マイクロソフトで学んだこと、マイクロソフトだからできること | One of 泡沫書評ブログ

One of 泡沫書評ブログ

世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

マイクロソフトで学んだこと、マイクロソフトだからできること。/樋口 泰行

¥1,680
Amazon.co.jp

著者の経歴を見たら実にチートだ。大阪大学を出て松下電器に入るところまではまだ「まとも」なキャリアだが、そこからは典型的な外資ジョブホッパーとして漫画みたいなキャリアを積んできている。

この本を読んだ感想はひとつ。「マイクロソフトのような超巨大企業の経営者など普通の人間にはできない」ということだ。ここまで高密度なハードワークを、50歳を超えてやれと言われて、出来る人がいるだろうか? 少なくとも年次で上がってきました的なキャリアだと「ちょっと、ごめんなさい」という感じではないだろうか。

たとえば、マイクロソフトには「ミッドイヤーレビュー」なるイベント(?)があるらしい。こんな感じだ。

―――マイクロソフトの決算期は6月。つまり、新しい期は7月に始まるが、そのちょうど真ん中に位置する1月がミッドイヤー。ミッドイヤーレビューは、その1月に米国本社の経営幹部と世界中の現地法人や事業部門との会議である。これが半端なものではないのだ。

米国の幹部はCOOのケヴィン・ターナーを筆頭に40人ほどが顔を揃える。それに対して1国30人ほどのチームが、その国の政治状況も含めた経営環境を報告。それにどんな戦略で向かうかを発表し、質疑を受け、侃々諤々のディスカッションを行う。(中略)これが1国につき丸1日がかりなのだ。どんなに短くても8時間。長引けば日付が変わり、10時間以上になることもある。ちなみに私が初めて参加した2008年度は12時間。2009年度は8時間だった。(68ページ)


この後、いかにミッドイヤーレビューの内容が「濃い」のかの記述が続くわけだが、なんとまだこれは序の口で、日本法人の社長としての本番はこの後に続く「ワールドワイドレビュー」というのに参加しなければならない。これは、各国のレビューを行ったCOOのケヴィン・ターナーが、CEOのスティーブ・バルマーのレビューを受けるというものだ。ターナーの後ろには樋口氏を含む世界の13エリアの代表、および本社の各事業部のトップが50人ほど控えており、バルマーとガチンコでレビューするというイベントだという。しかも、なんとこのレビューはほとんどぶっ続けで丸2日かけてやるという凄まじさだ。

読んでいるだけで気分が悪くなった。ワールドワイドで売上高6兆円クラスとなればこのくらいやって当たり前、という意見もあろうが、やはりこういうことができる企業はまれだと思う。そして、ここまでやっていながら、モバイル、スマートフォン市場では完全に出遅れているという事実に、グローバルなビジネスの恐ろしさを痛感する。(まあ、マイクロソフトは、コアビジネスの「Windows」でめっちゃ儲かってるんでしょうけど)

出自は完全な「外資系」である樋口氏だが、経営にあたっての想いはどちらかというと「昔ながらの日本的なマインド」という印象を受けた。うまく表現できないが、どちらかといえば「古き良き日本」の働き方と言えばいいのだろうか。少なくとも「外資系」のスマートでドライなビジネス、というステレオタイプな印象ではない。ビジネスというのは、出自に関わらず、マーケットに対する誠実さと謙虚さをもって、地道な信用を継続してつくっていくしかないのかということなのかもしれない。

それにしても、今とはビジネス環境も会社の規模も違うだろうが、かつてこの会社に成毛さんがいたというのがちょっと信じられないw