う。)
まあ、迷いつつ判断を留保し続ければ、いずれ年をとり、いよいよ身動きができなくなるというのは事実。「選択しないという選択」による機会損失は当然ながら発生する。しかし、やはり「やりたいことがどうしても今の環境だとできない」という理由でないならば、もう少し考えたほうがいいと思う。
(5)それでもやはり転職してみたいなら、それはそれでアリ。失うのはお金くらい
と色々と難癖をつけてみたが、それでもまあやってみようと思うなら、無謀な転職でも変化を起こしてみるのはアリだと思う。矛盾するようだが、はっきり言って、失敗しても失うのはお金くらいのものである。むしろ、今までと違った風景が見え、お金以外のところは得るところも大きいと思う。視野も広がるだろう。人によっては、環境の変化によって初めて奮起するというパターンもあるだろう(人間は往々にして怠惰なため、必要に迫られないと本気で変化しないものだから・・・汗)。したがって、お金のことさえ気にしなければ、とりあえずやってみるというのはぜんぜん「アリ」だというのが、わたしの実感だ。労働市場は恋愛のようなものだ。つきあってみないとわからないし、他の人と付き合ってみて初めて最初の恋人のいいところ悪いところも見えてくる。
まあ、そもそも目先の生活費が気になるなら、転職などやめて社内で出世する道を考えたほうがいいだろう。そのほうが圧倒的にリスクが少ないし、そういうマインドセットだと転職はあまりうまくいかないような気がする。
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いきなり飛躍するが、以上述べてきたようなことは、誤解を恐れず言えば、凡人向けのライフハックである。したがって、世の中を変えるような熱い思いを持ち、かつ実際に行動力を持っているのであれば、ここに書いたような「凡人ライフハック」は無視して、もう自分の思うがままに行動してもらいたいと思う。やはり行動を起こす人が社会を活性化し、雇用を生んでいるのだ。会社を作る人、経営する人は尊い。人を雇う人はもっと尊い。しかしそういうことができる人は一握りだ。だから、できる人はぜひやって欲しい。無責任な発言かもしれないが・・・。
もちろん、できないからと言って卑下することはなく、できない人はできない人なりに精進すればいいのだと思う。起業やフリーランス、新しい働き方を目指せばいいというものでもないし、サラリーパーソンとして仕事を続けることが馬鹿だというのも乱暴な議論だ。要するにプロフェッショナルの意識を持ち、顧客や社会に対して誠実に事業を行っていれば、それはそれで十分尊いのだとわたしは信じている。しかし、やはりある一定数の人が仕事を作り、会社を興し、人を巻き込んでくれないと、凡人は居場所を失ってしまう・・・・・・。
・・・・・・などと書いていたら「起業論」みたいになってきた。本旨とずれているし、このへんの大上段の議論はわたしには手に余るので、このへんでやめておこう。だいたい、転職の話だったはずなのにw
以上、わたしの偏見で色々書いてみたが、まあ結局は自分の人生、自分で選んで生きていくしかないということで、やや尻切れながらも筆を措くことにします。この駄文が何かの参考になれば幸いです。これからもお互い精進していきましょう。