物乞う仏陀 | One of 泡沫書評ブログ

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すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

物乞う仏陀 (文春文庫)/石井 光太
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世界の、特にアジアを中心に、貧困地帯をまわって取材を元に書いた、いわゆるルポタージュである。タイトルと概要だけ聞くと、「ああ、そういう本ね」と、左回りの説教臭さが目に浮かんでウンザリしてしまうかもしれないが、この本にはそういう要素はほとんどない。どちらかというと淡々としすぎていて、逆に色々考えてしまう本である。

こういう貧困に興味を持つのはよいことだと思うし、豊かさの意味を考える上でも、他国の実態を知るというのは意味がある。しかし、そこから転じて妙なヒューマニズムに陥ってしまうのはただのアホだ。日本のような世界でもっとも社会インフラが整備されている国に住んで、それ自体に罪悪感を感じてしまうのは、左翼的人間がつい陥ってしまう偽善だ。つい道徳的なことを言いたくなったり、価値判断をしたくなる気持ちはわかるが、そこをぐっと堪えるのがプロというものだろう。本書はこうした読者のわがままなニーズ(?)に応えてくれる稀有な本である。

貧困とか差別というのは、結局は国そのものが貧しかったり、再配分のシステムがうまくいってなかったりするなど、一義的には経済問題であろう。これを倫理観の欠如(もちろんこれも大きな原因のひとつではあるが)に大きな原因を求めるのは小学校とかでやる道徳教育の悪しき弊害だろう。われわれのような先進国は、まずは自国の貧困や再配分のまずさについて取り組むべきであり、その上でこうした外国の貧困の解決に手助けするなら、経済成長のノウハウや、社会インフラの仕組み、作り方を教えてあげることが人道的だし合理的だと思う。たとえば、ポール・ローマー氏のように「しくみ」を提供するべきだ。実際に何とかするのは、そこに住んでいる人たちなのだから。

(もちろん、地雷除去の機器や医療用機器、医療品などの物的支援がまるで無駄だと言っているのではない。こういうことに従事することは尊いが、「一方で豊かさと安全に慣れた日本人は・・・」とつい言ってしまうことの愚かさに対して文句を言っているのである。気持ちはわかるが、それを言ってしまうと全て台無しだ。)

そういう意図を持ってわたしは本書を読んだが、その意味で出来はかなりよいと思う。しかし本書はデビュー作ということもあり、やや肩に力が入っているのは否めない。むしろ次に紹介する『絶対貧困』のほうがいい意味でライトであり、完成度としては高いと思う。ルポライタとしての著者の成熟さを感じさせる。オススメ。


絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)/石井 光太
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